【航法】(こうほう)

Navigation.

自分の現在位置を把握し、目的地までの移動経路を確認する技術。
陸・海・空を問わず、旅をし、機動展開する際には必要不可欠である。

基本的には地図を確認する技術だが、地形などを観察して推定する技術も含まれる。
例えば現代でも、自動車の運転免許を取得する際には「地図を読む」航法の習得がほぼ必須とされる。

航法の発達史(概略)

文明以前

最も初歩的な航法は、陸上で目印となる地物を設定し、その形状と位置関係を覚えておく事である。

人類はその黎明期において、見晴らしの良いサバナ気候の草原で狩猟や採集を営んでいた。
多くても数十名程度の集落があるのみであった時代、振り返れば数km先に集落が見えていた。
しかしそれでも、狩人はしばしば地平線の向こう側まで獲物を追っていき、そしてしばしば帰ってこなかった。
今まで歩いた地形を記憶し、家族の待つ集落との位置関係を把握する能力は狩りに必須であった。

この資質は遺伝するらしく、現代でも航法に類する技術の習熟速度は男性の方が早い傾向にあると言われる。
俗に「話を聞かない男、地図の読めない女」などと引き合いに出される事もある。

古代〜中世

人類の文明は、地図の作成と航法の共有から始まる。
言語・図形による意思疎通が始まった最初期、まず伝えるべき情報は航法上の地形図であった。
それは集団で狩りをするため、あるいは農耕を始めるため、さらには交易を始めるために必須の情報である。
地図と航法なくして文明は成り立たず、地図と航法を発明した事で人は文明を築く事が可能になった。

とはいえ、言語的に共有できる情報には限りがあり、特に現在位置の把握は当人の記憶と直観に頼る他なかった。
特に船による航海においては、航海士が何度も往復してよく通る沿岸の地形を記憶しておくしかなかった。

大航海時代

数学・工学・天文学の発達に伴い、航法にもそれらの学術的知見が応用されるようになった。
砂時計による時間計測、糸による測距、羅針盤による絶対方位の確定、天文観測と暦による現在位置の推定などである。
こうした知識はルネサンス期のヨーロッパで集積・再整理され、世界が大航海時代を迎える端緒となった。

この時期の航法は、上記の数学的な仮定に基づく「推測航法」であった。
あらかじめ判明している位置を基準とし、羅針盤で方位を、天文観測で緯度を、船速を糸で測定する。
それら数学的な情報によって現在位置を推定し、地図・海図を広げていく事により、人類は交易圏を速やかに広げていった。

しかし、人間が計測する情報は不正確であったり、サボタージュなどで意図的に狂わされる事もしばしばであった。
古代に比べれば遙かに安全であったとは言え、遭難の危険性は無視できない程度に高く、航海は常に命がけの冒険であった。

近代・現代

航法器具は時代を経ると共に洗練され、18世紀ごろには誤差1海里程度の精度で緯度・経度を推定できるようになった。

そして現代ではほぼ全世界の地文計測が完了し、電子技術の発達による新たな航法も生み出されていった。

慣性航法
加速度・方位を積分することにより、初期位置からの移動距離を知ることが出来る。
装置や計算の精度による誤差が蓄積されるため、他の方法(地文・天測やGPS)と併用される。
無線航法(TACAN・ロラン・オメガなど)
地上の無線施設から発信される電波を利用して自身の現在位置を知る方法の総称。
衛星航法(NASS・GPSなど)
(原子時計など)超高精度の時計*1を搭載する人工衛星から送信された時間信号により、自身の三次元位置を知るもの。
衛星が見えない場合もあるため、他の方法と併用される。

*1 GPS衛星に搭載の原子時計は、誤差が数万年に±1秒程度だという。

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