【航空母艦】(こうくうぼかん)

固定翼機艦上戦闘機艦上攻撃機艦上爆撃機早期警戒機など)、ヘリコプターなどを搭載し、運用する能力を持った艦艇
日本語では一般には「空母」と略されるが、英語では"Aircraft Carrier"(直訳すると「航空機運搬艦」)と呼ばれる。

アメリカ海軍での略号は、通常動力正規空母が"CV"、原子力機関搭載の正規空母(原子力空母)が"CVN"、軽空母が"CVL"、護衛空母が"CVE"となっている。
また、ロシア海軍では艦自体も高い攻撃力を持った重航空巡洋艦として運用されている。

艦上機を発進させるときは風上に向かって全力で航行し、合成速度を生み出して発進させるが、カタパルトによって射出したり、スキージャンプを利用して自力発進させたりするものもある。
反対に着艦のときは、風上に向かって全力で航行しつつ、艦載機のアレスティングフックを甲板のアレスティングワイヤーに引っ掛けさせ着艦させるのがふつう。

黎明期には艦隊護衛や、少数を多方面で運用しゲリラ的な攻撃を行う艦として運用されていたこともあったが、真珠湾攻撃によって空母艦載機集中運用の有用性が証明され、以後の海上作戦において主力艦として非常に重要な役割を占めることになった。

各種軍用機の大型化は艦上機も例外ではなく、航空母艦は軒並み大型化するか、1隻あたりの搭載機数を減らしている。
そのため、アメリカ海軍の空母ニミッツ級(ジョージ・H・W・ブッシュ)では排水量が10万トンを超え、世界最大の軍艦となっている。
戦闘機数で言えば、一艦で航空自衛隊の3個飛行隊に匹敵する戦力を持っており、たいていの国の空軍と互角に渡り合えるともいわれている。*1*2
また、航空燃料や兵装の貯蔵空間の問題から、近年は原子力機関を搭載する艦も増えている。

関連:CIWS ジェットブラストディフレクター イージス艦 テイルフッククラブ 強襲揚陸艦

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"CV-63 Kitty Hawk" 米海軍最後の通常動力型正規空母 満載排水量:82000t 搭載機72+6機 米第7艦隊所属(横須賀) 2009年1月31日退役。

航空母艦の大型化とそれに伴うデメリット

前述のように、艦載機の大型化にともなって大型化していった現代の航空母艦は、建造に多額の費用がかかるだけでなく、搭載する航空機を揃えるのにも同額程度の費用を必要とし、維持費も高くついてしまう。
また、小さい甲板上に着艦するためにはパイロットにも相応の高い技術を必要とし、発着艦事故の危険もある。

加えて空母はそれ自体が高度な軍事機密の塊でもあり、1隻の空母が持つ政治的・軍事的な価値は非常に高い。
そのため、戦闘で失われる危険のある海域にはまず派遣されず、余程の事がない限り出動しない。
つまり、出動したと言う事はそれだけ深刻な事態と言える。

更に、航空母艦は搭載する多数の艦載機により高い攻撃力を発揮できるが、単体ではただの的に過ぎない*3
航空母艦を戦力として活用するには、イージス艦を筆頭とする護衛艦哨戒機などを随伴させ、敵の航空機戦闘艦潜水艦対艦ミサイルを容易に近付けさせない態勢を整えることが必要となるため、そうした態勢の構築にも莫大な費用がかかる。
加えて、ドックで整備・補修に入ればその間を埋めるための別の艦が当然必要となるので、常時空母を展開させるためには、最低3隻が必要となる。

以上のようなことから、航空母艦を保有・運用している国は後述のようにきわめて限られており、総トン数ベースでの保有量はほぼアメリカの一極独占となっている。
また、こうした不具合を補うため、近年では揚陸艦や補給艦の機能も併せ持たせてマルチロール化した「多目的空母」も考案されている。

分類

空母保有国の一覧

過去に空母を保有していた国の一覧


  • カナダ
    • ウォリアー(HMS Warrior R31)
      (イギリスから貸与されたコロッサス級航空母艦。マグニフィセントと交換。)
    • ボナヴェンチャー(HMCS Bonaventure CVL-22)
      (元英国マジェスティック級航空母艦「パワフル(HMS Powerful R95)」)
    • マグニフィセント(HMCS Magnificent)
      (元英国マジェスティック級航空母艦)

  • アルゼンチン(2隻とも元英国コロッサス級航空母艦「ウォリアー」・「ヴェネラブル(HMS Venerable R63)。退役。)
    • インデペンデンシア(ARA Independencia)
    • ベインティシンコ・デ・マヨ(ARA Veinticinco de Mayo)*6

  • オランダ
    • カレル・ドールマン(Hr. Ms. Karel Doorman R 81)
      (元英国コロッサス級航空母艦「ヴェネラブル」。アルゼンチンへ売却。)

  • オーストラリア
    (2隻とも元英国マジェスティック級航空母艦「マジェスティック(HMS Majestic R77)」・「テリブル(HMS Terrible R93)」。退役。)
    • メルボルン(HMAS Melbourne R21)
    • シドニー(HMAS Sydney R17/A214)

  • ドイツ(未完成)
    • グラーフ・ツェッペリン(Graf Zeppelin)※第二次世界大戦終戦後ソ連に接収され洋上基地(PB-101)になる。
    • ヴィーザル(アドミラル・ヒッパー級?重巡洋艦4番艦「ザイドリッツ(Seydlitz)」を建造途中に改造したが、物資不足で建造中止・廃棄。)


*1 これが空母の存在が政治的にも大きな問題になる理由の一つ。
*2 一説によると、アメリカの大統領は国外で大きな紛争・武力衝突・自然災害などの報せを受けると「一番近くにいる空母は?」と尋ねるという。
*3 船体が大きく運動性が鈍重になる上に、艦自体に搭載できる兵装も、自衛のためのCIWS(機関砲や短射程艦対空ミサイル)・対潜魚雷程度のごく限られたものにしかならないため。
*4 初代は元英国マジェスティック級「ハーキュリーズ」、1997年1月31日に退役
*5 元英セントー級「ハーミーズ」。
*6 1982年のフォークランド紛争にも参戦。

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