【潜水空母】(せんすいくうぼ)

かつて構想されていた、航空母艦としての艦載機運用能力と潜水艦の潜航能力を兼ね備える艦艇
現存しない艦種だが、その設計思想は現代の戦略潜水艦攻撃潜水艦に受け継がれている。

本項で「潜水空母」と称する艦は全て水上機を運用するもので、飛行甲板を持っていない。
一般に航空母艦の要件とされる「飛行甲板を有して艦上機を運用する」能力を持つ潜水艦は建造された事がない。
従って、厳密に考えるなら「潜水空母」なる艦種は歴史上一度も建造された事がない、という見解が定説である。

概史

潜水空母という兵器は、実用的な潜水艦航空機が出現した20世紀初頭から、各国の海軍で研究対象になっていた。
実用化されたのは1932年、大日本帝国海軍が就役させた「伊号第五潜水艦」にカタパルトと飛行機格納筒(格納庫)が備えられ、世界初の「航空機を搭載する潜水艦」となった。
これは艦隊決戦に先だつ偵察任務を想定されたもので、日本では以後も同様に水上偵察機を搭載した潜水艦が作られていった。

なお、この設計思想で実用化レベルまで辿り着いたのは日本のみである。
(あるいは「この過ちを犯したのは日本だけだった」と評するべきなのかもしれないが)

しかし、実戦では航空主兵主義が台頭し、空母艦載機航続距離が当初の想定以上に進化。
あえて潜水艦に戦場偵察を行わせる意味は失われ、遊兵と化した「航空機搭載潜水艦」は(通商破壊戦など)一撃離脱ゲリラ的用法に用いられた。
また、大戦末期にはここから発展し、攻撃機を数機搭載した「伊号第四〇〇潜水艦?」も建造された。

これら「航空機搭載潜水艦」があげた特筆すべき戦果として、1942年9月に日本海軍の「伊号第二十五潜水艦*1」が実施した「アメリカ本土空襲」がある。
アメリカ大陸西海岸に接近した同艦から発進した「零式小型水上偵察機」が、オレゴン州ブルッキングスの森林に焼夷弾を投下して火災を発生させている。
被害こそ小規模なものであったが、これは2018年現在に至るまで、アメリカ合衆国史上唯一の「外国の正規軍が運用する航空機によって行われたアメリカ本土空襲」である。

この戦果は各国の海軍に貴重な戦訓を与え、次代の潜水艦運用思想に「飛翔体の搭載母艦」というヒントを与えた。
しかし、「潜水艦からの飛翔体運用」は各種ミサイルによって実現され、有人航空機を潜水艦に搭載するという思想は途絶えた。

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兵器としての評価

現在、潜水空母の兵器としての評価は「実用性皆無な、夢想に類するもの」という見解でほぼ確定している。
航空母艦潜水艦は両者ともペイロードへの負荷が甚大で、技術的に両立が困難である。
また、航空母艦潜水艦の特性自体が根本的な段階で相互に排他的な関係にあり、両立はほぼ不可能に近い。

戦術的に考えて、「水中に潜伏する事」と「飛行機離陸させ、その帰還を待つ事」はふつう両立しない。
1940年代までは潜水艦を探知する技術が未発達であったため、それらが本来両立し得ないのだと発覚する事もなかった。
しかし、現代では綿密な対潜・対空警戒網が敷かれており、敵地近海で浮上する事自体が自殺行為に近い*3


*1 本艦はこれに先立つ1942年6月、オレゴン州アストリア市郊外のフォート・スティーブンス陸軍基地*2への艦砲射撃も行っている。
  これも2018年現在、アメリカ合衆国史上最後の「外国の正規軍によるアメリカ本土の軍事基地への攻撃」となっている。

*2 なお、本艦はここを「潜水艦の基地」と誤認していたという。
*3 このため、現代の戦略潜水艦も基本的に本土を遠く離れた遠洋へ進出することはないといわれており「搭載する弾道ミサイルの射程距離を伸ばす」「ミサイル発射筒をコールドローンチにする」ことで対応している。

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