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*&ruby(しんとう){【浸透】}; [#u06ef8bf]
Infiltration.~
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一般的には、物体の隙間をすり抜けて液体が通過したり、内側に入り込む事。~
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[[軍事]]に関する用語としては、以下の二通りの意味がある。

**陸戦における浸透 [#e9fc0783]
陸上戦闘においては、敵の警戒網や戦線をすり抜けて[[部隊]]を侵入させる事を指す。~
侵入する[[部隊]]は隠密行動を取るが、その支援として他の[[部隊]]が[[飽和攻撃]]や[[陽動]]を行う事が多い。~
浸透した[[部隊]]に基地施設や司令部などの[[兵站]]を破壊させ、もって敵の戦線を崩壊させる事を目的とする。~
兵士を浸透する水に見立てる発想は古代からあり、「勝兵は水に似たり」「兵に常勢無く、水に常形無し」などとも謂う。~
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古来の戦争において、そうした浸透作戦は[[騎兵]]の役割とするのが常道であった。~
[[歩兵]]などの主力[[部隊]]が攻撃を仕掛け、離れた場所への[[展開]]を封じ、その間隙をすり抜けて浸透するのである。~
そうした[[作戦]]は何よりも[[機動力]]が重要であり、[[騎兵]]ほどこれに適した兵科はなかった((ただし、河川での水運、現地の[[スパイ]]など、騎兵以外の方法で達成した例も少なくない。))。~
また、浸透した[[部隊]]は長時間に渡って敵中に孤立するため、高い練度と、[[作戦]]を理解する教養が必須とされた。~
そして中世までの軍隊において、練度と教養を[[部隊]]全体にまで要求できるのは[[騎士]]・[[騎兵]]のみであった。~
また、浸透した[[部隊]]は長時間に渡って敵中に孤立するため、高い練度・[[敵前逃亡]]しない忠誠・[[作戦]]を理解する教養が必須とされた。~
そして中世までの軍隊において、練度と忠誠と教養を個々の兵士にまで要求できるのは[[騎士]]・[[騎兵]]のみであった。~
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しかし、そうした戦術は20世紀初頭、[[機関銃]]の登場によって変質する。~
浸透を試みる[[騎兵]]を撃滅するのに、事前に掘った[[塹壕]]と一丁の[[機関銃]]があれば事足りるようになったからだ。~
これは即ち、[[騎兵]]という兵科と[[兵器としての馬>軍馬]]の役割が終焉を迎える事を意味していた。~
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代わって、浸透作戦を行うようになったのは[[歩兵]]である。~
[[歩兵]]は何にでも代われる兵科であったし、[[富国強兵]]と[[国家総力戦]]の時代にあっては、練度と教養に優れた歩兵[[部隊]]も編成可能であったからだ((義務教育によって国民に広く初等教育が施されるようになり(その多くは[[徴兵制]]により兵卒となった)、その中で、更に知力と資質に優れた者には高等教育を受けさせて将校へ登用することも出来たからである。))。~
代わって、浸透作戦を行うようになったのは[[徴兵制]]によって確保された近代の[[歩兵]]である。~
義務教育・事前の訓練・指揮系統の一本化により、練度と教養を確保しつつ、不忠者を粛々と[[処刑>略式の処刑]]((軍権が統一されていない封建諸侯の混成軍で「公正な裁判」「厳正な論功行賞」など夢物語である。&br;  司法が理不尽だと思った諸侯は武力行使や[[暗殺]]で判決を覆そうとする可能性があるし、そもそも大抵の[[紛争]]は誰かがそうしようとした結果として生じる。))する事で浸透作戦が可能となった。~
以降、[[砲兵]]の[[制圧射撃]]によって敵軍を足止めし、その隙に[[歩兵]]が斬り込むのが浸透[[作戦]]の基本系となった。~
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現代では、[[自走砲]]や[[近接航空支援]]を行う[[航空機]]・[[攻撃ヘリコプター]]が敵軍を拘束し、その間隙を縫って、[[歩兵戦闘車]]や[[APC>装甲兵員輸送車]]に乗った([[機械化]]された)[[歩兵]]が[[主力戦車]]の援護の下に浸透するのが、大規模な陸戦の基本形となっている。~
現代では[[自走砲]]と[[近接航空支援]]によって拘束し、[[機械化]]された[[歩兵]]が浸透するのが、大規模な陸戦の基本形となっている。~
より小規模な戦線単位では、第一波で突撃する[[主力戦車]]が敵軍を拘束し、その後ろから歩兵が浸透していく場合もある。~
そしてもっと小規模な戦闘では、同じ[[歩兵]]がある時は[[制圧射撃]]を行い、ある時は浸透し、と、状況に応じて役割を入れ替えながら進軍する事もある。
そしてもっと小規模な戦闘では、同じ[[歩兵]]が[[制圧射撃]]と浸透を兼任し、状況に応じて役割を入れ替えながら進軍する。

**情報戦における浸透 [#s13a9670]
情報戦においては、日常的な[[諜報>スパイ]]活動により、敵対勢力の思想を転向させて自勢力に有利な思想を伝播させることを「浸透」と呼ぶ。~
具体的には、[[マスコミ]]やインターネットなどで流通する情報を統制した上で、自勢力に有利となる一方的なプロパガンダを集中的に配信する。~
これにより、敵対勢力内部に自勢力へ内応する政治家・官僚・富豪・文化人などの「[[第五列]]」を創り出し、敵対勢力の支配下に影響力を行使させて目的を達成するのである。
情報戦においては、日常的な[[諜報>スパイ]]活動により、敵対勢力の人員を協力者・[[スパイ]]へと転向させる試みを「浸透」と呼ぶ。~
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秘匿された情報を手に入れようとする際、諜報機関に籍を置く正規の構成員が直接どこかに潜入する事はほとんどない。~
警備された建物に侵入するよりも、その建物に正規の手続きで出入りできる[[人間を買収>ヒューミント]]した方が安全であるからだ。~
いわゆる[[スパイ]]のほとんどはただ単に祖国や雇用主を裏切っただけの人間であり、特に専門的な訓練など受けていない。~
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典型的な浸透工作は、[[マスコミ]]に対する買収工作、または海外資本で国外に企業・宗教・財団などを設立する事から始まる。~
古くは危険思想団体・[[テロ組織>テロリスト]]の設立支援を行う場合も多かったが、時代を経るにつれ敵地の法律を研究した検挙困難な手口へと洗練されている。~
そうした組織が現地で活動を行う際、その意志決定は必ずスポンサーや指導者や実働要員の意向を受け、それらの関係者に報告・連絡・相談される。

>……というのが諜報活動の観点だが、反面、それが偏執狂的な人間の視点である事も否めない。~
民間レベルの陰謀論で「〜〜社は〜〜国の手先だ」などと言われる事は多々あるが、おそらく、人々が妄想しているようなやり方では浸透していない。~
成功裏に続いている諜報活動の内容が民間に流布しているはずはなく、失敗したのなら[[スパイ]]がまだそこに居座り続けているはずもないからだ。~

また、社会的に成功した特定個人を調べ上げ、思想・経済的な人脈として接触する事も広範に行われる。~
著名人には有益な情報を持つ知人に会わないという選択肢がなく、企業には誠実な取引先との取引を打ち切るという選択肢がない。~
従って、ただ仕事上のフェアな取引を続けるだけで、その人物の視点における「合理的判断」を諜報機関に有利なよう誘導する事が可能になる。

>反戦団体を票田とする代議士は、代議士として活動する上での合理的判断に因る限り、戦争反対運動に賛同するはずだ。~
だが、それは代議士本人が反戦思想家であるとか、反戦団体の活動内容に感銘しているという事を必ずしも意味しない。

関連:[[敗北主義]] [[平和主義]]


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