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*&ruby(ぐんば){【軍馬】}; [#a52df566]
War Horse / Charger.~
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[[軍隊]]で使役できるように訓練された馬([[動物兵器]])。「戦馬」とも。~
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草食動物である馬は本来、危険に対して極めて敏感で、逃走以外の選択を行わない、いわゆる「臆病な動物」である。~
血の匂いや大声、武器の打撃音などですぐに恐慌状態に陥るため、そのままでは使いものにならない。~
兵器として使用するには恐慌状態の抑制が必須で、そのための調教には年単位の時間がかかる。~
また、どうあっても適性のない個体の排除、身体能力に優れた個体の選別など、品種改良も必要となる(([[大東亜戦争]]終戦までの日本で行われた競馬には「優秀な軍馬を生産するために必要な種牡馬・繁殖牝馬を選定し、若いうちに確保する」という名目があった。&br;  そのため、長距離・重負荷のレースが多く行われていた。))。~
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[[兵器]]として使用するには恐慌状態の抑制が必須で、そのための調教には年単位の時間がかかる。~
また、適性のない個体の排除、身体能力に優れた個体の選別など、品種改良も必要となる。

>そうして選定された馬の品評会として「競馬」が行われる事が多かった。~
古代の競馬は優れた軍馬を所有している事を示して権勢を誇示する貴族の権力争いでもあった。~
また、近代競馬にも[[兵站]]施策の一環として優秀な軍馬を生産・選定・確保する意図があった((そのため、当初は長距離・重負担の競走が多く行われており、それに対応できる個体が重要視されていた。))。

典型的な軍馬に要求される『性能』は以下の通り。
-手綱を用いずとも御者・乗り手の意思に反応する事~
-戦闘の恐怖にある程度まで((完全に耐える軍馬は現在まで存在した試しがない。&br;  また実際、「どんな非常事態でも全く興奮しないほど愚鈍な馬」が軍馬として実用に耐えられるものかは疑わしい。))耐える事~
-鎧の騒音・銃声・人間の大声など、軍隊特有の煩わしい環境に慣れている事
-武装した[[騎兵]]・馬車の重量を支えて[[機動]]できるだけの膂力と持久力を持つ事((実際のところ、かなり後年になるまでそのような大きく力強い馬は希少であった。&br;  それでも膂力と持久力で人間より遙かに優る事は疑いなく、どんな駄馬でも[[輜重]]輸送の役には立った。))~

-周囲の戦闘音にある程度まで耐える事~
完全に耐える軍馬は現在まで存在した試しがない。~
しかし、そんな馬が仮に存在したとして、「どんな非常事態でも全く興奮しないほど愚鈍な馬」が軍馬として実用に耐えられるものかは疑わしいが。
軍用ではあるが、基本的には大人しい馬が好まれ((そのため、牡馬は去勢されることが多い。))、敵兵を蹴ったり噛みついたりする馬は忌避された。~
軍馬にそのような戦闘訓練を施しても戦果に繋がらず、味方の御者や[[騎兵]]を傷つけるだけの結果になる事が多かった。~
根本的に、馬の知能では戦場で人間の敵味方を識別する事が不可能であったためである。~
また、動物の凶暴性は警戒心や恐怖に結びつくものであるため、凶暴な馬は大人しい馬よりひどく恐慌する傾向にある。

-[[騎兵]]の用いる鎧と武器に慣れ、そのまま行動できる気性と身体能力~
繁殖能力のある牡馬は気性が荒くなることが多いため((特に春は発情期であるため、その傾向が更に強まる。))、軍馬として使われる馬には去勢手術が施されることが多い。~
一方で、必要に応じて敵兵を蹴ったり、噛みついたりするように訓練された馬もいたが、そうした凶暴性は恐怖の裏返しである事も多く、安定性に欠けるため次第に必要とされなくなっていった。
**略史 [#g4ec7258]
馬の原種が人間に飼われ、家畜化したのは紀元前4000年ごろの南ロシアである。~
これは主要な家畜種の中でもっとも遅く、必然的にその需要はかなり限られていた。~
食用としては羊・山羊・豚に劣り、使役動物としての「馬力」は牛に比べて非常に劣る。~
馬の利点はその速度であり、人間を乗せ、または車やソリを牽引して移動する事が主要な用途とされた。~
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やがて家畜化された馬はユーラシア大陸全域に広まるが、サハラ以南、南北アメリカ((北アメリカ大陸はウマ科の発祥地であるが、氷河期の末期に絶滅した。後に発生した「[[マスタング]]」は、ヨーロッパから持ち込まれた馬が野生化したものである。))、オーストラリアには近代まで伝播しなかった。~
それらの地域で[[騎兵]]が存在し得なかったという事実は、大航海時代以降のジェノサイドを招いた要因の一つと目されている。~
>馬に匹敵する大型哺乳類は世界中に分布していたが、そのほとんどは(人間に対応できる社会性がなく)家畜化されなかった((むしろ馬や牛の原種のように、徹底して人間に都合良い習性をもった従順な動物の方が例外といえよう。))。~

**略史 [#g4ec7258]
軍馬は、人類が馬を家畜化した紀元前4000年ごろ、[[騎兵]]が登場するとともに出現した。~
狩猟採集民や遊牧民は単に生活のために馬を飼ったが、農耕国家では馬は当初から[[騎兵]]のために用意された。~
当初は騎馬戦車の牽引に用いられたが、その後、騎兵の発達に合わせて変化を遂げていく。~
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中世には、重い鎧をまとった[[騎士]]を戦場に連れて行く強さとスタミナを備えた大型の馬が出現。~
この馬は品種改良のベースとなり、現代の競走馬やばん馬などの先祖ともなった。~
重騎兵はやがて時代遅れの兵科になったが、軍馬は行軍・[[兵站]]輸送の手段として使役され続けた。~
重騎兵はやがて時代遅れの兵科になったが、軍馬は[[乗馬歩兵>歩兵]]や[[(騎馬)砲兵>砲兵]]の行軍・[[兵站]]輸送の手段として使役され続けた。~
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20世紀半ばからの自動車の発達([[機械化]])により、軍馬はほぼ姿を消すことになる。~
しかし現在でも儀礼用のごく小規模な騎馬部隊を持つ軍隊は多く、完全に姿を消してはいない。~
その後、20世紀半ばからの自動車の発達([[機械化]])により、軍馬はほぼ姿を消すことになるが、現在でも騎馬部隊を持つ国家は多く((ただし、その用途は「儀礼用」「警察機関の市街地における警備・暴徒鎮圧」などと限定されたものであり、実戦目的で騎馬部隊を保有・運用する国は少数となっている。))、完全に姿を消してはいない。~
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また、軍馬の発展は馬の品種改良を大きく促し、その血統は現代にまで受け継がれている。~
現在の競馬・馬術競技やソリ・馬車の牽引に用いられる馬たちもほぼ全てが軍馬の子孫である。


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