【秋月】(あきづき)

  1. 大日本帝国海軍・大型防空駆逐艦「秋月」。
    同型艦に照月、涼月、初月、新月、若月、霜月、冬月、春月、宵月、夏月、花月の11隻*1があった。

    本艦型は、航空機の技術革新が1930年代に入ってから急速に進み、艦隊にとって新たな脅威となったことから、これへの対処策として計画された。
    当初は、従来の艦よりも対空・対潜能力を強化し、機動部隊に随伴できる速力・航続力を持つ直衛専用艦とされ、名称もずばり「直衛艦」として計画された。
    しかし、現場からは「艦隊決戦にも使えるように」という要望があり、魚雷発射管が追加されて「大型駆逐艦」としてデビューした*2*3

    備砲には、従来よりも砲身長の長い「九八式65口径10サンチ高角砲」が搭載され、強力な対空射撃能力を獲得した。
    しかし、この砲は構造が複雑すぎて量産ができず、本艦型以外には重装甲空母大鳳?」及び軽巡洋艦「大淀」にのみしか搭載できなかった。
    その上、帝国海軍が最後までレーダー連動式の射撃指揮装置を実用化できなかったため、実戦での効率的な対空射撃は難しかったが、それでも、開発・設計のコンセプトは航空主兵主義が支配的になった1940年代の海戦にマッチしたものであり、大戦中盤〜後期にかけてさまざまな海戦で活躍をみせた。

    【スペックデータ】
    乗員263名(竣工時)/315名
    排水量
    基準/公試/満載
    2,700t/3,470t/3,878t
    全長134.2m
    全幅11.6m
    喫水4.15m(公試状態)
    主缶ロ号艦本式罐・重油焚×3基
    主機艦本式タービン×2基2軸推進(出力52,000hp)
    燃料搭載量重油 1,080t
    最大速力33.0kt
    航続距離8,000海里/18kt
    兵装(新造時)
    九八式65口径10cm高角砲×4基8門
    九六式25mm連装機銃×2基
    4連装61cm魚雷発射管×1基4門(九三式魚雷8本)
    九四式爆雷投射器×2基(九五式爆雷54個)

    (1944年時)
    九八式65口径10cm連装高角砲×4基8門
    九六式25mm3連装機銃×5基
    九六式25mm単装機銃×13基
    13mm単装機銃×4基
    4連装61cm魚雷発射管×1基4門(九三式魚雷8本)
    九四式爆雷投射器×2基(九五式爆雷54個)
    電探(1944年時)二式二号電波探信儀一型(21号電探)×1基
    三式一号電波探信儀三型(13号電探)×1基
    水測兵装九三式探信儀×1基
    九三式水中聴音機×1基

    【同型艦】
    艦名主造船所起工進水就役退役備考
    秋月
    (あきづき)
    舞鶴工廠1940.7.301941.7.21942.06.111944.12.101944.10.25喪失
    照月
    (てるづき)
    三菱・長崎1940.11.131941.11.211942.8.311943.1.201942.12.12喪失
    涼月
    (すずつき)
    三菱・長崎1941.3.151942.3.41942.12.291945.11.201948.解体*4
    初月
    (はつづき)
    舞鶴工廠1941.7.251942.4.31942.12.291944.12.101944.10.25喪失
    新月
    (にいづき)
    三菱・長崎1941.12.81942.6.291943.3.311943.9.101943.7.6喪失
    若月
    (わかつき)
    三菱・長崎1942.3.91942.11.241943.5.311945.1.201944.11.11喪失
    霜月
    (しもつき)
    三菱・長崎1942.7.61943.4.71944.3.311945.1.101944.11.25喪失
    冬月
    (ふゆつき)
    舞鶴工廠1943.5.81944.1.201944.5.251945.11.201948.5.一部解体*5
    春月
    (はるつき)
    佐世保工廠1943.12.231944.8.31944.12.281945.10.51947.8.28
    戦時賠償艦としてソ連
    に引き渡し。
    (1969.6.4除籍)
    宵月
    (よいづき)
    浦賀船渠1943.8.251944.9.251945.1.311945.10.51947.8.29
    戦時賠償艦として中華民国
    (台湾)に引き渡し。
    (1963.除籍・解体)
    夏月
    (なつづき)
    佐世保工廠1944.2.101944.10.101945.4.81945.10.51947.9.3
    戦後賠償艦としてイギリス
    に引き渡し
    (1947.9.10解体*6
    花月
    (はなづき)
    舞鶴工廠1944.2.101944.10.101944.12.261945.10.51947.
    戦時賠償艦としてアメリカ軍
    に引き渡し(解体)

  2. 海上自衛隊・大型護衛艦「あきづき(初代)」(JDS Akizuki DD-161/USS Akizuki DD-960)。
    同型艦に「てるづき」(JDS Teruzuki DD-162/USS Teruzuki DD-961)がある。

    本艦は、アメリカ政府が第二次世界大戦後、海外同盟国への軍事援助の一環として実施していた「域外調達(OSP*7)」により、合衆国の1957会計年度軍事予算で日本の造船所に発注・建造された。
    そのため、建造中はアメリカ海軍の艦籍番号*8を持っており、竣工と同時に海自へ「供与」の形で引き渡された。

    基準排水量2,000トン以上と、当時の海自艦艇の中ではかなりの大型であり、このスペースを生かして司令部スペースや長官公室などが備えられ、艦隊旗艦として活用された。
    ネームシップ「あきづき」は竣工後、1963年に陸上に移されるまで自衛艦隊の旗艦を務め、姉妹艦の「てるづき」は「護衛艦隊」創設と共にその初代旗艦となり、1985年、「むらくも(DD-118)」に将旗が移されるまでの四半世紀あまり、その任にあった*9

    その後、1980年代半ばには後継の「みねぐも」型や「はつゆき」型に任務を譲る形で艦隊から退き、練習艦や特務艦などに改装された後、1993年に2隻とも除籍・解体された。

    【スペックデータ】
    乗員330名
    基準排水量2,350t
    全長118m
    全幅12m
    深さ8.5m
    喫水4m
    機関三菱エッシャーウイス型蒸気タービン(「あきづき」)×2基
    新三菱ウェスチングハウス製蒸気タービン(「てるづき」)×2基
    2軸推進(出力45,000馬力)
    最大速力32kt
    兵装Mk.39 54口径5インチ(127mm)単装砲×3門
    57式3インチ(76mm)連装速射砲×2基4門
    55式4連装53cm魚雷発射管×1基
    Mk.108対潜ロケット発射機×1基(後に71式ボフォース・ロケット・ランチャーに換装)
    54式対潜弾(ヘッジホッグ?)投射機×2基
    Mk.2短魚雷落射機×2基
    55式爆雷投射機(Y砲)×2基
    54式爆雷投下軌条×2条
    レーダーOPS-1対空レーダー
    OPS-5対水上レーダー
    ソナーSQS-4捜索ソナー
    SQR-8攻撃用ソナー
    FCSレーダーUS Mk.34射撃レーダー
    FCS57式射撃装置
    Mk63 Mod14射撃装置
    ECM装置US NOLR-1 ECM装置

    【同型艦】
    艦番号艦名主造船所起工進水就役退役備考
    DD-960
    →DD-161
    →ASU-7010
    あきづき
    (JDS Akizuki)
    三菱・長崎1958.7.311959.6.261960.2.131993.12.71985.3.27 種別変更
    (特務艦)
    DD-961
    →DD-162
    →ASU-7012
    てるづき
    (JDS Teruzuki)
    三菱・神戸1958.8.151959.6.241960.2.291993.9.271986.3.27 種別変更
    (特務艦)

  3. 海上自衛隊汎用護衛艦「あきづき(2代)」(JDS Akizuki DD-115)。
    従来の護衛艦を大型化した「仮称5000トン級護衛艦(19DD)」として、2007年(平成19年)度防衛予算で発注・建造された大型護衛艦。

    前級のたかなみ型と比べ、あたご型イージス護衛艦と同様の塔型の新型マストや平面固定型対空レーダーを採用し、上部構造物を舷側まで拡大するなど、ステルス性の向上が図られている。
    また本級は、BMD行動中のイージス艦を補佐するのを目的としているため、「たかなみ」型のVLSよりもESSM(RIM-162)の搭載量が増加している。
    C4Iシステムや対空戦闘システムについては、ひゅうが型ヘリコプター搭載護衛艦に搭載されていた「OYQ-10」戦術情報処理装置?FCS-3多機能レーダーの改良型である「OYQ-11」と「FCS-3A(00式射撃指揮装置)」を搭載している。
    艦載機についてはSH-60Kを最大2機搭載する事が可能。

    ネームシップの「あきづき」は2010年10月に進水し、2012年の就役を目指して艤装工事が続けられている。
    このほか、姉妹艦3隻が建造・計画中である。

    【スペックデータ(予定)】
    乗員約200名
    排水量
    基準/満載
    5,000t/6,800t
    全長150.5m
    全幅18.3m
    深さ10.9m
    吃水N/A
    機関COGAG方式 2軸推進
    SM1Cガスタービンエンジン(64,000PS)×4基
    最大速力30kt
    兵装Mk.45 62口径5インチ単装砲×1基
    高性能20mm機関砲CIWS)×2基
    4連装90式SSM発射筒×2基
    Mk.41VLS×32セル1基(ESSM07式垂直発射魚雷投射ロケットを発射可能)
    HOS-303 3連装短魚雷発射管×2基
    艦載機SH-60K哨戒ヘリコプター×1〜2機
    C4IシステムMOFシステム(SUPERBIRD B2)
    海軍戦術情報システム(OYQ-11 ACDS+リンク11/14/16
    FCSFCS-3A(00式射撃指揮装置)
    レーダーFCS-3A 多機能レーダー(捜索用、FC用アンテナ各4面)×1基
    OPS-20C 対水上レーダー×1基
    ソナーOQQ-22 統合ソナー・システム(バウ・ソナー+OQR-3 TACTASS)
    電子戦
    ・対抗手段
    NOLQ-3D 統合電子戦システム
    Mk 36 SRBOC 対抗手段システム
    (Mk.137 チャフフレア発射機×4基)

    【同型艦】

    艦番号艦名主造船所起工進水竣工
    DD-115あきづき
    (JDS Akizuki)
    三菱・長崎2009.7.172010.10.132012.3予定
    DD-116てるづき
    (JDS Teruzuki)
    三菱・長崎2010.6.22011.9.152013.3.予定
    DD-117平成21年度計画2246号
    (21DD)
    三菱・長崎2011.2014.3.予定
    DD-118平成21年度計画2247号
    (21DD)
    三井造船
    玉野事業所
    2011.2014.3.予定


*1 計画では、他に20隻建造予定だった。
*2 サイズ的には大正末期に建造された小型軽巡洋艦「夕張」に匹敵していた。
*3 同じ頃、米英海軍でも「アトランタ」級(米)や「ダイドー」級(英)といった、防空任務に特化された巡洋艦が造られていた。
*4 船体は福岡県若松港の防波堤に使用される。
*5 船体は福岡県若松港の防波堤に使用される。
*6 解体は日本国内で行われた。
*7 Off Shore Procurement.
  アメリカが対象国に資金を与えて兵器を作らせ、完成後は対象国軍の装備として供与するもの。

*8 「あきづき」が「DD-960」、「てるづき」は「DD-961」であった。
*9 その後何度か「旗艦」は移ったが、現在は護衛艦隊司令部も陸上に移っている。

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