【降伏】(こうふく)

Surrender.

戦闘員、およびその集団である部隊紛争当事者としての立場を放棄する事。
または、国家そのものが国家主権の一部または全部を放棄し、国民を保護する義務を放棄する事。

法律上の契約の一種であり、常に敵国の同意を必要とする点で敵前逃亡と異なる。
このため、奇襲などを目的とした虚偽の降伏は戦争犯罪とみなされる。
また、虚偽の降伏を行った国家は外交上の信用を失い、再び降伏を試みても拒絶されるリスクを負う。

現代ではジュネーブ条約ハーグ陸戦条約などの戦時国際法によって戦闘員に降伏する権利が保証されている。

従って、民兵テロリスト傭兵民間軍事会社などは降伏する権利を認められない場合がある。
それらは非合法戦闘員であり、そもそも紛争に関与する権利を認められていない。
投降自体は可能だが、文民統制の範疇外であるため戦闘中の殺人・器物損壊などは免責されないとされる*1

一般的には敵軍に身を委ねて捕虜となる事を意味するが、定義上は虜囚を必須とするわけではない。
とはいえ、武装した人間が銃を構えたまま降伏する事は常識的に考えて認められない。
従って、降伏する人間は武装していてはならないし、いつでも武装できるような状態であってもならない。
よって普通、降伏する際は敵軍に身柄を預け、武装する事が不可能な環境に隔離される必要がある。

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降伏の実態

原則として、指揮官は戦闘継続が不可能、かつ撤退も不可能と判断した時に降伏を決断する。
何をもってそう判断するかは個々の事例によるが、原則としては以下のような場合に降伏すべきとされる。

  • 交通路を封鎖される、艦艇が損傷するなどの理由で機動撤退が事実上不可能になった。
  • 燃料・弾薬・食料などの兵站物資が尽きた。
  • 死傷者による欠員によって部隊としての組織的活動に支障をきたした*2

降伏の意図を示すため、白旗・信号旗・ジェスチャー・口頭などでハッキリと意志を伝達する。
降伏を受けた側は付帯条件などの要求を行った上で武装解除などの確認を行う。
この時、「虚偽の降伏」であると判断された場合は戦闘を再開して良いものとされる*3
問題なく降伏が承認されれば敵国側で後送され、捕虜収容所などの紛争に関与できない環境に隔離される。
この隔離は基本的に紛争が終結するまで続くが、戦争当事国間の同意に基づいて戦中に返還される事もある。

降伏した人間に対して正当な理由なく危害を加えるのは戦争犯罪である。
よって、師団単位などの大規模な降伏が虐殺などの悲劇に繋がる事はほとんどない。

しかし小規模な部隊、特に数人以下での降伏では惨劇が生じやすいのも事実である。
降伏するために立ち上がった瞬間に誤射が発生してそのまま皆殺しに至る、などという事例は珍しくない。
また、情報を入手するための拷問や、捕虜収容所での無意味な虐待などといった事態もしばしば発生する。

そうした悲劇を防ぐのは憲兵の職務であるが、実際の紛争では完全な抑止はできていない。
特に最前線の強度ストレス環境下や、半ば密室と化した捕虜収容所では監視の目が行き届かない事が多い。


*1 こと紛争地帯において、その種の犯罪法が厳格に遵守されている事はまずないが。
*2 一般に、兵員数の1/3以上が死傷すると組織的な行動が不可能になるとされる。
*3 つまり、逃亡や抵抗を試みる者は即時に射殺して良い。
  ……実際に射殺を命じた指揮官を軍法会議がどう処理するかはまた別の問題であるが。


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