【浸透】(しんとう)

Infiltration

一般的には、物体の隙間をすり抜けて液体が通過したり、内側に入り込む事。

軍事用語としては、敵の警戒網や戦線をすり抜けて部隊を浸透させる事を指す。
浸透した部隊に基地施設や司令部などの兵站を破壊させ、もって敵の戦線を崩壊させる事を目的とする。
兵士を浸透する水に見立てる発想は古代からあり、「勝兵は水に似たり」「兵に常勢無く、水に常形無し」などとも謂う。

古来の戦争において、そうした浸透作戦騎兵の役割とするのが常道であった。
歩兵などの主力部隊が攻撃を仕掛け、離れた場所への展開を封じ、その間隙をすり抜けて浸透するのである。
そうした作戦は何よりも機動力が重要であり、騎兵ほどこれに適した兵科はなかった*1
また、浸透した部隊は長時間に渡って敵中に孤立するため、高い練度と、作戦を理解する教養が必須とされた。
そして中世までの軍隊において、練度と教養を部隊全体にまで要求できるのは騎士騎兵のみであった。

しかし、そうした戦術は第一次世界大戦の登場によって変質する。
浸透を試みる騎兵部隊を撃滅するのに、事前に掘った塹壕と一丁の機関銃があれば事足りるようになったからだ。
これは即ち、騎兵という兵科が終焉を迎える事を意味していた。

それに代わって浸透作戦を行うようになったのは、歩兵である。
歩兵は何にでも代われる兵科であったし、国家総力戦にあっては練度と教養に優れた歩兵部隊も編成可能であったからだ。
以降、砲兵制圧射撃によって敵軍を足止めし、その隙に歩兵が斬り込むのが浸透作戦の基本系となった。

現代では、自走砲近接航空支援が敵軍を拘束し、機械化歩兵が浸透するのが大規模な陸戦の基本形となっている。
より小規模な戦線単位では、第一波で突撃する主力戦車が敵軍を拘束し、その後ろから歩兵が浸透していく場合もある。
もっと小規模な戦闘では、同じ歩兵がある時は制圧射撃を行い、ある時は浸透し、状況に応じて役割を入れ替えながら進軍する事もある。


*1 ただし、河川での水運、現地のスパイなど、騎兵以外の方法で達成した例も少なくない

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