【潜水空母】(せんすいくうぼ)

潜水艦の一バリエーションで、航空母艦と同様に複数の航空機を搭載・運用する能力を備えた艦。

爆弾航空魚雷などを積んだ艦載機によって、潜水艦に地上・水上目標への攻撃力を与えようというもので、実在する艦でいえば戦略潜水艦、または巡航ミサイル艦対艦ミサイルを搭載した攻撃潜水艦がこれに近しいものと見られる。


潜水艦航空機の運用能力を持たせること自体は古くから研究されており、1920年代後半〜1930年代には旧日本海軍において、水上偵察機を搭載した艦が出現した*1
日本では潜水艦の利用法として「艦隊決戦において、主力艦同士の交戦に先立って必要となる敵艦隊の動向探知」を想定していたが、この際に索敵できる範囲を拡大するため、1〜2機の水上偵察機を搭載することとしたものである。

大東亜戦争では、日本が当初想定していた「主力艦隊同士の正面からの撃ち合い」という形での艦隊決戦こそ起こらなかったが、これら航空機を搭載した潜水艦は、航続距離の長さを活かしたゲリラ的な攻撃に用いられ、相応の戦果を挙げた*2
そして、戦争後期にはこれを発展させる形で「晴嵐」水上攻撃機を3機搭載した「伊400?」型という艦も登場。
(就役が終戦直前になったため)実戦での戦果こそ上げられなかったものの、そのコンセプトは、戦後になってアメリカやソ連などの各国で生まれた戦略潜水艦に発展する基となり、また、わが国では「潜水空母」という異名も与えられた*3


こうした経緯から「仮想戦記」などのフィクションで「敵の探知網をかいくぐって艦載機を発進させ、重要拠点に痛撃を与える兵器」として潜水空母が描写されることもあるが、実際には様々な問題点があるため、現実の艦として潜水空母が開発・建造されたことはない。

「潜水空母」の技術的問題点

現代の技術で、固定翼機を運用できる潜水艦――潜水空母を建造したとした場合、その問題点として考えられるのは次のようなものと見られる。

  • 耐圧船殻が大型化し、速力や水中機動力が鈍る。
    これは現実の戦略潜水艦とも共通する。
    そのため、あまり遠洋に進出することが出来ず、味方水上艦航空機の援護の下での運用を余儀なくされるものと見られる。

  • 搭載する艦載機は、(一般の航空母艦に搭載するものよりも)機体を極端に小型化する必要があり、航続距離ペイロードに制限がかかる。
    一般の戦闘機攻撃機マルチロールファイター)を搭載しようとすれば耐圧船殻の肥大化が更に進むし、それを嫌うなら機体を出来る限り小型に作る必要がある。
    そうなると、極端な話無人機にした方がよい、ということにもなろうが、そうであれば、普通の潜水艦にミサイルを積む方が効率的であろう*4

  • 艦載機を使用するためには浮上する必要があり、敵に発見・攻撃されるリスクが非常に高い*5
    そのため、発進した艦載機が任務を終えた後、母艦である潜水空母に再度着艦することも極めて困難で、艦載機特攻に近い飛行を余儀なくされる*6

*1 第一号は1927年就役の「伊号第五潜水艦」。
*2 この中には、2012年現在に至るまで唯一となる「外国軍機によるアメリカ本土への空爆」を成し遂げた艦もある。
*3 ただし、伊400型で実際に運用されていたのは水上機であったため、同型は「潜水水上機母艦」と呼んだ方が実態に近しいと思われる。
*4 対艦ミサイル巡航ミサイルであれば、(魚雷と口径を同じにした)ロケットブースター付の耐圧カプセルに弾体を詰め、魚雷発射管に装填して撃つことも出来る。
*5 特に敵の制海権が及んでいる海域であれば尚更。
*6 攻撃後、敵国領空を突っ切って友好・同盟国の基地に着陸するか、母艦が潜航している海域上空で乗員が射出座席を使って脱出し、機体を投棄するかのいずれかとなる。

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