• 追加された行はこの色です。
  • 削除された行はこの色です。
*&ruby(こっかそうりょくせん){【国家総力戦】}; [#b887ba5e]
敗北する事が国家体制の崩壊を意味するような戦争。必然的に、国家が持てる総力を賭して取り組む戦争でもある。「全面戦争」とも。~
政府の権力で国民全員を統制できる体制に関してのみ用いる用語で、封建制のように国力を総動員できない国家、一度の会戦で国民全員が皆殺しにされかねない小規模な都市国家による戦争は含まれない。~
本格的な国家総力戦は第1次世界大戦が最初と言われる。~
敗北する事が国家体制の崩壊を意味するような戦争。~
必然的に、国家が持てる総力を賭して取り組む戦争でもある。「全面戦争」とも。~
~
政府の権力で国民全員を統制できる体制に関してのみ用いる用語。~
[[兵站]]輸送能力を越える動員は物理的に不可能なため、成立要件として産業革命と[[鉄道]]の普及が必要とされる。~
国力を総動員できない国家(封建制など)、一度の会戦で国民が[[全滅]]し得る国家(都市国家など)の戦争は含まない。~
また、交戦当事者の双方が総力戦体制に移行する事を暗黙の前提としており、[[非対称戦争]]や[[内戦]]は含まない事が多い。~
~
用語としての初出は1935年、旧ドイツ帝国[[陸軍]][[大将]]エーリヒ・フリードリヒ・ヴィルヘルム・ルーデンドルフの著書「総力戦」より。~
当時の軍政的常識を覆す異常な戦争であった[[第一次世界大戦]]の、その異常性を定義するための用語として創出された。~
~
世界初の国家総力戦がどの戦争だったかについては諸説あるが、フランス革命後のナポレオン政権をその起源とみなす事が多い。~
~
関連:[[徴兵制]] [[富国強兵]] [[不戦条約]] [[軍事ケインズ主義]]

[[仮想敵国]]の軍事力が自国と同等かそれ以上であると推定され、将来の開戦は避けられず(あるいは既に開戦しており)、[[仮想敵国]]が現状の体制で存在し続ける限り状況を改善できる見込みがない場合、これを解決するために開始される。~
また、[[仮想敵国]]と全面戦争に突入した場合に備え、国力を向上させるために第三国に侵攻する事もある。この種の侵略には[[仮想敵国]]の横槍が入る事が珍しくないため、一見不要に思えるような場合でも国家総力戦に備えた体制に移行する事がある。~
**意図と背景 [#ba24186c]
戦争は通常、具体的な[[開戦事由]]を巡って戦う[[限定戦争]]であり、敵国の壊滅を企図して始めるものではない。~
従って、国家総力戦は敵国を壊滅させなければならない具体的理由が存在する場合にのみ発生する。~
~
これは通常、以下三つの要件全てを満たした事を意味する。

-[[仮想敵国]]の軍事力が、自国に壊滅的被害を与え得るものだと推定される
-[[仮想敵国]]との開戦は将来的に避けられないか、政治的混乱や陰謀などで偶発的に開戦してしまった
-[[仮想敵国]]が現状の体制で存在し続ける限り、外交交渉で状況を改善できる見込みはない

加えて、国家総力戦は多くの場合、単純な二国間の戦争ではなく、多かれ少なかれ第三国による外交的・経済的・軍事的介入を受ける。~
総力戦の趨勢は彼我の人口と経済力によって決定的な影響を受けるため、劣勢を覆すためには労働力と財力を余所から搾取しなければならないからだ。~
必然、国家総力戦を想定した体制は[[植民地]]支配と侵略によって継戦能力を確保する帝国主義的構造にならざるを得ない。~
そしてある国が帝国主義を掲げた場合、その国を[[仮想敵国]]とする全ての国家が自衛のために帝国主義に傾かざるを得なくなる。~
>帝国主義の代わりに[[永世中立]]によって総力戦に備えた国もあった。~
これは「地力の不足ゆえ[[攻勢限界点]]までの猶予がなく、仮に勝利しても権益の維持ができない」という過酷な現実に起因するものであるが。

そのような状況下においてひとたび戦争が発生すれば、潜在的敵対関係を持つ全ての国家が連鎖的に蠢動を始める事になる。~
そして参戦する戦力が多ければ多いほど戦局は複雑化・大規模化し、利害の錯綜と被害の増大は停戦交渉をより困難なものにする。~
また、何時どの国が軍事介入するかの予測も困難になるため、偶発的な事変を[[限定戦争]]として短期間・低予算で終わらせる事も困難になる。~
>総力戦に備えた[[展開]](総動員)には数ヶ月の準備期間を要する、という事もこの傾向を助長する。~
つまり、隣国が総動員を始めた場合、その企図が明らかになる前に自国も総動員を発令しなければ[[奇襲]]を受ける危険があるのだ。~
そして「防衛のために総動員を発令したが戦争は起きなかったので解散」というのは税金の盛大な無駄遣いであり、政治的に許容されない事が多い。~
戦時体制に移行したにも関わらず何の戦闘もないまま[[復員]]した場合、選挙や[[クーデター]]による政権転覆が起こりえる。

即ち、総力戦に備えた軍備は[[抑止力]]としてはあまり機能せず、総力戦に備える事はそれ自体が高い蓋然性で総力戦を誘発する。~
そして[[抑止>抑止力]]できない総力戦の危惧があるなら、敵に先んじて勝利する事だけが国家国民の命を保証する唯一の方法である。~

**代償 [#m41d3215]
国家総力戦に備えた体制に移行する事は、それ自体が国力を疲弊させ国家体制を崩壊に導く一因となる。~
国家が総力を挙げるという事は、経済と産業、科学技術、人口、文化を維持発展させるために費やされるべき人材や資産を犠牲にする事に他ならないからである。~
>一説には、どのような超大国でも国家総力戦が1年以上続けば経済が破綻する、とも言われている。

……とはいえ、そのような軍事偏重の体制で国を痩せ細らせるのと、軍備が不十分なまま他国との全面戦争に突入するのと、どちらのリスクがより重大であるのかは為政者や体制によって意見の分かれる所である。~
~
関連:[[徴兵制]] [[富国強兵]] [[不戦条約]] [[軍事ケインズ主義]]
……とはいえ、国力の衰退と、軍備不十分なまま[[宣戦布告]]を受ける危険性、どちらがより重大な事態なのかは為政者や体制によって意見の分かれる所である。~
特に地政学や歴史の観点から明白な危惧がある場合、[[紛争]]はいつか必ず勃発するものと諦観して軍事偏重を貫くしかない(おそらく、そうしなければ存続できない)。


トップ 新規 一覧 単語検索 最終更新ヘルプ   最終更新のRSS