【斜め飛行甲板】(ななめひこうかんぱん)

angled deck.(アングルドデッキ)

航空母艦において、CTOL艦上機着艦させるために用いられる、飛行甲板に設けられた斜め向きの部分。
飛行甲板の艦尾中央から左舷中部にかけ、ヨー角約10度前後で設けられる。

初期の航空母艦は直甲板を設けており、艦上機離艦着艦も同じヨー角でおこなっていた。
しかし、これにはいくつかの問題があった。

まず離艦と着艦を同時におこなうことができなかった。
離艦のためにはある程度の滑走距離が必要であったし、逆に着艦時はアレスティングワイヤーを引っ掛け損ねる場合に備えて艦尾を広く空けておく必要があった。
また、艦尾部分を空けておいたとしても、着艦に失敗した機体が艦首部分に駐機していた他の機体に衝突する危険もあった。
それを避けるにはすべての機体を格納しておく必要があったが、運用上現実的ではなかった*1

この問題は、朝鮮戦争の前後に艦上機がジェット化されると一気に顕在化した。
重くて速度の速いジェット機では、事故の確率が飛躍的に増大したのである。

この対策としてイギリス海軍のキャンベル大佐が発案したものが、斜め飛行甲板である。
着艦のヨー角を船体に対して斜めにそらすことで、着艦に失敗してもそのまま上昇してやり直すこと(ボルター)が可能となった。
また、着艦時の航跡が定まることで艦上機の配置がやりやすくなり、着艦させながらの駐機や離艦も容易になった。
これらの利点は斜め飛行甲板の他、同時期に開発された蒸気カタパルトミラーランディングシステム?との組み合わせによって実現された。
これらを近代空母における三種の神器と呼ぶ場合がある。

イギリスでこれらの発明が成されると、アメリカのエセックス級やミッドウェイ級はこぞって改造され、柔軟な艦載機運用が成されるようになった。
現代において、正規空母になくてはならないもののひとつとなっている。

ただしCTOLを必要としないV/STOL空母ヘリコプター空母などには装備されていない。
また、ソ連軍キエフ航空巡洋艦飛行甲板が斜めになっているが、これは艦首に武装を施すため飛行甲板全体が斜めになっているものであり、ここで述べる斜め飛行甲板とは存在意義が異なる。


*1 衝突を避けるため、緊急着艦用のナイロンバリケードを通常着艦時にも張るという手法も採られたが、これも危険であった。

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