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*&ruby(せんすいくうぼ){【潜水空母】}; [#qb092a18]
[[潜水艦]]の一バリエーションで、[[航空母艦]]と同様に複数の[[航空機]]を搭載・運用する能力を備えた艦。~
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[[爆弾]]や[[航空魚雷]]などを積んだ[[艦載機]]によって、潜水艦に地上・水上目標への攻撃力を与えようというもので、実在する艦でいえば[[戦略潜水艦]]、または[[巡航ミサイル]]や[[艦対艦ミサイル]]を搭載した攻撃潜水艦がこれに近しいものと見られる。~
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[[潜水艦]]に[[航空機]]の運用能力を持たせること自体は古くから研究されており、1920年代後半〜1930年代には旧日本海軍において、[[水上>水上機]][[偵察機]]を搭載した艦が出現した((第一号は1927年就役の「伊号第五潜水艦」。))。~
日本では潜水艦の利用法として「[[艦隊決戦]]において、主力艦同士の交戦に先立って必要となる敵艦隊の動向探知」を想定していたが、この際に索敵できる範囲を拡大するため、1〜2機の[[水上>水上機]][[偵察機]]を搭載することとしたものである。~
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[[大東亜戦争]]では、日本が当初想定していたような艦隊決戦こそ起こらなかったが、これら航空機を搭載した潜水艦は、[[航続距離]]の長さを活かした[[ゲリラ]]的な攻撃に用いられ、相応の戦果を挙げた((この中には、2012年現在に至るまで唯一となる「外国軍機によるアメリカ本土への[[空爆]]」を成し遂げた艦もある。))。~
そして、戦争後期にはこれを発展させる形で「晴嵐」水上攻撃機を3機搭載した「[[伊400]]」型という艦も登場。~
(就役が終戦直前になったため)実戦での戦果こそ上げられなかったものの、そのコンセプトは、戦後になってアメリカやソ連などの各国で生まれた[[戦略潜水艦]]に発展する基となり、また、わが国では「潜水空母」という異名も与えられた((ただし、伊400型で実際に運用されていたのは[[水上機]]であったため、同型は「潜水水上機母艦」と呼んだ方が実態に近しいと思われる。))。~
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こうした経緯から「仮想戦記」などのフィクションで「敵の探知網をかいくぐって艦載機を発進させ、重要拠点に痛撃を与える兵器」として潜水空母が描写されることもあるが、実際には様々な問題点があるため、現実の艦として潜水空母が開発・建造されたことはない。~
かつて構想されていた、[[航空母艦]]としての[[艦載機]]運用能力と[[潜水艦]]の潜航能力を兼ね備える[[艦艇]]。~
現存しない艦種だが、その設計思想は現代の[[戦略潜水艦]]・[[攻撃潜水艦]]に受け継がれている。~

**「潜水空母」の技術的問題点 [#m302ce13]
現代の技術で、[[固定翼機]]を運用できる潜水艦――潜水空母を建造したとした場合、その問題点として考えられるのは次のようなものと見られる。~
>本項で「潜水空母」と称する艦は全て[[水上機]]を運用するもので、[[飛行甲板]]を持っていない。~
一般に[[航空母艦]]の要件とされる「[[飛行甲板]]を有して[[艦上機]]を運用する」能力を持つ[[潜水艦]]は建造された事がない。~
従って、厳密に考えるなら「潜水空母」なる艦種は歴史上一度も建造された事がない、という見解が定説である。

-耐圧船殻が大型化し、速力や水中機動力が鈍る。~
これは現実の[[戦略潜水艦]]とも共通する。~
そのため、あまり遠洋に進出することが出来ず、味方[[水上艦]]や[[航空機]]の援護の下での運用を余儀なくされるものと見られる。~
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-搭載する[[艦載機]]は、(一般の[[航空母艦]]に搭載するものよりも)機体を極端に小型化する必要があり、[[航続距離]]・[[ペイロード]]に制限がかかる。~
極端な話になると[[無人機]]にした方がよい、ということになろうが、それならば普通の潜水艦に[[ミサイル]]を積む方が効率的であろう(([[対艦ミサイル]]や[[巡航ミサイル]]であれば、([[魚雷]]と口径を同じにした)ロケットブースター付の耐圧カプセルに弾体を詰め、魚雷発射管に装填して撃つことも出来る。))。~
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-[[艦載機]]を使用するためには浮上する必要があり、敵に発見・攻撃されるリスクが非常に高い((特に敵の[[制海権]]が及んでいる海域であれば尚更。))。~
そのため、発進した[[艦載機]]が任務を終えた後、母艦である潜水空母に再度収容することも極めて困難で、[[艦載機]]は[[特攻>特別攻撃]]に近い飛行を余儀なくされる((攻撃後、敵国[[領空]]を突っ切って友好・同盟国の基地に着陸するか、母艦が潜航している海域上空で乗員が[[射出座席]]を使って脱出し、機体を投棄するかのいずれかとなる。))。
**概史 [#g9efcd3a]
潜水空母という兵器は、実用的な[[潜水艦]]と[[航空機]]が出現した20世紀初頭から、各国の[[海軍]]で研究対象になっていた。~
実用化されたのは1932年、[[大日本帝国海軍>日本軍]]が就役させた「伊号第五潜水艦」に[[カタパルト]]と[[飛行機]]格納筒(格納庫)が備えられ、世界初の「航空機を搭載する潜水艦」となった。~
これは[[艦隊決戦]]に先だつ[[偵察]]任務を想定されたもので、日本では以後も同様に[[水上偵察機>偵察機]]を搭載した潜水艦が作られていった。
>なお、この設計思想で実用化レベルまで辿り着いたのは日本のみである。~
(あるいは「この過ちを犯したのは日本だけだった」と評するべきなのかもしれないが)

しかし、実戦では[[航空主兵主義]]が台頭し、[[空母>航空母艦]][[艦載機]]の[[航続距離]]が当初の想定以上に進化。~
あえて[[潜水艦]]に戦場偵察を行わせる意味は失われ、遊兵と化した「航空機搭載潜水艦」は([[通商破壊戦]]など)[[一撃離脱>ヒットアンドアウェイ]]の[[ゲリラ]]的用法に用いられた。~
また、大戦末期にはここから発展し、[[攻撃機]]を数機搭載した「[[伊号第四〇〇潜水艦>伊-四〇〇]]」も建造された。

>これら「航空機搭載潜水艦」があげた特筆すべき戦果として、1942年9月に日本海軍の「伊号第二十五潜水艦((本艦はこれに先立つ1942年6月、オレゴン州アストリア市郊外のフォート・スティーブンス陸軍基地(なお、本艦はここを「潜水艦の基地」と誤認していたという)への艦砲射撃も行っている。&br;  これも2024年現在、アメリカ合衆国史上最後の「''外国の正規軍による''アメリカ本土の軍事基地への攻撃」となっている。))」が実施した「アメリカ本土空襲」がある。~
アメリカ大陸西海岸に接近した同艦から発進した「[[零式小型水上偵察機]]」が、オレゴン州ブルッキングスの森林に[[焼夷弾]]を投下して火災を発生させている。~
被害こそ小規模なものであったが、これは2024年現在に至るまで、アメリカ合衆国史上唯一の「''外国の正規軍が運用する航空機によって行われた''アメリカ本土空襲」である。

この戦果は各国の[[海軍]]に貴重な[[戦訓>バトルプルーフ]]を与え、次代の[[潜水艦]]運用思想に「飛翔体の搭載母艦」というヒントを与えた。~
しかし、「潜水艦からの飛翔体運用」は各種[[ミサイル]]によって実現され、有人[[航空機]]を潜水艦に搭載するという思想は途絶えた。~
>戦後、アメリカで[[F2Y「シーダート」>F2Y]]ジェット[[水上戦闘機]]を搭載する潜水空母が構想されたが、F2Yの開発中止に伴って構想のみで終わっている。

**兵器としての評価 [#k156a16d]
現在、潜水空母の兵器としての評価は「実用性皆無な、夢想に類するもの」という見解でほぼ確定している。~
[[航空母艦]]と[[潜水艦]]は両者とも[[ペイロード]]への負荷が甚大で、技術的に両立が困難である。~
また、[[航空母艦]]と[[潜水艦]]の特性自体が根本的な段階で[[相互に排他的な関係>トレードオフ]]にあり、両立はほぼ不可能に近い。~
>潜水艦は船体が大きいほど騒音を発生させやすいが、航空母艦として運用するなら[[固定翼機]]を収納可能な船体サイズを確保しなければならない。~
また、隠密性が最大の武器である潜水艦が浮上して爆音を出す[[艦載機]]を発着艦させれば良い的である。

[[戦術]]的に考えて、「水中に潜伏する事」と「[[飛行機]]を[[離陸]]させ、その帰還を待つ事」はふつう両立しない。~
1940年代までは潜水艦を探知する技術が未発達であったため、それらが本来両立し得ないのだと発覚する事もなかった。~
しかし、現代では綿密な対潜・対空警戒網が敷かれており、敵地近海で浮上する事自体が自殺行為に近い((このため、現代の[[戦略潜水艦]]も基本的に本土を遠く離れた遠洋へ進出することはないといわれており「搭載する[[弾道ミサイル]]の射程距離を伸ばす」「ミサイル発射筒を[[コールドローンチ]]にする」ことで対応している。))。


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