*&ruby(せいあんていかんわ){【静安定緩和】}; [#m4ef0b6c]
Relaxed Static Stability(RSS)~
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[[航空機]]を設計する際、機体の[[静安定性]]を意図的に劣化させる事。~
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静安定緩和された機体は総じて不安定になり、航行中に無軌道に揺れ動くようになる。~
大きく短い振れ幅で、姿勢が乱れたまま収拾が付かなくなる危険な挙動である。~

>基本的にはどんな乗り物も放っておけば無軌道に揺れ動く。~
しかし、[[静安定性]]が高ければ揺れ幅が自然と収まり、姿勢の変化も小さく留まる。~
特に[[飛行機]]は典型的に水平角度で安定し、自然と前進方向に戻っていく。~
しかし、[[静安定性]]の値が極端に低い場合、そのような安定は全く期待できなくなる。

これを直進させるために、[[アビオニクス]]による毎秒数十回以上の自動操舵を行う。~
実際の操舵も[[フライバイワイヤー]]で仲介され、全ての操作を逐一[[アビオニクス]]が補正する。~
これにより、正常な[[巡航>巡航速度]]能力を維持したまま、危険な挙動を容易く行う[[運動性]]を獲得できる。~
ただし、電子的トラブルが発生すると制御回復が困難で、大抵は[[ベイルアウト]]するしかなくなる。~
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1960年代から、[[戦闘機]]の[[運動性]]の限界を突破する試みとして研究が開始され、1974年の[[F-16]]で初めて実用化された。~
この技術の実用化によって全て人力で制御していた時代の安定した飛行を第一にした設計から解放され、求める性能のために安定性を犠牲にした自由な機体設計が可能となった。((つまり、現代の飛行機の多くは飛行機なのに全く飛べない不自然な形をしていると言える。))~
現代では[[戦闘機]]設計の基本原則となり、現行の戦闘機のほぼ全てに採用されている。~
一方、[[ベイルアウト]]の機構を持たない[[旅客機]]などでは採用されない。~
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また、不安定な状況で飛行を維持する制御技術は多くの[[航空機]]に応用されている。~
[[ステルス]]性を確保する場合など、機体形状の自由度を高めるために静安定緩和の技術が用いられている。~
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関連:[[CCV]] [[負の安定性]]

**静安定性と運動性 [#hb9c79dc]
[[静安定性]]は機体を風雨や振動などから守り、安定した[[巡航>巡航速度]]を可能にする。~
[[静安定性]]は凧から[[飛行機]]に至るまで、人間が操作して空を飛ぶ際は必要不可欠な作用である。~
[[静安定性]]が低いという事は、同じ状況でもより大きく揺れ動き、[[失速]]しやすく、[[墜落]]しやすいという事である。~
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その一方で[[静安定性]]は操舵を阻害し、[[離陸]]・[[着陸]]・[[マニューバー]]などを困難にする。~
静安定性を落とせば、機体は振動や風などの些細な原因で大きく姿勢や軌道を変えるようになる。~
操舵に対しても機敏に反応し、[[運動性]]が向上し、緊急時の操作をより俊敏に行えるようになる。~
しかし、些細な原因で揺れ動くため、静安定性の低い航空機は直進し続けるのが困難になる。~
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よって、[[静安定性]]は高ければ良いというものではないし、低いのも問題がある。~
運用に応じた最適な値になるよう[[静安定性]]を調整するのは航空力学の基本的な常識であるが、「運用に応じた最適な値」は、当然、人間に操作可能かどうかを考えて定義されている。~
静安定緩和はこの前提を覆し、コンピュータが追随可能かという別の観点での再定義を行うものである。~
1970年代以降のコンピュータは人間の行動より高速であるため、より低い静安定性でも実用に耐えられるようになった。

>ただし「電気系統が故障せず、プログラムに不具合が生じなければ」の話である。~
[[運動性]]によって軽減される[[被撃墜>撃墜]]のリスクに比べれば、電子的トラブルのリスクは微々たるものだ。~
しかし逆に言えば、[[撃墜]]される可能性を想定しない場合、静安定緩和は総じて不合理である。


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