【全滅】(ぜんめつ)

annihilate.

ある特定の用途・目的に利用できる資源や人材が何一つ残っていない状態。
日本語では「壊滅」と呼ぶ事もあり、他者を全滅させる事を「殲滅」と言い換える事もある。

軍事において「全滅」という場合、基本的には「部隊に戦える人間が誰もいなくなった状態」を指す。
無論、実際にそのような事態が発生する最大の原因は戦闘による損害である。

ただし、これは普通、部隊を構成する人間が皆殺しにされた事を意味しない。

便宜的な用法

軍事における「全滅」という言葉は、以下のようなケースで用いられる。

MIA
司令部との連絡が途絶えた部隊は、所在が判明するまで全滅したものと仮定される。
ECM、通信機器の破損、敵前逃亡撤退後送に際しての混乱など、命令系統が麻痺する原因は多い。
部隊全員が失踪したまま発見されず、後年まで真相のわかっていない事例も希にある。
降伏
降伏して捕虜になった部隊は「戦えない」ので全滅とみなされる。
作戦能力の喪失
人員は残っていても、規定の作戦行動を完遂できない部隊は全滅とみなされる。
これは普通、作戦に必要な兵站が破壊されたか枯渇した事を意味する*1
KIA
残念ながら、部隊の人員が一人残らず殺害される事もあり得る。
一個師団全てが殺されるのは希な事だが、ライフル分隊が全滅した時には生存者ゼロでもおかしくない。
また、テロリズムにおいては降伏を認めず捕虜全員を略式の処刑とする事もある。
宗教や民族的対立から、殺戮そのものが紛争の目的となる場合もある。

通常、こうした全滅判定は一時的なものであり、後方での再編成によって戦力を取り戻すものと期待される。
ただし、兵站や制度上の事情から部隊再編成が断念される可能性もある*2

指揮官の判断基準としての「全滅」

以上からもわかるように、一言で「全滅」と言っても損害の程度は様々である。
部隊は全滅が不可避でも、あるいは全滅した後でも、損害を避けるために努力する必要がある。
そして普通、作戦計画で予定された戦果を得る事と、全滅を想定して防御撤退する事は両立しない。

よって、指揮官には全滅の兆候を事前に察知する判断力が求められる。
これは決して容易な事ではなく、十分な教練を受け、演習を繰り返す必要がある。

戦場で混乱の中にいる当事者が何をもって全滅と判断するかは、もちろん個々の状況による。
しかし一般的原則として、どの程度の戦力が残存しているかが判断基準となる。

ここでの「戦力」とは、ある指揮官が指令を与える直接の部下1名を基本単位とする。
中隊長の視点で見るなら配下の小隊長、戦闘機編隊なら個々のパイロットが問題となる。

劣勢に陥った部隊の勝機は漸減するため*3、指揮官は皆殺しにされる前のある時点で敗北を確信する。
それがどの時点かは個々の状況によるが、基本的には損耗率30%程度が勝利を望める限界とされる。
もちろん、有能な指揮官は実際に30%の損耗が確認される前に全滅を覚悟して方針を転換する。

戦場からの状況報告はしばしば報告者自身の現実逃避や希望的観測と混同される。
上級指揮官まで報告が上がる損害状況は、実際には氷山の一角に過ぎないというのが実情である。
確認できるだけで30%を喪失しているなら、実際には完全に全滅していて手遅れかもしれない。

ただし、これは増援の到着が望めず、またそもそも撤退が可能である場合にのみ適用される判断基準である。
状況によっては最後の一人まで死守を続ける事もあり得るし、逆に無血の降伏も起こりえる。


*1 燃料の尽きた飛行場、機体を失ったエビエーター、撃沈された艦艇の乗員、砲弾備蓄の尽きた砲兵など。
*2 例えば、1個師団のほぼ全員がKIAとなった場合、その師団はもはや再建不可能とみなされる。
  仮に行動可能な状態で生き残っている将兵がいたとしても、比較的欠員が少ない他の部隊に組み込んで再編成したほうが合理的であろう。

*3 ランチェスターの第二法則によれば、彼我の戦力差は時間経過と共に拡大していくものとされる。

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