【高射砲】(こうしゃほう)

航空機などの飛翔体を撃墜するための火砲。「高角砲」とも。

高速の航空機に直撃させるのは難しいため、敵機の近くで砲弾を爆発させ、その破片で攻撃する。
1発で狙撃するのも不可能に近いため、ガトリングガンなど速射性に優れた機関砲が用いられることが多い。

初期の高射砲弾は、起爆装置に時限信管を採用していた。
これは、あらかじめ敵機の針路・高度速度などを計算して爆発の機会を計る必要があったため、命中精度はお世辞にも良いとは言えなかった。
命中精度については、後年近接信管の登場で格段に向上したが、それでも撃墜戦果の主体とは言い難かった。

近年では爆薬に頼らず徹甲弾を直撃させるほど優れた火器管制装置を備えるものも出現した。
しかし、現在では地対空ミサイルなどの発達によって重要度が下がってきている。
とはいえ、ミサイルも万能ではなく*1、接近し過ぎてミサイルでは迎撃できない目標を高射砲が受け持ったり、ミサイルが撃ち漏らした目標を迎撃するなど、最初から直接目標を攻撃する役目をミサイルに譲り、最後の砦として高射砲が構えるようになっている。

関連:機関砲 FLAK AAA

もうひとつの使われ方

前述のように、本来の目標であった飛翔体への攻撃には対応しきれなくなった高射砲であるが、その初速の速さと破壊力を生かし、歩兵や車輌といった地上目標への攻撃に転用されるケースも多かった。
第二次世界大戦から朝鮮戦争にかけては、高射機関砲が地上目標の掃射にしばしば用いられ、兵士から「挽肉製造器」と揶揄されていた。
近接戦闘力に欠ける自走榴弾砲などと異なり、高射砲を相手取っての白兵戦はほぼ死を意味する。
間接砲撃とは異なり、機関砲の掃射は小銃の射程圏内でも最大限の破壊力と命中精度を発揮する。
そして、口径20mm以上の砲で直射された歩兵の末路は「挽肉」と呼ぶに相応しい酸鼻なものであった*2

また、駆逐艦フリゲートといった小型戦闘艦艇では、艦載砲として高射砲のみを搭載し、水上目標を攻撃するようにしたものもあった*3

主な高射砲の一覧

  • アメリカ
    • M3 3インチ高射砲
    • M1 90mm高射砲
    • M51 75mm高射砲

  • ロシア
    • M1931 76.2mm高射砲
    • M1938 76.2mm高射砲
    • M1939(52-K)85mm高射砲
    • M1944 85mm高射砲

  • フランス
    • M1922〜1944・1927 75mm高角砲
    • M1926 90mm高角砲
    • M1930 100mm高角砲
    • M1945 100mm高角砲

  • イタリア
    • M1934 75mm高射砲
    • M1935 75mm高射砲
    • M39/41 90mm高射砲

  • ドイツ
    • 7.5cm FlaK
    • 8.8cm FlaK18/36/37
    • 8.8cm FlaK41
    • 10.5cm FlaK38/39
    • 12.8cm FlaK40
    • 12.8cm FlaK40 Zwilling

  • 日本
    • 帝国陸軍(高射砲)
      • 五式15cm高射砲
      • 四式7.5cm高射砲
      • 三式12cm高射砲
      • 九九式8cm高射砲
      • 八八式7.5cm野戦高射砲
      • 十四年式10cm高射砲
      • 十一年式7.5cm野戦高射砲

    • 帝国海軍(高角砲)
      • 40口径三年式8cm単装高角砲
      • 五年式短8cm砲
      • 40口径十一年式8cm単装高角砲
      • 60口径九八式8cm高角砲(長8サンチ高角砲)
      • 50口径八八式10cm高角砲
      • 65口径九八式10cm高角砲(長10サンチ高角砲)
      • 45口径十年式12cm高角砲
      • 40口径八九式12.7cm高角砲(12.7サンチ高角砲)
      • 短十二糎(12cm)砲
      • 短二十糎(20cm)砲


*1 「弾数が少ない」「警告射撃ができない」「誘導装置が各種欺瞞手段で無効化されやすい」など。
*2 ハーグ陸戦条約に定められた「過度の傷害・無用な苦痛を与える兵器」に該当するものとみられ、「他に攻撃手段を持っている場合は、直接人間に照準・発砲してはならない」ことにはなっていたが。
*3 こちらは後に速射砲へ発展的解消を遂げ、現代水上戦闘艦艇の標準的な備砲になった。

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