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【戦争神経症】 †
戦場において、苛酷な環境に晒された兵士が強度のストレスから精神に深刻なダメージを受け、それによってさまざまな障害を引き起こす心の病気。
「シェル・ショック」「戦場ノイローゼ」などという別名がある。
医学的にはかつて「心的外傷後ストレス障害(PTSD)」と呼ばれる症状の一種に分けられていたが、近年では研究が進み、一般的なPTSDとは別個の症状とされている。
近代に入って、「列強」と呼ばれた国々を中心に「国家総力戦」思想が広まり、徴兵制が採用されてより多くの国民が戦争に関わるようになったが、科学技術の進歩によって兵器の破壊力が増大したこともあり、最前線の戦場では、平和な市民生活では到底味わうことのない強度のストレスに常時晒されることになる。
戦争においてこの病気が知られるきっかけになったのは、やはり強いストレスに晒された塹壕戦だった*1。
しかし、これらによって兵士が受ける「心の傷」については、第二次世界大戦の頃まではどこの国でも真剣に取り上げられることはなかった。
当時、戦場でこの症状に罹患した患者は、
- 「『臆病者』『いくさ度胸がない』などとして上官や戦友によって強制的に戦闘参加」
- 「『敵前逃亡』や『命令不服従』と看做されて軍法会議で処罰(実質的にはその場で射殺となることが多かった)」
- 「(兵士や国民の士気を落とさないために)廃兵院へ終身隔離」
などという対応が取られることが多かった。
現在では「戦傷者」として扱われることが多いが、症状の度合によっては、脳機能に重大かつ不可逆的なダメージを及ぼすため、(「一生、ひとりで食事を取ることすらできなくなる」など)社会復帰が極めて困難になってしまうケースもあるといわれている。
ベトナム戦争に従軍したアメリカ軍の帰還兵や1980年代のアフガニスタン侵攻戦に従軍したソ連軍の帰還兵に多く発症、それぞれの国で(凶悪犯罪やドラッグ・アルコール中毒などの)深刻な社会問題を引き起こした。
こうした経緯から、現在では戦局を左右する重大な要素のひとつ*2という認識が浸透しつつあり、部隊に精神医学の専門家が従軍することも多くなっている。
2000年代に入ってからの日本でも、9.11事件後に勃発した「対テロ戦争」に伴う多国籍軍艦船への給油支援に海上自衛隊の艦船が派遣されたり、イラク戦争後の「復興支援活動」に陸上自衛隊・航空自衛隊が派遣されたりするなど、自衛隊の海外活動が本格化したことにより、これらの活動に参加していた自衛官の間にも類似の症状が発症、帰国後に自殺した者も出ている、という報道もある。
*1 当時、塹壕に対して有効な攻撃手段であった迫撃砲の砲弾の爆発音に過敏に反応する兵士がいたことから、「シェル(砲弾)・ショック」の語源にもなった。
*2 将兵の士気への影響もさることながら、(きちんとしたケアがなされないまま)「傷病除隊」扱いで一般社会に帰ってきた患者の存在が、厭戦機運の醸成や反戦運動のきっかけとなる恐れもある。