【誤射】(ごしゃ) †

銃火器やミサイルの発射時に誤って味方を撃つ等、意思外の標的を撃つこと。
爆撃で発生した場合は「誤爆」と言う。

攻撃する意志があったが、射手の認識や命中精度に問題があった場合に「誤射」あるいは「誤爆」という。
操作ミスや機械的欠陥によって攻撃する意志がないのに発射してしまった場合は「不時発射」と呼んで区別する。

人間が銃を扱う場合、誤射に至る原因の大多数は「条件反射」である。
銃を構えた人間が標的に似たものを発見したら、それが何かを論理的に判断する前に脊髄反射で撃ってしまう。
脊髄反射で逃げたり反撃したりする標的に対処するため、射手も思考せずに射撃できるよう訓練されるためである。
熟練の射手であろうと銃を構えた後から誤射を回避する事はできないし、むしろ熟練者ほど危険である*1。

こうした事故を防ぐ技術として、「BRASS」という射撃手順が知られている。
深呼吸し(Breathe)、リラックスして(Relax)、構えて(Aim)、照準し(Sight)、引き金を引く(Squeeze)。
この一連の作業に必要な数秒の猶予を確保する事ができれば、その間に状況認識を正し、条件反射での誤射を回避できる。
……そうした猶予のない緊急事態や、緊急事態だと思い込んで反射的に撃ってしまう時には活かせない技術でもあるのだが。

また、人間本来の生理反応によって予期しない誤射が発生する事も多い。
人間は一般に強度ストレス環境下では瞬発力や筋力が向上する反面、触覚が鈍麻して筋肉の微細な制御ができなくなっていく。
誰しも緊張しすぎれば体の反応が思い通りにならなくなる。当然、その齟齬は引き金にかけた指にも、脳の知覚認識にさえも及ぶ。

例えば、拳銃片手に警戒態勢を維持しつつ、片手で何か作業をしなければならない、という状況は不時発射を誘発する。
手錠を掛けたり、ドアノブを回したり、敵を掴んで引き倒す時に拳銃を暴発させてしまう事は多い。
極度に緊張した人間は「右半身と左半身の区別がつかなくなる」ため、右手と左手の動きが連動してしまうのである。

航空機や艦艇では標的を直接視認する事ができないため、誤射の危険がさらに大きい。
このため、誤射を防ぐためにマスターアームスイッチ、敵味方識別装置等各種安全装置が取り付けられている。
しかし、対地攻撃や陸上戦力ではそのような安全装置はほとんど機能しない*2。
このため、戦場における誤射の大半は爆撃機での空爆、曲射砲、歩兵の火器で発生する。

*1 「反射的に撃つのをやめる」技術を修めた超人的な射手が存在し得る事は否定しない。
　　しかし、トップアスリートの世界でさえ反射的な判断ミスは起こり得る。ましてや一介の兵士や狩人となれば。
*2 陸上戦は状況が複雑化する事が多く、また敵の状況を事前に予測できない事も多いため、安全装置によるタイムロスは誤射よりも遙かに致命的になり得る。

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