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*&ruby(けいさつよびたい){【警察予備隊】}; [#fc3fff68]
1950年(昭和25年)、当時の日本を占領下に置いていたアメリカが、[[朝鮮戦争]]へ在日米軍を派兵する上で空白になる日本の治安維持を目的として日本に設立させた武装組織。~
英文表記では「Reserved Police」。~
Reserved Police.~
~
当時の連合国軍総司令官、ダグラス・マッカーサー将軍が吉田茂首相へ防衛組織設立に関する書簡を送ってから2ヶ月足らずというあまりにも短い期間で創立されたため、法制度を殆ど整えることできず、憲法解釈等を強引に推し進めたため、現在でも憲法問題の影響を残している。((代表的な例に「恵庭事件」「百里基地訴訟」「[[長沼ナイキ事件]]」などがある))~
設立の主目的も「警察力の補完――治安維持」とされ、内閣直属の「警察軍」的な位置づけがなされていた(このため、初期に採用された隊員の試験には警察官と同様の「指紋採取」などの項目もあったという)。~
[[第二次世界大戦]]後の1950年(昭和25年)、日本政府が「国内の治安維持」を目的として設立した武装組織(準軍事組織)。~
当初は内閣直属の「([[反乱>クーデター]]に対応するための)[[警察軍(国家憲兵)>憲兵]]」という位置付けとなっており((当時、日本は[[ポツダム宣言]]により軍備を持つことを禁じられ、[[国軍>日本軍]]も解体されていた。))、後述するように急速な組織の立ち上げが求められたため、隊員の募集((当初は[[旧軍>日本軍]]出身者が多かった。&br;  ちなみに、初期の入隊試験には一般の警察官と同様「指紋採取」などの項目があったという。))や[[部隊]]の編成、駐屯地の設営など、初期の業務の多くは警察((当時の警察法(旧警察法)で国が運営していた「国家地方警察」。警察予備隊令付則第2項により、当面の間は隊務の一部を職掌することとされていた。))が代行していた。~
~
とはいえ、当時の警察予備隊は本格的な防衛活動をするだけの能力を持っておらず、[[米軍>アメリカ軍]]から貸与されたアメリカ製装備や、[[第二次世界大戦]]終戦後の武装解除で[[連合国]]軍(主に米軍)に接収された後、再返還された[[旧軍]]装備をかき集めてなんとか「武装組織」としての体裁を整えていたものの、訓練の殆どは体力練成という状態であった。~
1951年、ルース台風の被害を受けた山口県で創設以来はじめての災害派遣を行い、以後の災害派遣の前例となった。~
1952年に「保安隊」へ改編、さらに1954年に[[陸上自衛隊]]となった。
1951年、山口県での台風被害に際して災害派遣を行い、以後の災害派遣の前例となっている。~
1952年10月に「保安庁」の隷下組織である「保安隊」へ改編((保安庁は同年7月に設立され、隊本部組織はこの際に同庁へ統合されたが、事務手続き上の都合から、隊の実働組織は9月までの3ヶ月間、[[海上警備隊]](後の[[保安庁警備隊]])と共に保安庁の下部組織として存在した。))、さらに1954年に[[防衛庁]]の設立に伴って[[陸上自衛隊]]へと改編された。~
~
設立の主目的は、[[朝鮮戦争]]へ[[在日米軍>在日アメリカ軍]]が派兵された((開戦当初、在韓米軍と共に初動対応の主力となり、ほぼ全兵力が朝鮮半島へ送り込まれていた。))ことで生じる日本の軍事的空白を埋め合わせる事であり、法制度を整える時間的余裕はなかった((当時の連合国軍総司令官[[ダグラス・マッカーサー]]が、同じく当時の首相である吉田茂に書簡を送ってから2ヶ月足らずで創立されている。))。~
このため憲法解釈等を半ば無視して強引に設立されており、今日の[[自衛隊]]に至るまで様々な政治的禍根を残している((「警察予備隊違憲訴訟」「恵庭事件」「[[百里基地>百里飛行場]]訴訟」「[[長沼ナイキ事件]]」など。))。~
装備類の調達も不十分であったため((主に[[米軍>アメリカ軍]]からの貸与品と、[[連合国>連合国(第二次世界大戦)]]軍に[[接収>鹵獲]]されていた[[旧軍>日本軍]]装備の一部を利用していたが、必要十分な数を調達することはできなかった。))、当初は訓練さえ思うように行えない状態であったという。~
>なお、沖縄は当時日本の施政権下から切り離されていたが、同地でも同様の武装組織である「琉球警察軍」の編制が検討されていた(実現せず)。

**組織構成の概要 [#r36584c7]
警察予備隊の組織概要は次の通りであった。~

-内閣
--内閣総理大臣(最高指揮権を有していた)
--警察予備隊担当国務大臣
--警察予備隊担当国務大臣(根拠法令「警察予備隊令」第9条の規定により設置された)

-警察予備隊本部(警察予備隊本部長官以下約100名)
-警察予備隊本部(警察予備隊本部長官以下約100名、所在地:東京・越中島駐屯地)
--長官官房
--警務局
--人事局
--装備局
--経理局
--工務局
--医務局
-その他本部付属機関
--警察予備隊建設部
--警察予備隊地方建設部(全国4ヶ所)
--警察予備隊地方建設部(全国4ヶ所)~

-警察予備隊総隊(総隊総監以下約75,000名。実働部隊)
--総隊総監部
--4個管区隊([[師団]]相当。各隊約15,000名)
--総隊総監部直轄部隊
-警察予備隊総隊(総隊総監以下約75,000名((この兵力は当時駐留していた[[在日米軍>在日アメリカ軍]]の総兵力にほぼ匹敵していた。))。実働[[部隊]])~
司令官である「総隊総監」には、警察監(甲)が充てられた。~
--総隊総監部及びその直轄[[部隊]]
--[[管理補給隊>兵站]]
--第1〜第4[[管区隊]](一般的な[[陸軍]]における「[[師団]]」相当の部隊。各管区隊の兵力は総監以下約15,000名)~
司令官である「管区総監」には、警察監(乙)、または警察監補が充てられた。~
各管区隊に[[普通科]]及び[[特科]][[連隊]](([[部隊]]番号は「61」から始まっていた。))(それぞれ[[歩兵]]連隊及び[[砲兵]]連隊に当たる)が編成された。~
その後の[[陸上自衛隊]]においてもこの編成が引き継がれ、[[第1>第1師団(自衛隊)]]〜[[第4師団>第4師団(自衛隊)]]のルーツともなった。

--第1管区隊(総監部(本部)所在地:東京・越中島駐屯地)~
守備範囲は南東北地方・関東甲信越地方・東海地方。~
---第1連隊(総監部所在地:神奈川県・久里浜駐屯地(第3大隊は愛知県・豊川駐屯地))
---第2連隊(総監部所在地:長野県・松本駐屯地)
---第3連隊(総監部所在地:新潟県・高田駐屯地(第3大隊は石川県・金沢駐屯地))
---第61連隊(総監部所在地:愛知県・豊川駐屯地)

--第2管区隊(総監部所在地:北海道・真駒内駐屯地)~
守備範囲は北海道及び東北地方北部。~
---第4連隊(総監部所在地:北海道・帯広駐屯地(第3大隊は北海道・遠軽駐屯地))
---第5連隊(総監部所在地:石川県・金沢駐屯地(第3大隊は北海道・函館駐屯地))
---第6連隊(総監部所在地:栃木県・宇都宮駐屯地(第3大隊は宮城県・船岡駐屯地))
---第62連隊(総監部所在地:北海道・美幌駐屯地(第1大隊は北海道・帯広駐屯地、第5大隊は北海道・恵庭駐屯地))

--第3管区隊(総監部所在地:京都府・宇治駐屯地(後に兵庫県・伊丹駐屯地))~
守備範囲は北陸地方・近畿地方・中国地方(山口県を除く)及び四国地方。~
---第7連隊(総監部所在地:岡山県・水島駐屯地(第2大隊は広島県・福山駐屯地、第3大隊は京都府・舞鶴駐屯地))
---第8連隊(総監部所在地:広島県呉市広(第2大隊は広島県・海田市駐屯地、第3大隊は鳥取県・米子駐屯地))
---第9連隊(総監部所在地:香川県・善通寺駐屯地(第3大隊は愛媛県・松山駐屯地))
---第63連隊(総監部所在地:兵庫県・姫路駐屯地)

--第4管区隊(総監部所在地:福岡県・福岡駐屯地)~
守備範囲は九州地方((この当時、沖縄はアメリカ軍の直接軍政統治下にあり、日本政府の支配下から切り離されていた。))及び山口県。~
---第10連隊(総監部所在地:福岡県・福岡駐屯地(第3大隊は長崎県・針尾駐屯地))
---第11連隊(総監部所在地:山口県・小月駐屯地((現在の[[海上自衛隊]][[小月航空基地]]。))(第2大隊は福岡県・曽根駐屯地、第3大隊は大分県・中津駐屯地))
---第12連隊(総監部所在地:鹿児島県・鹿屋駐屯地((現在の海上自衛隊[[鹿屋航空基地]]。))(第3大隊は熊本県・熊本駐屯地)
---第64連隊(総監部所在地:長崎県・針尾駐屯地)

**隊員の階級 [#u0675e26]
警察予備隊の隊員(警察官)の階級は次表のとおりであった。~
参考に、保安隊・現在の[[陸上自衛隊]]における[[自衛官]]及び旧日本陸軍の階級との対比も示す。~

|区分|[[NATO階級コード&br;(参考)>NATO階級符号]]|警察官&br;(警察予備隊)|保安官&br; (保安隊) | 自衛官&br;(陸上自衛隊)|旧日本陸軍|
|[[将官]]|OF-9|>|CENTER:(該当なし)|陸将(甲)(([[統合幕僚長>統合幕僚監部]]または[[陸上幕僚長>陸上幕僚監部]]の職にある陸将。))|[[大将]]|
|~|OF-8|警察監(甲)((長官の指定する職についている警察官が任じられた。))|保安監(甲)|陸将(乙)|[[中将]]|
|~|OF-7|警察監(乙)((少将相当官。))|保安監(乙)|陸将補((1986年まで。))|[[少将]]|
|~|OF-6|警察監補((准将相当官。))|保安監補|~|~|
|[[佐官]]|OF-5|一等警察正|一等保安正|一等陸佐((1986年以降、一部がOF-6相当。))|大佐|
|~|OF-4|二等警察正|二等保安正|二等陸佐|中佐|
|~|OF-3|警察士長((1952年3月「三等警察正」に改称。))|三等保安正|三等陸佐|少佐|
|[[尉官]]|OF-2|一等警察士|一等保安士|一等陸尉|大尉|
|~|OF-1|二等警察士|二等保安士|二等陸尉|中尉|
|~|~|三等警察士((1952年3月に新設。))|三等保安士|三等陸尉|少尉|
|[[准士官]]((なお、現在の陸上自衛隊に[[准士官]]制度はない。))・[[下士官]]|OR-9|>|CENTER:(該当なし)|准陸尉|准尉|
|~|OR-8|~|~|[[陸曹長>曹長]]|(該当なし)|
|~|OR-7|一等警察士補|一等保安士補|一等陸曹|[[曹長]]|
|~|OR-6|二等警察士補|二等保安士補|二等陸曹|軍曹|
|~|OR-5|三等警察士補|三等保安士補|三等陸曹|伍長|
|[[兵卒]]|OR-4|>|>|CENTER:(該当なし)|兵長|
|~|OR-3|警査長|保査長|陸士長|上等兵|
|~|OR-2|一等警査|一等保査|一等陸士|一等兵|
|~|OR-1|二等警査|二等保査|二等陸士((この下に、かつては「三等陸士」が存在したが、2010年に廃止。))|二等兵|

***一部の階級の対照について [#sfde7ad2]
警察予備隊の警察官と自衛官との階級の対照は、おおむね上表のとおりとされているが、警察予備隊側の上級幹部である「警察監」及び「警察監補」と自衛官側の「将」「将補」については、一般には「警察監が将、警察監補が将補に相当」と言われているものの、実際には対応していない。~
詳しい経緯は不明だが、警察監(甲)が3つ星、警察監(乙)が2つ星、そして警察監補が1つ星であるためであった。~
[[保安庁警備隊]]でも、警備監(甲)のみが海軍中将に相当する階級章なので、3つ星は[[中将]]、2つ星は[[上級少将>少将]]=[[少将]]((上級少将を置く例としてイタリア海軍等がある。))、1つ星が[[少将]]=[[准将]]に相当すると考えられ、実質3階級であった。~
~
後の自衛隊になって、将が3つ星、将補は2つ星となり、1つ星はなくなった。~
これは、当時の[[防衛官僚>背広組]]が唱えた「管区総監=師団長、保安監=[[中将]]、アメリカ軍中将=3つ星、従って管区総監=3つ星」という些か乱暴な論法が原因である。~
今日、[[PKF>国連軍]]や[[多国籍軍]]への参加において、1つ星階級の不在は[[旅団]]規模の部隊の派遣に支障を来す((近年、[[陸軍]][[部隊]]の[[戦略]]的な基本単位を「[[師団]]」から「[[(独立混成)旅団>旅団]]」に改める国が増えている。))ことが予想される。~
>陸自の旅団長には[[少将]]相当官である[[将補>将補(自衛官)]]が充てられているが、国際的には、旅団長は一般的に[[准将]]の充て職とされている。~
そのため、将補では外国軍の旅団長よりも先任者となってしまう一方、(職責こそ[[准将]]及び[[代将]]と同格だとはいえ)一佐(1)では格下になってしまい、バランスがとれなくなる。

**余談 [#b7aa6cf4]
近年、ネット上(主に一部のブログ)で、アメリカ軍の攻撃で在来政権が崩壊したアフガニスタンやイラクなどで、親米派政権によって作られた軽武装の治安維持組織を(かつての日本での経緯になぞらえて)「警察予備隊」と呼称しているものが散見されているという。
日本で警察予備隊が保安隊へと改編された1952年に、ドイツ民主共和国(東ドイツ)では「兵営人民警察」という準軍事組織が立ち上げられ、1956年3月にこの組織は「国家人民軍(東ドイツ軍)」に改組された((一方、西ドイツの再軍備はこれよりも遅れ、1955年に国軍が立ち上げられた。))。~
また、警察予備隊や兵営人民警察よりも先駆けて、アメリカ軍政庁((正式名称は「在朝鮮アメリカ陸軍司令部軍政庁(英:United States Army Military Government in Korea)」。))による占領統治下にあった朝鮮半島南部では、1945年11月に「海防兵団」が、1946年1月に「国防警備隊」が組織され((なお、1946年の6月15日に、海防兵団は「海岸警備隊」へ、国防警備隊は「朝鮮警備隊」へと改称された。))、1948年の大韓民国(韓国)成立に伴い、それぞれ「大韓民国[[海軍]]」「大韓民国[[陸軍]]」へと発展的解消を遂げた。


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