【散兵戦】(さんぺいせん)

兵を少人数を基本単位とする多くの分隊に分けて個別に行動させる戦術。
これによって全軍の統率は困難になり、短時間のうちに敵に壊滅的な被害を与える事は不可能になるが、自分達も短時間で壊滅的な被害を受けずに済む。
個々の分隊は少人数であるため各個撃破されやすくなるが、他の分隊が相互に囮として機能するため流れ弾で死傷する可能性は激減し、最終的に多くの人員を生存させる事ができる。
ただし、この戦術は逆説的に「まだ作戦遂行能力を失っていないのに勝手に撤退敵前逃亡する分隊」の存在を許容しなければ成り立たないため、戦況が不利になった場合の士気を維持できず、大規模な強襲を受ければ各個に撃破され戦線を崩壊させやすい*1

火器の登場以前の戦争では白兵戦が重要であり、一人の兵士が持てるマンストッピングパワーは武器の種類よりも兵士の人数に強く依存していた。弓などの弾幕を浴びながら突撃して敵陣に到達する事も十分な人数がいれば不可能ではなく、あえて散り散りに逃げ回る必要はなかった。
一方、分隊が離れて行動する事による状況判断の遅れ、命令伝達のタイムラグ、伝令や指揮官の死傷に伴う混乱などは明らかに部隊全体を機能不全に陥れ得る許容できない損害であったため、延命のためにあえて散兵戦を行うのは斥候や先遣隊、城塞に立て籠もる場合など、各自の判断で勝手に行動しても問題が生じない場合のみに限られていた。
現代においてもこの原則は基本的に変わっておらず、単に無線通信の登場によって「各自で勝手に散ったままでいても問題ない許容範囲」が劇的に拡大されたに過ぎない。

火器の威力が増大し、数千人規模の密集集団を短時間で殲滅できるほどになると密集による危険はとても無視できないほど大きなものとなり、あらゆる歩兵は止むを得ない場合を除いて散兵戦を展開するようになっている。
しかし現代でも火力が制限され白兵戦を避けられない状況(例えば暴徒化したデモ隊への対処など、原則として"射殺"が許されない場合)では散兵戦は自殺行為であり、大人数で密集して対処せざるを得ない。


*1 撤退が避けられない場合でも戦力を温存させやすいが、敗走によって兵站士気に再起不能な損害を受けないという保証はない。

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