【人間の盾】(にんげんのたて)

Human Shield.

テロリストが犯行現場や戦場に居合わせた民間人を人質として利用する事。
非合法戦闘員との混同を避けるため、女性・乳幼児・病院・高齢者などが特に利用される。

学術的定義のないプロパガンダ用語であり、その意味するところは不明瞭である。
一般には空爆を避けるために市街地に潜伏する事などを指す。

文民統制された軍隊交戦規定は、普通、民間人を攻撃して殺す事を認めない*1
よって、人間の盾は敵の戦略的自由を奪い、非対称戦争における防御の不利を相殺する事ができる。
また、人間の盾とされた者が死傷すれば「虐殺」を喧伝し、第五列を通じて敵国の敗北主義者からの支援を引き出す事もできる。

近年では平和主義に基づくテロリズムとして、自発的に人間の盾になろうとする人間も出現している。
軍隊による民間人殺傷を撮影・記録して公表する、という暴力的行為には戦争を妨害する力があるからだ。

2003年のイラク戦争では、イラク政府はそうした「自発的志願者」をスパイとして取り扱うと通告した。
この通告のどの程度までが防諜の意図で、どの程度までが戦後処理を見据えた政治的配慮だったのかは定かでない。
実際にスパイもいたのだろうし、「人間の盾を使った」という悪評を避けたかったのも確かだろう。
ちなみに、渡航禁止令が出たわけではなく、戦争を見物するためにイラクに入国した人間も少数存在する*2

近年の戦争ではこうした第五列への影響を避けるため、事前に徹底したスパイ活動が行われるようになっている。
現代の先進軍事技術は、十分なヒューミントがあれば、間接砲撃空爆でも民間人を避けて敵だけを殺す事ができる。
また、非対称戦争では事前に攻撃日時・対象を公表し、避難する時間を与える事も可能である。

攻撃が行われる事を知りながら民間人が退去しなかった、という事実は政治的問題を変質させる。
そんな事が起こりえるのは、件の民間人が非合法戦闘員であったか、拉致監禁されていたかのいずれかである。
そしていずれにせよ、自軍が敵国の民間人を巻き込んだのではない、と立証するに足る状況証拠である。

戦術的ゲリラ戦

損耗し死傷する事を前提として陽動に用いる使い捨ての兵士を「人間の盾」と称する場合もある。

たとえば奴隷・囚人・貧困層などに質の悪い雑多な武器を与え、大した訓練も支援もなく突撃させる。
突撃した促成兵士たちは当然殺されるのだが、敵はその殺戮に忙殺され、正規軍を相手取る余裕を失う。
つまり戦術上、人間を盾として使い捨てれば反攻作戦の実行に必要な機会と時間を得る事も可能となる。

ベトナム戦争などのゲリラ戦、特に少年兵を徴用した事例はこの類型の典型だろう。


*1 現代の戦時国際法ではジュネーブ条約で明示的に禁止されている。
*2 大半は報道関係者だが、合理的な動機を想定できない奇怪な事例もわずかながらあったようだ。

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