巡洋戦艦(じゅんようせんかん)

Battle Cruiser.

かつて存在した水上艦の一種。
艦種記号はイギリス海軍でBC、アメリカ海軍でCC*1
巡洋艦並みの速度性能と、戦艦並みの砲火力または装甲を兼ね備えた戦闘艦を指す。

「巡洋艦並に速い戦艦」という意味ではない。

分類上、戦艦と同じ扱いを受ける事が何かと多いこの艦種だが、本来の運用形態は巡洋艦に近い。
日本語の研究史の文脈では「巡洋戦艦」と訳出されているが、「戦闘巡洋艦」と表記した方が本質に近いという主張もある。

新たに創出された艦種であるため、国によって性質が異なった。
英国その他多くの国では「巡洋艦戦艦と同等の主砲を載せた武装哨戒艦」として建造された。
一方、ドイツ・ロシアでは「巡洋艦戦艦相当の装甲を施した高速戦闘艦」として建造されている。

当初の運用想定は「継続的な通商破壊戦のために巡洋艦を排除する艦艇」であり、戦艦との遭遇は想定されていなかった。
しかし、第一次世界大戦前夜の戦略環境においては、通商破壊戦の過程で戦艦との交戦を想定せざるを得なくなった。

実際に1914〜1916年にかけての各海戦で投入された巡洋戦艦は、戦艦・巡洋戦艦との撃ち合いで壊滅的被害を被った。
英国式は戦艦級の砲撃に耐えられる装甲を持たず、継戦能力が著しく低かった。
ドイツ・ロシア式では砲撃を受けてもある程度耐えられたが、戦艦に対して有効な反撃手段がなかったため、結局は同じ事だった。

この戦訓を受けて各国が巡洋戦艦の装備強化を図ったが、結局は戦艦に対抗できるだけの性能には至らなかった。
にも関わらず、構造上巨大な機関部を内蔵している為に下手な戦艦よりも大型化し、価格も高騰する傾向にあった。

結局のところ設計思想そのものに錯誤があったと言わざるを得ず、1930年代には主要海軍国の装備要目から姿を消している。

代表的な艦

※カッコ内は1番艦の就役年度と建造隻数

  • 英国
    • インヴィンシブル級(1909年、3隻)
      • インヴィンシブル、インフレキシブル、インドミダブル
    • インディファティガブル級(1911年・3隻)
      • インディファティガブル、オーストラリア、ニュージーランド
    • ライオン級(1912年・3隻)
      • ライオン、プリンセス・ロイアル、クイーン・メリー
    • タイガー(1914年・1隻)
    • レナウン級(1916年・2隻)
      • レナウン、レパルス
    • フッド(1920年・1隻)

  • ドイツ
    • フォン・デア・タン(1910年・1隻)
    • モルトケ級(1911年・2隻)
      • モルトケ、ゲーベン*2
    • ザイドリッツ(1913年・1隻)
    • デアフリンガー級(1914年・3隻)
      • デアフリンガー、リュッツオウ、ヒンデンブルク
    • シャルンホルスト級(1938年・2隻)
      • シャルンホルスト、グナイゼナウ

  • 大日本帝国
    • 筑波型(1907年・2隻)
      • 筑波、生駒
    • 鞍馬型(1909年・2隻)
      • 鞍馬、伊吹
    • 金剛型(1913年・4隻)*3
      • 金剛、榛名、比叡、霧島

  • ソ連/ロシア

未成艦(カッコ内は1番艦起工年度と計画隻数)

  • アメリカ合衆国(ワシントン海軍軍縮条約により廃棄)
  • ソ連/ロシア(ロシア革命により中止)
    • ボロディノ級(1913年・4隻)
      • ボロディノ、イズメイル、キンブルン、ナヴァリン

  • 大日本帝国(ワシントン海軍軍縮条約により廃棄)
    • 天城型(1920年・4隻)
      • 天城、赤城、高雄、愛宕
        ※1番艦「天城」は空母改装予定だったが関東大震災により廃棄*4。2番艦「赤城」は空母へと改装。
    • 十三号艦型(1923年・4隻)
      資材発注前に計画中止。

  • ドイツ(敗戦のため中止)
    • マッケンゼン級(1915年・4隻)
      • マッケンゼン、グラーフ・シュペー、プリンツ・アイテル・フリードリヒ、フュルスト・ビスマルク
    • ヨルク代艦級(1916年・3隻)
      • ヨルク代艦、グナイゼナウ代艦、シャルンホルスト代艦
        ※ローン級装甲巡洋艦2番艦「ヨルク」及びシャルンホルスト級装甲巡洋艦「シャルンホルスト」「グナイゼナウ」の代艦として計画。ヨルク代艦のみ起工。


*1 ただしアメリカ海軍では就役なし。CCの符号は戦術指揮艦(指揮巡洋艦)に改めて割り振られた。
*2 第一次世界大戦勃発直後にトルコに譲渡され「ヤヴズ・スルタン・セリム」→「ヤヴズ・セリム」→「ヤヴズ」となり、1950年代まで現役にあった。
*3 近代改修後は戦艦に再分類される場合がある。
*4 船体の一部は、現在でも民間の造船所で浮桟橋として供用されている。

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