【焼夷弾】(しょういだん)

着弾点で火災を発生させる事を目的とする砲弾・爆弾
日本では字面から誤解される事があるが、燃料気化爆弾は焼夷弾ではない。
また、ゲリラや暴徒などは手榴弾に似た手製の焼夷弾(火炎瓶)を利用する事がよくある。

炎は装甲を破壊できないため、防護の堅牢な軍事目標に対してはあまり有効ではない。
主たる標的は十分な防護のない車両、離陸前の航空機、集積所などの物資、そして人体である。
森林戦などでは、炎を障害物として利用する事で行軍潜伏を妨害するためにも用いられる。
民間に対する戦略爆撃にも適するが、延焼によって必要以上に被害が拡大するため近年あまり用いられない。

また、空爆に用いる場合は屋根を貫通するような鋭利な構造を持つ場合が多い。
そうでなくともキログラム単位の重量物であるため、人体に直撃すれば致死的である。
避難民で混雑する道路上に投下され、犠牲者を串刺しにした後に死体を炎上させた事例もある。

歩兵レベルでは、対戦車火器を持たない状況下で装甲車両と戦うために使われる事がある。
機械は総じて熱に弱く、センサーや銃火器が炎に直接触れれば故障や暴発の危険が生じる。
また、装甲で守られた車両でも、ガソリンエンジンであれば燃料に引火する危険がある。
そうでなくとも、兵器は極度の高熱に長時間さらされ続けても耐えられるようには設計されない*1
そして何より、高熱と燃焼ガスと酸素不足は車内で操作を行う人員にとって致死的である。

ただしそれは「誰も消火できない」という理想的な条件下であれば、の話である。
現代において火災対策と消火設備を施していない軍用車両などそうそう存在するものではない。
また、暴徒鎮圧に際しても消火装備や放水車が投入されるのが定石となっている。
それらの対抗戦術が功を奏し、火炎瓶によって深刻な損害が生じた例は近年あまり見られない。

主な焼夷弾の種別

焼玉式焼夷弾
焼夷弾の一種。焼夷剤を使うのではなく、砲弾を赤熱させることで焼夷効果を起こす。19世紀後半まで使用されていた。
エレクトロン焼夷弾
照明弾を兼ねる。金属のテルミット反応で着火し、酸素不要。水中や地面に埋めても燃え続ける。
油脂焼夷弾
可燃性の高い油を使うもの。一般にナパーム弾として知られる最も有名な焼夷弾。
黄燐焼夷弾
黄燐の自然発火を利用したもの。主に手榴弾として用いられる。
火炎瓶
燃料を封入したガラス瓶に、燃料に浸した布で栓をしたもの。
ライターなどで栓に火を付けてから投げる事で、瓶が割れて撒き散らされた燃料に着火する。
軍隊で制式に製造された事はなく、民兵ゲリラ兵がその場で自ら作成する。
焼夷榴弾
榴弾の内部に焼夷剤を混ぜ、発火性の"熱破片"をまき散らすもの。
主に高射砲で用いられ、吸気孔などを通じてエンジン火災を誘発する。
徹甲焼夷弾(armor piercing incendiary:API)
徹甲弾と焼夷弾の機能を併せ持つ砲弾・銃弾。敵の装甲を貫いて、内部で燃焼し焼夷効果をもたらす。
徹甲炸裂焼夷弾(High Explosive Incendiary/Armor Piercing Ammunition:HEIAP*2
徹甲榴弾の一種。装甲や壁面を貫通した後、内部での火災を誘発する。
主に対物ライフル機関砲で用いられ、車両や航空機燃料に引火させる事を狙う。

*1 そんな耐久性能には意味がない。火災が生じたなら迅速に消火すれば良いだけの話である。
  それ以外の理由で致命的な高温が長時間続く環境に置かれた場合、もはや脱出も救出も不可能であろう。

*2 Semi-armor piercing high explosive incendiary:SAPHEIとも。

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