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*&ruby(ぐんぽうかいぎ){【軍法会議】}; [#t49a0eb4]
[[軍隊]]の組織のひとつで、主として軍人及び軍属が関与した刑事事件についての裁判を担当する機関。~
軍人・軍属が関与した犯罪を扱う裁判。およびその裁判を執り行うために配置された人員。~
「軍事裁判所」「軍事法廷」とも呼ばれる。~
~
種類としては
-平時・戦時を問わず運営され、一般的な事件を取り扱う「常設軍法会議」
-戦時、最前線において随時設置・運営され、[[スパイ]]行為や[[敵前逃亡]]・命令不服従などの事件((かつては[[戦争神経症]]に罹患した患者がこれらの罪状により処罰されることが多かった))を取り扱う「特設軍法会議」
大別して、以下の二種類に分けられる。~

の二つがある。~
**常設軍法会議 [#m36d2b40]
基本的に[[憲兵]]組織の隷下に置かれ、[[憲兵]]が扱った事件を担当する裁判所。~
国内法に則って通常の裁判を執行するもので、特殊な法律が適用されるわけではない。

>ほとんどの国家は軍事的状況における犯罪の特例を定めているが、これは特殊な法律の適用ではない。~
例えば戦場で敵国の軍人を殺す事は殺人事件とはみなされないが、それは軍法会議が裁くからではない。

裁判の実態は、そもそもどのような法制度が敷かれているかによる。~
法治国家であれば審理・裁決が公開され、被告人にも弁護人を呼ぶ権利が与えられているだろう。~
非公開の暗黒裁判が常態化しているような国家であれば、当然ながら軍法会議もその例に則る事になる。~
~
前者は一般の裁判所と同様の形式をとっていて、「法務官」と呼ばれる法曹に関する資格を持つ軍人(もしくは軍属)((階級は被告人と同等もしくは上級の者があたる))が事件の審理を取り扱い、これに現役軍人から選ばれる「判士([[日本軍]]の制度にあったもの)」や陪審員などが参加する。~
また、一般の刑事裁判と同様に審理は原則として公開で行われ、被告人には弁護人をつけることや上級機関への上告も認められている。~
ただし一般の裁判と違って「真実の発見」よりも「軍隊の指揮権・指揮命令系統の維持」が優先されるので、軍法会議の長は師団長・艦隊司令官など、部隊指揮官の職にある軍人が兼任する。~
ただし、以下の点で通常の裁判所と異なる。

-裁判官は全て法曹であると同時に軍人または軍属で、被告と同等以上の[[階級]]を要求される。~
[[軍隊]]に限った事ではないが、部下が上官を叱責したり処罰するなどという事は原則として許されない。
-裁判長の職務は[[師団]]長・[[艦隊]司令官などの[[部隊]]指揮官が兼任する。
-「真実の究明」よりも「軍隊の指揮命令系統の維持」が優先される((これは制度上の欠陥ではなく、意図してそのように配慮されている。国民の権利を守るためには、まず国家自体を防衛しなければならないためだ。))。~
-敗走した指揮官の責任((古来、将軍が敗北する事は「死をもって償うべき」重罪とされていた。&br;  現代においては、戦闘に敗れたことを罪とするのは「罪刑法定主義」の観点から問題視されるものの、当事者の更迭や[[予備役]]編入はまず免れ得ない。))、軍事行動の法的正当性など、軍事行動に特有の案件を扱うケースが多々ある。
-[[戦術]]・[[戦略]]的な分析が必要とされる案件の場合、事件性よりも[[バトルプルーフ]]の検証が重視される。

***軍法会議の問題点 [#t3c03112]
前述のような特性を持つ関係上、審理・裁決の公平性には多大な疑問の余地がある。~
軍隊そのものの維持管理が法律上の正当性より優先されるため、判決が不公平になるのは構造上避けられない。~
一例として、以下のような構造的歪みが指摘されている。

-被害者が「本国の国籍」を持たない場合には非常に甘い処分が下される傾向にある。
-裁判参加者が「身内」で固まる性質上、事前の談合によって裁判自体が茶番になる可能性が高い。~
民事事件の多くが調停や示談で解決するのと同様、「正義」や「真実」はしばしば軽視される。
-軍事的・外交的・政治的な理由から意図的に不公正な判決が下る事がある。
>例えば、被告人の[[階級]]が高いほど処分が甘くなったり不起訴処分に終わったりしやすくなる。~
[[高級士官>士官]]が審理や処罰のために職務を離れると、隷下の[[部隊]]に大きな混乱が生じかねないためである。~
一方、[[士気]]への影響や[[ドクトリン]]の対立などから私刑に近い極端な厳罰が下される事もある。

ドイツなどいくつかの国家ではこれらの不公正性が重大な問題とされ、軍法会議の制度が廃止された。~
そうした国家では、一般の裁判所が「軍刑法」に基づいて軍事的案件を処理するものと定めるのが一般的である。~
>ドイツでは、これに加えて兵士を不当な圧力から保護する制度が整備されている。~
いじめやパワー・ハラスメントなどに対する法的な告発を行う権利が、[[階級]]を問わず全ての将兵に与えられている。~
ただし、これを人権思想上の進歩と見るべきか、ドイツ軍の制度的な疲弊・混乱を示す徴候と見るべきかについては議論の余地がある。

**特設軍法会議 [#r7092127]
戦時に招集され、[[利敵行為>スパイ]]、[[敵前逃亡]]・命令不服従など(([[戦争神経症]]に罹患した患者がこれらの罪状で処罰される事は多い。))[[軍事]]的案件のみを扱う裁判。~
基本的には[[尉官]]以上の[[将校]]・[[士官]]を3人集めれば''いつでもどこでも''開催でき、''通常の法よりも戦時法が優先される。''~
つまり、戦時中の軍隊が敵を射殺する事が許されるのと同じ理由から、容疑者をその場で射殺する事も許される。~
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戦闘で敗北した指揮官の責任を問うケースでは、その時々の命令の妥当性や彼我の戦力状況、装備の効果なども軍事のプロである裁判参加者(判士・陪審員など)によって調査・検討されることから、貴重な戦訓や装備の不具合・改良点などが判明することもある。~
こうした極度に簡易で恣意的な裁判制度が成り立つのは、まさしくそのような裁判制度が必要とされるためである。~
有事において決断の遅れは将兵の死に繋がるため、敵を殺害する決断に際して煩雑な手続きを要求するべきではない。~
そして利敵行為・命令不服従を行う者は敵であるから、これを射殺する決断は迅速に行われる必要がある。~
そうした決断が間違いである可能性は非常に高いが、どんな頓珍漢な命令であろうと緊急時の沈黙よりは望ましい。~
~
とはいえ、こうした制度が「虐殺行為」を正当化するための言い訳に利用される事は否めない。~
ただ、「特設軍法会議で下した決断が妥当であったかどうか」もそれ自体で軍法会議の対象となり得る案件である。~
戦場での残虐行為はしばしば許容されるが、決して「常に」「無制限に」許容されるわけでもない。

**自衛隊の場合 [#i6865fdc]
現在の日本国憲法は「特別裁判所((最高裁判所を筆頭とし、高等裁判所・地方裁判所・家庭裁判所・簡易裁判所・知的財産高等裁判所(東京高等裁判所の支部として設置)及び裁判官弾劾裁判所(国会内に設置)以外の裁判所。))」の設置を禁じており、このため[[自衛隊]]は軍法会議・営倉・軍刑務所などの刑事機関を設置していない。~
[[自衛官]]や[[その他の防衛省職員>背広組]]が関与した[[軍事]]的案件に対しても一般の刑法が適用され、一般の刑事事件として処理される。~
~
これに対し後者は、少尉以上の職階にある士官が3人以上いればいつでもどこでも開催可能であり、(法律に関する知識が不足している者が多いことから)恣意的な判決が下されることが多かった。~
しかも弁護・公開・上告は認められず、即時判決で即時処刑となることが多く、[[ハーグ陸戦条約]]で禁じられている「虐殺行為」を正当化するための言い訳としても利用されていた。~
(また後年には、そのことから「暗黒裁判」の代名詞として使われるようにもなった)~
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ちなみに現在の[[自衛隊]]では(日本国憲法で「特別裁判所」の設置が禁じられている、との理由から)軍法会議は設置されておらず、自衛官や[[防衛省]]職員が加害者とした関与した刑事事件は、一般の刑法・刑事訴訟法に則って処理されることとなっているが、そのことから「有事の際の敵前逃亡や命令不服従を正当に裁けない」として、憲法を改正して軍事裁判所を設置することを求める主張がある。~
しかし反面、「『終審として最高裁判所の判断を仰ぐ』という形を取れば、現憲法体制下でも軍法会議を設置することは可能」という論もある。~
(実際、[[アメリカ軍]]の軍法会議も連邦最高裁判所が終審として関与する)
この事から、「有事の[[敵前逃亡]]・命令不服従を正当に裁く事ができない」として憲法の改正を求める声も一部にある。~
一方で「終審さえ最高裁判所の管理下であれば良いので、自衛隊内に裁判所を設置する事は合憲である」と解釈する事も可能ではある((常設軍法会議に関しては。特設軍法会議は少なくとも10以上の日本国憲法条文と抵触する。))。~
ただし、日本国内に事実上の軍法会議を設置する事は合憲か否か、という点について参考にできる判例はない。

**軍法会議の問題点 [#b924eb82]
軍法会議のシステムには以下のような欠点が指摘されている。~
+「身内同士のかばい合い」や「組織防衛」に走ってしまい、不公正な判決が出ることがある((一例として、アメリカ軍では外国人が被害者となった事件の場合、処分が非常に甘くなることが多い))。
+一般的に下士官や兵は厳格に裁かれるが、高級士官には甘くなるため不信感を招きやすい。
+政治的な理由から、意図的に不公正な判決が出るケースもある。


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