【限定戦争】(げんていせんそう)

Limited war

適当な時点で和平交渉に移る事を念頭に置いて行われる戦争。
国家総力戦の対義語。

通常、宣戦布告の段階で戦争の意図(攻略目標)と戦域が指定され、その範囲でのみ攻撃が行われる。
侵攻側の作戦が完遂し、または達成不能となった時点で和平協議の場が持たれる。
和平交渉が決裂した場合、現地に増援が派遣されて限定戦争が継続される。
あるいは事態が完全に収集不可能となって国家総力戦に移行せざるを得なくなる場合もある。

限定戦争が成立する理由

全ての戦争は利得に関する開戦事由から始まる。
戦争は国益を確保するための手段であり、当然、勝つ事で得る利益を念頭に置かねばならない。

翻って、戦争そのものは無益であり、浪費である。
勝利が国益をもたらすのは終戦復興の後であり、しかもその利益は軍事力そのものとは関係がない。
勝つために費やした砲弾が多かろうと少なかろうと、勝った時に得る利益は増えない。
むしろ戦力を増やせば増やすほどコストが増大し、勝者の配当が軍事費の補填で消えていく。

したがって、戦争による損害額がある一定の限度を超えると、戦争は勝者に利益をもたらさなくなる。
勝つまでの過程で鉄と血を費やしすぎれば、勝利そのものが無価値になるのだ。
侵攻を受けた側にしても、奪還作戦の過程で失う事が許される人命の数は限られている。

戦争に際しては損益の分岐点を見極め、適切な時点で講和する事が望ましい。
勝者にとっても敗者にとってもそれが望ましいので、和平交渉が成立する余地がある。

限定戦争が破綻する事案

戦争で適切に利益を得ようとする試みはしばしば破綻する。
戦争で生じる被害の多くは無用な泥沼、戦略的には不必要な流血で占められる。

戦果や損害の重みに絶対的な基準はなく、それはドクトリンに基づいて推定するしかない。
ことさら『安全保証』や『国威』といったものの価値が問題になる場合、適正な代価など誰にもわからない。
そして人間はしばしば空想の産物を過大に評価し、正義に対する信仰は過剰な流血を許容させる。

また、国家は無数の利害と視点を束ねた集合体であり、意志決定は必ず歪むものである。
派閥力学やイデオロギー的偏見、脳の疾患*1など、価値判断に影響する"ノイズ"は多い。
権力者のみならず兵士や市民の意見も束ねれば重みを増し、デマゴーグは為政者の意志決定を難しくする。
レジスタンスが徘徊する情勢下で和平を唱えれば敗北主義の嫌疑で暗殺の危険にさらされるだろう。

そして何より、弱者には選択の余地がない。
弱者の基準で言えば破滅に等しい損害も、富める者の基準ではしばしば許容可能である。
皆殺しの憂き目に遭うまで戦い続けるのは誰がどう考えても合理的ではない破滅的事態である。
しかし、敵を皆殺しにするまで戦い続けるのは、それが可能であるなら、合理的であり得る。


*1 統合失調症による幻覚と妄想のバイアスに支配されていたとしか考えようのない為政者も歴史上かなり存在する。
  また、「人類史上まれに見る無能な将軍」のうち何人かは加齢・感染症・麻薬・毒物などによる脳機能の障碍を疑われている。


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