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*&ruby(ちあんしゅつどう){【治安出動】}; [#t18211bd]
自衛隊法で定められた、[[自衛隊]]の行動に関する規定の一つ。~
警察機関では処理不能な治安上の緊急事態(大規模な暴動、騒乱、[[クーデター]]など)において、治安を回復する目的で[[自衛隊]]を[[展開]]させる事。~
警察力での対応が不可能な規模の暴動・騒乱・[[クーデター]]などに際し、治安を回復する目的で[[自衛隊]]を[[展開]]させる事。~
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内閣総理大臣の命令による出動と、都道府県知事の要請を認めて内閣総理大臣が命令する出動がある。~
都道府県知事の要請および内閣府での検討に応じ、内閣総理大臣の権限によって発令される。~
また、発令に際して必要であれば[[海上保安庁]]も防衛大臣の統制下に置かれる。~
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出動した[[部隊]]及び所属の[[自衛官]]には警察官職務執行法が準用され、必要に応じた武器の使用が認められる。~
>治安出動が命令される程の事態を引き起こしうるのは、[[(致死性の極めて高い)感染症の大規模流行>バイオハザード]]や自然災害による国家機能のマヒ、[[武装ゲリラ>ゲリラ]]や[[暴徒化した市民>民兵]]が参加する大規模な[[武力闘争>テロリズム]]((想定されるのは「参加者の多くが銃火器を含む各種兵器で武装し、兵器を大規模・組織的に使用している」「数千〜数万人単位の参加者があり、参加者による暴行・略奪・放火などの破壊活動が大規模に行われている」「複数の都道府県にまたがって展開されている」などであろう。))などが挙げられる。~

出動[[部隊]]所属の[[自衛官]]・[[海上保安官]]には警察官職務執行法が準用され、必要に応じた武器の使用が認められる。~
無論、正当防衛および緊急避難を除いては[[部隊]]指揮官の命令に従わなければならない。~
しかし、[[部隊]]指揮官は治安回復の手段として暴徒の殺害を決断するものと推定され((それ以外の手段が有効であるなら、治安出動が命じられる事はないだろう。))、流血はまず避けられない。~
しかし、[[部隊]]指揮官は暴徒の殺害を決断するものと推定され((それ以外の手段で治安が回復できるなら、治安出動が命じられる事はないだろう。))、流血はまず避けられない。~

**法令としての運用実態 [#c14f55f2]
前述のように、自衛隊法では国内の治安維持のために自衛隊を動員することができるようになっているが、創隊以来、2011年現在まで[[自衛隊]]の治安出動は発令された事がない。~
1960年代に市民運動・学生運動・労働運動が過激化した折、学生・市民団体・労働組合から輩出された[[テロリスト]]の排除を目的とした出動((1970年に勃発した[[クーデター]]未遂事件「楯の会事件」は、政府がこうした事案の解決を警察だけで対応し、治安出動が行われなかったことへの不満が原因の一端でもあった。))が検討されたが、棄却された。~
また、1995年の[[地下鉄サリン事件]]における[[オウム真理教]]への捜査の際、残存信徒による[[報復]][[テロ>テロリズム]]への対処のために出動準備が行われたが、発令は行われなかった。~
自衛隊法の制定から2024年現在に至るまで、[[自衛隊]]に治安出動が発令された事はない。~

>1960年代、日本国内で共産主義者の扇動((当時、米ソ[[冷戦]]の一環となる[[代理戦争]]である[[ベトナム戦争]]が行われており、この戦いでアメリカと交戦していた北ベトナムを支援すべく、ソ連や中国の[[第五列]]が日本国内で工作を行っていたことが後に明かされる。))による市民団体・学生・労働組合の暴動が多発。~
これに対して国内の[[テロリスト]]排除を目的とした治安出動が検討された((当時、実際に自衛隊の一部部隊も、これを想定した訓練を行っていたという。))が、棄却された((1970年には、これを不服とした作家・三島由紀夫率いる[[私兵集団>民兵]]「楯の会」による[[クーデター]]未遂事件「楯の会事件」が発生している。))。~

>1995年、[[地下鉄サリン事件]]への対応として治安出動に備えた警戒態勢が敷かれた。~
[[オウム真理教]]への強制捜査に対し、信徒による[[報復]][[テロ>テロリズム]]の発生を警戒してのものである。~
報復テロが発生する事はなかったため、実際に発令されるには至らなかった。

治安出動の発令は、日本国内の治安が崩壊した事を公的に宣言するも同然である。~
諸外国は当然この事態に対応し、各国の外務主管庁が「渡航の安全に関する情報」(渡航自粛・退避・出国勧告)を発表する事になる。~
日本へ渡航しようとした外国人の多くは引き返して母国に戻り、滞在中の外国人も国外に退避する((そのような事態になった場合、アメリカは[[空母>航空母艦]][[機動部隊]]と[[海兵隊>アメリカ海兵隊]]を「在留市民の保護救出」名目で緊急派遣するものと見られる。&br;  また、それ以外の国でも「自国民救出」のために軍隊を周辺地域に緊急派遣するなどの対応が行われるものと見られる。))。~
こうした措置は貿易や通信を大きく制限し、国家経済に甚大なダメージを与えるだろう。~
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事実、現在の日本において政府が自衛隊の治安出動を発令することは、「日本国内の全部または一部地域の治安維持が困難になった」と公的に宣言するも同然といえる。~
そのような事態になれば、諸外国の外務主管庁は「渡航の安全に関する情報」を発表して自国民の観光・商用目的でのわが国への渡航の自粛や滞在者の国外退避を勧奨することになるであろうし、貿易や通信も制限・停止されるなど、経済面での甚大なダメージが及ぶことが想定される。~
また、国内で多数の国民を「暴徒」として殺害することについても、内外から人道的見地での激しい批判の的になるし、その後事態が収束しても、武力行使による犠牲者の遺族や関係者が[[報復]]のため[[テロ活動>テロリズム]]に走るなど、国家経営上とても無視できないリスクがつきまとうことも疑いない。
また、治安出動は国民の人権を事実上剥奪し、これを「暴徒」として殺害する行為に他ならない。~
これを行えば人道的見地から激しい批判を避けられず、国の内外を問わず国家の威信を大きく傷つける。~
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さらに、暴力による人間の排除は、それに数倍する遺族・関係者に怨恨を植え付ける行為でもある。~
そうした被害者が[[報復]]を望み、[[反政府テロ>テロリズム]]に傾倒する事はまずもって疑いない。~
>「自衛隊に射殺された暴徒の家族」が事件後に正常な社会生活を営めるとは考えにくい。~
多くは有形無形の社会的差別を受ける事となり、被害者同士での相互互助を必要とするようになる。~
結果、怨恨で結ばれた市民団体が一つ誕生する事となり、これが[[テロリズム]]の温床となる。~
そして「[[テロリズム]]の温床として弾圧される」「弾圧に耐えるために相互互助する」という悪循環が形成される((近代以前の死刑制度で「事件に無関係な者も含めて一族郎党皆殺し」との判決が下る事が多かったのはこのためである。&br; 「生かしておけば必ず将来の禍根となる」と主張する為政者は多く、その主張は単なる被害妄想ではない。))。

このように、治安出動には国家経営上とても無視できないリスクがつきまとう。~
あらゆる近代軍隊がそうであるのと同様、[[自衛隊]]が実戦に投入されるのは既に最悪の事態である。~
治安出動は治安維持における「伝家の宝刀」であり、それを鞘から引き抜く事は誰にも望まれていない((古来、「一族伝来の宝刀」の一本も佩かない将は侮辱や嘲笑を受けるものだった。&br;  しかし、自ら「伝家の宝刀」を抜いて敵と戦うような将はそれ以上に侮辱されるし、そのうち負けて死ぬだろう。))。


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