【香取】(かとり) †

  1. 大日本帝国海軍前ド級戦艦「香取」。
    明治時代後期の日露戦争開戦直前に英国で建造された艦で、姉妹艦に「鹿島」がある。

    日本海軍は当時、仮想敵国であったロシアに対抗すべく、戦艦6隻・装甲巡洋艦6隻からなる「六六艦隊」と呼ばれる艦隊整備計画を立て、6隻の戦艦（富士型2隻・敷島型4隻）を調達したが、その時点でロシアは既に12隻の戦艦を擁し、更に新鋭艦を順次建造中であった。
    この情報をつかんだ日本政府は、「三笠」を凌駕する戦艦の追加調達を決定し、当時英国で建造中であった「King Edward �察弋蘋鏨呂鬟戞璽垢箸靴心呂鯣�注した。

    本艦は、火力増強策として主砲・副砲に加えて「中間砲」と呼ばれる砲が搭載され、また、主砲・副砲も砲身長を伸ばして破壊力を増す設計となっていた。

    発注当時、日露戦争開戦直前ということもあって建造が急がれたが、竣工して日本へ回航されたときには、既に日露の講和が成立しており、日露戦争には間に合わなかった。
    しかし、その時には戦闘や事故で日本海軍の実働戦艦は3隻（富士、敷島、朝日）にまで減っており*1、本艦と「鹿島」は貴重な戦力として重宝された。

    その後、ド級・超ド級と続く戦艦の進化によって旧式化したが、第一次世界大戦における南洋群島警備や1920年のシベリア出兵支援任務などで活躍した。
    また、1921年には皇太子殿下（後の昭和天皇）のヨーロッパ歴訪に際し、その乗艦として使用された。*2

    1923年、ワシントン海軍軍縮条約の発効によって廃棄対象とされ、除籍・解体された。

    【性能緒元】
    常備排水量15,950t
    全長139m
    全幅23.8m
    喫水（平均）8.2m
    機関缶20基,蒸気レシプロ機関2基,2軸推進
    最大速力18.5ノット
    航続距離10,000浬（10ノット）
    兵員864名
    兵装45口径30.5cm連装砲×2基
    45口径 25.4cm単装砲×4基
    45口径15.2cm4単装砲×12基
    40口径7.6cm単装砲×16基
    47mm単装砲×3基
    45cm水中魚雷発射管×5門

    【同型艦】
    艦名主造船所起工進水竣工除籍備考
    香取ヴィッカース1904.4.271905.7.41906.5.201923.9.201924.11.解体
    鹿島アームストロング1904.2.291905.3.221906.5.231923.9.201924.11.解体


  2. 大日本帝国海軍軽巡洋艦「香取」。
    1930年代後半、海軍士官候補生の海上実習教材として設計・建造された訓練用巡洋艦。
    姉妹艦に「鹿島」「香椎」「橿原」*3がある。

    それまで海軍では、幹部教育機関である「海軍兵学校*4」「海軍機関学校*5」「海軍経理学校*6」を卒業した少尉候補生たちの海上実習「遠洋航海」を、第一線を退いた装甲巡洋艦で「練習艦隊」を編成して行ってきたが、いずれの艦も明治時代に設計・建造された艦であるため、船体・機関・装備品の老朽化・陳腐化が激しく、実習の「教材」には適さなくなりつつあった。
    また、これらの艦は喫水の浅さを活用して、中国大陸方面に展開する河用砲艦部隊の「旗艦」への転用も考えられていたため、実習用艦船の建造が計画された。これが本艦型である。

    設計に当たっては、戦闘任務への投入を想定していなかったことと予算の制約から、動力がタービンとディーゼルとの併用とされ、速力も低く抑えられた。
    船体は、候補生を収容するスペースをとるために商船型の構造とされ、実習用の多種多様な兵装が搭載されていた。
    また、本艦が配備される「練習艦隊」には、遠洋航海の際にコース上の各国の主要な港に寄港して、帝国の「親善使節」となる役割もあったため、艦隊指揮官が執務する長官公室は戦艦並みの豪華な内装とされていた。

    しかし、本艦が就役した頃には欧州ですでに第二次世界大戦が開戦しており、また、日米関係も悪化しつつある危険な情勢だったため、それまでのように候補生を遠く欧米へ派遣することができず、1940年に一度だけ行われた練習航海*7も日本近海のみにとどまった。*8
    そしてその後、連合艦隊に組み込まれたが、設計上、戦闘任務への投入が想定されていなかったため、火力・速力・装甲防御が大きく劣っており、あまり活動できなかった。*9

    【性能緒元】
    排水量
    （基準/公試）    		5,890t/6,300t
    全長133.50m
    全幅15.95m
    吃水5.75m (公試状態）
    機関ホ号艦本式専焼缶×3基
    艦本式タービン×2基（4,400hp）＆
    艦本式22号10型ディーゼル機関×2基（3,600hp）2軸推進
    機関出力8,000hp
    燃料重油600t
    最大速力18.0ノット
    航続距離7,000NM（12kt（計画））
    乗員315名+候補生275名
    兵装50口径 14cm連装砲×2基4門
    40口径 12.7cm連装高角砲×1基2門
    53cm連装魚雷発射管×2基4門
    25mm連装機銃×2基4挺
    5cm単装礼砲×4基4門
    艦載機水上偵察機×1機
    航空設備呉式2号5型射出機×1基

    【同型艦】
    艦名主造船所起工進水竣工除籍備考
    香取三菱・横浜1938.8.241939.6.171940.4.201944.3.311944.2.17戦没
    （トラック島空襲）
    鹿島三菱・横浜1938.10.61939.9.251940.5.311945.10.5終戦時残存。復員輸送後1947.解体
    香椎三菱・横浜1940.5.301941.2.141941.7.151945.3.201945.1.12 戦没
    （仏印キノン湾沖にて米軍機の攻撃による）
    橿原三菱・横浜1941.8.23マル5計画（昭和16年度）計画艦。
    1941.11.6工事中止、解体。

  3. 海上自衛隊練習艦「かとり」(JDS Katori TV-3501)
    1960年代に建造された、海自初の専用練習艦。

    それまで海自では、防衛大学校などを卒業した幹部候補生の練習航海に、一般の護衛艦を艦隊から一時的に外して充てていたが、これは艦隊戦力の一部である護衛艦を数ヶ月間拘束することになるため、負担軽減と戦力確保のために建造された。*10

    2.の旧海軍練習艦と同様、船体は商船型構造となっており、このスペースを生かして実習員の居住施設や訓練用の兵装が搭載されていた。
    30年近くにわたって海自幹部候補生の教育に携わってきたが、後継の「かしま」(TV-3508)に任務を譲って1998年に除籍・解体された。

    【性能緒元】
    排水量
    （基準/満載）    		3,350t/4,100t
    全長128m
    全幅15m
    吃水4.3m
    深さ10m
    機関蒸気タービン（20,000ps）2軸推進
    石川島播磨2胴衝動型×2基
    石川島播磨FW・D2胴水管型×2基
    速力25ノット
    乗員460名（定数295名、実習員165名）
    兵装68式50口径3インチ（76mm）連装速射砲*11×2基
    68式3連装短魚雷発射管×2基
    71式ボフォース対潜ロケット4連装発射機×1基
    レーダーSPS-12対空レーダー
    OPS-17水上レーダー
    Mk34射撃レーダー
    FCSMk63 射撃管制装置
    ソナーSQS-4
    電子戦装備NOLR-1B
    搭載機なし（ヘリコプター発着甲板のみ）


【同型艦】

艦番号艦名主造船所起工進水竣工除籍所属
TV-3501かとり
（JDS Katori）		IHI・東京1967.12.81968.11.191969.9.101998.3.20練習艦隊 第1練習隊


*1 八島と初瀬は老鉄山沖で機雷に触れて沈没。三笠は佐世保軍港停泊中、水兵の失火から火薬庫が爆発して沈没していた。
*2 姉妹艦の「鹿島」も随伴艦として参加している。
*3 初級士官の大量採用を見越して追加発注されたが、対米戦開戦によりキャンセルとなった。
*4 艦船・部隊全般の指揮を取る「兵科将校」を養成した学校。
*5 艦船の動力をつかさどる「機関科将校」を養成した学校。
*6 艦船・部隊の金銭出納管理や物資の補給、戦闘記録の作成などをつかさどる「主計科将校」を養成した学校。
*7 香取と鹿島が参加。香椎は未就役だった。
*8 当初は中国大陸沿岸へ向かう予定だったが、横須賀に寄港したところで打ち切られた。
*9 そのため、当初は艦隊の旗艦として、根拠地に単独で繋留されていたという。
*10 しかし現在でも、遠洋航海には専用練習艦と1〜2隻の護衛艦が随伴する。
　　また、航空学生出身の候補生が参加する短期の練習航海には一般の護衛艦があてられている。
*11 Mk.33 3インチ砲のライセンス生産品（日本製鋼所製）

トップ 新規 一覧 単語検索 最終更新ヘルプ   最終更新のRSS