【戦術核兵器】(せんじゅつかくへいき)

戦場で通常兵器と同じ用法で使用する事を想定された核兵器
一般に核兵器の中では比較的威力の低いものを指すが、実際の分類は運用方法や射程による。
ミサイルロケット弾航空機で投下する爆弾、車載や設置型の無反動砲、果ては地雷に至るまで、様々なバリエーションが存在する。

冷戦時代、核兵器による抑止力を小規模な戦争にも適用する事を目的として製造された。
ただし、この目論見は成功しなかったというのが一般的な見解である。
戦術核が実戦で使用された事はなく、また通常兵器による戦争を抑止したとも考えにくく、戦略核兵器と全く同じ政治的制約が課せられた。

戦術核兵器は相互確証破壊に抵触しない一方的な核攻撃が可能な状況でなければ使用できず、そしてそのような政治状況が生じた事はない。
核兵器には特有の倫理的・戦略的問題が存在し、どのような勢力が何時何処で使用しても全面核戦争を引き起こす危険性がある。

また、核弾頭は危害半径が広大、かつ残留放射能が土地の利用を妨げるという、紛争の手段としてかなり致命的な欠陥を持つ。
放射性物質の飛散による被曝のリスクまで含めて考えた場合、どう運用しても民間や味方に危害を及ぼす事が避けられない。

余談だが、戦術核はその背景にある思想が比較的単純であるため、フィクションとして描写される機会が多い。
戦略核兵器の運用、および現実的に起こりえる核戦争は極めて複雑かつ特異な状況であり、劇的に演出する余地はほとんどない。
このため、核兵器がただ単に強力な爆弾としてのみ描写され、被曝の現実があえて無視される(あるいは著者が無知である)作品は数多い。
そして、被曝に関する無知と楽観視はフィクションに特有の現象ではなく、現実の戦術核兵器の設計運用においても同じ過ちが生じていた。
実際問題、1960年代以前に「原子力」を取り扱ったものは、創作にせよ実際の核技術にせよ、総じて被曝に関して無知である。
放射線に関する医学的知見は、その当時まだ十分に集積・確立されてはいなかった。


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