【軍馬】(ぐんば)

軍隊で使役できるように訓練された馬(動物兵器)。「戦馬」とも。

草食動物である馬は本来、危険に対して極めて敏感で、逃走以外の選択を行わない、いわゆる「臆病な動物」である。
血の匂いや大声、武器の打撃音などですぐに恐慌状態に陥るため、そのままでは使いものにならない。
兵器として使用するには恐慌状態の抑制が必須で、そのための調教には年単位の時間がかかる。
また、適性のない個体の排除、身体能力に優れた個体の選別など、品種改良も必要となる。

そうして選定された馬の品評会として「競馬」が行われる事が多かった。
古代の競馬は優れた軍馬を所有している事を示して権勢を誇示する貴族の権力争いでもあった。
また、近代競馬にも兵站施策の一環として優秀な軍馬を生産・選定・確保する意図があった。

典型的な軍馬に要求される『性能』は以下の通り。

  • 手綱を用いずとも御者・乗り手の意思に反応する事
  • 戦闘の恐怖にある程度まで*1耐える事
  • 鎧の騒音・銃声・人間の大声など、軍隊特有の煩わしい環境に慣れている事
  • 武装した騎兵・馬車の重量を支えて機動できるだけの膂力と持久力を持つ事*2

軍用ではあるが、基本的には大人しい馬が好まれ、敵兵を蹴ったり噛みついたりする馬は忌避された。
軍馬にそのような戦闘訓練を施しても戦果に繋がらず、味方の御者や騎兵を傷つけるだけの結果になる事が多かった。
根本的に、馬の知能では戦場で人間の敵味方を識別する事が不可能であったためである。
また、動物の凶暴性は警戒心や恐怖に結びつくものであるため、凶暴な馬は大人しい馬よりひどく恐慌する傾向にある。

略史

軍馬は、人類が馬を家畜化した紀元前4000年ごろ、騎兵が登場するとともに出現した。
当初は騎馬戦車の牽引に用いられたが、その後、騎兵の発達に合わせて変化を遂げていく。

中世には、重い鎧をまとった騎士を戦場に連れて行く強さとスタミナを備えた大型の馬が出現。
この馬は品種改良のベースとなり、現代の競走馬やばん馬などの先祖ともなった。
重騎兵はやがて時代遅れの兵科になったが、軍馬は行軍・兵站輸送の手段として使役され続けた。

20世紀半ばからの自動車の発達(機械化)により、軍馬はほぼ姿を消すことになる。
しかし、現在でも騎馬部隊を持つ国家は多く*3、完全に姿を消してはいない。

また、軍馬の発展は馬の品種改良を大きく促し、その血統は現代にまで受け継がれている。
現在の競馬・馬術競技やソリ・馬車の牽引に用いられる馬たちもほぼ全てが軍馬の子孫である。


*1 完全に耐える軍馬は現在まで存在した試しがない。
  また実際、「どんな非常事態でも全く興奮しないほど愚鈍な馬」が軍馬として実用に耐えられるものかは疑わしい。

*2 実際のところ、かなり後年になるまでそのような大きく力強い馬は希少であった。
  それでも膂力と持久力で人間より遙かに優る事は疑いなく、どんな駄馬でも輜重輸送の役には立った。

*3 用途は「儀礼用」「警察機関の市街地における警備・暴徒鎮圧」などがほとんどである。

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