【核兵器】(かくへいき)

Nuclear Weapon.

特殊相対性理論の「E=mc^2(エネルギーは光速の二乗×質量に等しい)」の法則を原理とする兵器。
核分裂核融合など、物質の質量が欠損するような反応を引き起こす事で膨大なエネルギーを発生させ、大破壊を引き起こす。
この破壊現象は強烈な光、電磁波熱線、衝撃波によってもたらされる。

最小のものでも数百キロトン以上の破壊力を発揮し、危害半径が数Km以上に及ぶ大量破壊兵器である。
また、原料としてウランプルトニウムなどの放射性物質が使用されるため、爆発した地点(爆心)とその周辺では致死性の放射性物質による甚大な環境汚染が発生する。

関連:水素爆弾 原子爆弾 中性子爆弾 戦略核兵器 戦術核兵器

人類最強の軍事力、として

現時点において、核兵器は人類が生み出し得る最大の破壊力であり、人類最強の軍事力と言える。
そのため、核兵器の出現は第七の軍事革命と呼べる出来事であった。
核兵器が登場した1940年代から現代に至るまで、核兵器保有国になる事で得られる軍事的・外交的な有利は計り知れない。

核兵器は一撃で大都市一つ、あるいは一個軍団(兵員数でいえば数万人規模)をまとめて消滅させる恐るべき破壊力を秘めている。
しかしその反面、敵から核攻撃を受ける事は自国の滅亡へと直結するほどの被害を被る事になる。
さらには、無差別的に使用すれば「核の冬」と呼ばれる大規模な環境破壊をも引き起こし、人類そのものの絶滅にさえ繋がりかねない。
そのため、1950年代にソ連が核兵器の開発に成功し、第二の核兵器保有国となった時点で相互確証破壊が成立し、結果的にどの国も核兵器を投入できなくなった。
以降、核兵器保有国同士での国家総力戦はタブーとなり、核兵器は皮肉にも世界平和への抑止力として機能する事となった。

一方で、核兵器保有国は非保有国に対して砲艦外交を行うのが常となったのも一つの事実である。
先進国同士での直接対決が想定されなくなった結果、その軍事力を旧植民地や発展途上国への恫喝に用いる事も容易となった。
経済的発展のために軍事侵略を行うのは著しく困難になり、世界の富は一部の先進国へと集中していった。

(軍事史的観点からの)副次的要素

核兵器の登場がもたらしたもう一つの副次的な要素として、近代軍事思想の主流であった国家総力戦思想が退潮する契機のひとつとなったことがあげられるだろう。
前述のように、核兵器はきわめて短時間のうちに万単位の人間を殺傷し、周辺の環境に長期的な影響を及ぼす強大な破壊力を持っているため、それが使用されずとも、戦争が短時日で決着するようになった*1
そのため、年単位で戦闘状態が続き、兵員が漸次消耗していく人海戦術を前提とした国民皆兵制の必要性・必然性が薄まっていき、個人の自由意志による志願兵制への転換が進められていくことになった*2

中小国への核軍拡と国際社会の対応

核兵器の開発・運用には極めて高度な技術力*3が必要な上、核兵器不拡散条約において「1967年1月1日以前に核兵器その他の核爆発装置を製造し、かつ爆発させなかった」国は核兵器の保有を非合法化されたこともあって、保有・運用できる国は極めて限られていた。
殊にアメリカとソ連は、お互いの同盟国に対する核攻撃に対しても自国へのそれと同様に相互確証破壊を適用することとしており、以って国家総力戦を発生させえない態勢を確立していた。

そうした状況は1980年代半ばまで続いたが、冷戦末期に起きた米ソ双方の核軍縮、そして、その後に起きた東欧諸国の民主化とソ連の崩壊による冷戦の終結に伴い、大きく変化した。

この頃より
「核さえあれば、わが国は(決して友好的とはいえない)隣国に対して優位に立てるし、(アメリカ・ロシア・中国・EU・日本などの)先進国とも軍事的・外交的に対等に渡り合える」
として「国家安全保障」の観点から核武装を行おうとする中小国がいくつか現れた。

これは1990年代、ソ連崩壊後の混乱にまぎれて、旧ソ連が保有・運用していた核兵器やその関連技術・資材・スタッフが相当数国外へ流出し、入手がしやすくなっていたことも影響しているとみられる。
事実、統制経済から市場経済へ急激に移行したことによる種々の混乱や冷戦の終結による核軍縮の流れの中、冷戦期に過剰に増えた核技術者の多くが職にあぶれ、海外へと活動の場を求めて出て行ったのである。

そうした国々に対し、既存の核兵器保有国(特にアメリカ)を筆頭とする国は次のような対応をするのが常となっている。

  • 経済制裁
    核兵器やその原材料となる放射性物質、生産に用いられる原子炉や運搬手段となる弾道ミサイル・宇宙ロケットの現物、あるいは関連技術を取得させないようにするために行われる。
    具体的には
    「当該国を相手とする物資の輸出入や外国為替の制限・禁止」
    「当該国の港へ入出港する商船に対する海軍・海上警察機構による臨検
    「当該国に対する経済援助・人的交流の打ち切り」
    「当該国の政府・法人・個人が保有する在外資産の凍結」
    などが行われる。
  • 悪の枢軸」「ならず者国家」などのプロパガンダ
  • 国連安保理による当該国の核武装非難決議
  • 空爆スパイ特殊部隊による核関連施設の物理的無力化(特殊作戦

しかし、これらの対応が取られるにもかかわらず、実効性が上がっているとは言えないのが現実で*4、未だに核軍拡の流れは止まっているとは言い難い。
特に近年、政情の不安定な中東・東アジアの独裁国家による核の脅威が顕在化し、国際社会共通の懸念事項となっている。


*1 国家指導部が理性的であるならば、交戦相手側に核兵器の存在がちらつけば講和を考えるであろう。
*2 この流れは、1990年代以後の冷戦終結と湾岸戦争での多国籍軍の戦いぶりによって全世界的なトレンドになった。
*3 放射性物質の管理・純度向上や爆縮、運搬するプラットフォーム(弾道ミサイル戦略爆撃機戦略潜水艦など)の開発・運用技術など。
*4 物資の輸出入規制には「第三国経由」「別の物品とのバーター取引」という逃げ道があるし、金銭出納の制限についても、金融機関の守秘義務を悪用するなどの「マネー・ローンダリング(資金洗浄)」が起き得る。
  また、核関連施設の物理的な無力化策はややもすれば国際社会からの批判を浴び、新たな武力紛争の引き金となりえるリスクがある。


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