【海上保安官】(かいじょうほあんかん)

Coast Guard Officer.
海上保安庁の職員のうち、刑事訴訟法上の「特別司法警察職員」に指定されている者。
厳密には、3等海上保安士以上の階級を持つ「海上保安官」と1等海上保安士補以下の「海上保安官補」からなる(詳細は後述)*1

主な職務は、日本国の排他的経済水域内における海上と港湾での治安維持・法令の執行、捜索救難、海洋汚染の防止、海上交通の安全確保などとされている。
海上で発生した事案について警察官と同等の権限を持ち、必要に応じて武装する事も許されている*2
また、海賊については日本国の領海のみならず公海上でも追跡・拿捕および容疑者の逮捕と関連資産の押収ができる*3

こうしたことから、海上保安庁は一般の警察よりも軍事的色彩が強い。
国際的には「国境警備隊」や「沿岸警備隊*4」と同様の準軍事組織とみなされている*5

人員は独自に採用試験を行い、海上保安大学校(広島県・呉市所在)および海上保安学校(京都府・舞鶴市所在*6)の課程を卒業した者からなっている。
ただし、管区本部・本庁の基幹職員には各省庁からの出向者が就く他、一般の国家公務員試験枠から採用された人員も少数存在する。

階級

海上保安官(及び海上保安官補)の指揮命令系統は、以下に述べる15の階級から構成されている。

階級呼称英文表記概説
海上保安庁長官(Full) Admiral Japan Coast Guard
/Comandant
国内行政組織上では「外局の長官」であり、気象庁長官などと同格。
(警察では警察庁長官、及び警視総監と同等)
海上保安庁次長Vice Admiral Japan Coast Guard
/Vice Commandant
庁次席。国土交通省から出向したキャリア官僚が就任することが多い。
海上保安監*7Vice Admiral Japan Coast Guard
/Vice Comandant for Operations
次長と同格。現場での運用最高責任者。
1等海上保安監(甲)Vice Admiral Japan Coast Guard
/Coast Guard Superintendent 1st Grade Upper Half
本庁部長、本庁参事官、大学校校長、管区本部長などの階級。
1等海上保安監(乙)Rear Admiral Japan Coast Guard
/Coast Guard Superintendent 1st Grade Lower Half
管区本部次長、大阪海上保安監部長、大規模保安部長などの階級。本庁に在職者はいない。
2等海上保安監Captain Japan Coast Guard
/Coast Guard Superintendent 2nd Grade
本庁課長、保安部長、大型巡視船の船長などの階級。
3等海上保安監Commander Japan Coast Guard
/Coast Guard Superintendent 3rd Grade
本庁課長補佐、管区本部課長、中型巡視船の船長などの階級。
1等海上保安正Lieutenant Commander Japan Coast Guard
/Coast Guard Officer 1st Grade
本庁係長、保安部課長、小型巡視船の船長などの階級。
2等海上保安正Lieutenant Japan Coast Guard
/Coast Guard Officer 2nd Grade
本庁主任、管区本部係長、大型巡視艇の艇長などの階級。
3等海上保安正Ensign Japan Coast Guard
/Coast Guard Officer 3rd Grade
本庁係員、管区本部主任、中型巡視艇の艇長などの階級。
海上保安大学校卒業者はこの階級が初任となる。
1等海上保安士Petty Officer First Class Japan Coast Guard
/Junior Coast Guard Officer 1st grade
管区本部係員、巡視船艇乗組員などの階級。
刑事訴訟法上では、この階級より上位の海上保安官が
「司法警察員」に指定されている*8
2等海上保安士Petty Officer Second Class Japan Coast Guard
/Junior Coast Guard Officer 2nd Grade
この階級以下の海上保安官は「司法巡査*9」となる。
職責は1等海上保安士と同様。
3等海上保安士Petty Officer Third Class Japan Coast Guard
/Junior Coast Guard Officer 3rd Grade
海上保安学校卒業生の初任階級。
職責は1等・2等海上保安士と同様。
1等海上保安士補Leading Seaman Japan Coast Guard
/Assistant Coast Guard Officer 1st Grade
海上保安官補の階級。
現在は補職者がおらず空位。
2等海上保安士補Seaman Japan Coast Guard
/Assistant Coast Guard Officer 2nd Grade
3等海上保安士補Seaman Aprentice Japan Coast Guard
/Assistant Coast Guard Officer 3rd Grade



なお、参考までに警察官・消防吏員(消防官)・海上自衛隊自衛官及び旧日本海軍将兵の階級との概ねの対比も以下に示す。

区分海上保安官警察官消防吏員海上自衛官旧日本海軍*10備考
将官(上級幹部)クラス(該当無し)警察庁長官
(階級制度外)
Commissioner General
of the National Police Agency
(該当無し)海将(甲)大将(指定職)本府省事務次官級*11
統合幕僚長
海上保安庁長官*12警視総監
Superintendent General*13
(総務省)消防庁長官
(階級制度外)*14
Commissioner of the
Fire and Disaster
Management Agency
(指定職)本府省外局長官級*15
海上幕僚長
海上保安庁次長
および海上保安監
警視監
Senior Commissioner
消防総監*16
Fire Chief
海将(乙)中将(指定職)本府省局長級*17、地方機関の長
自衛艦隊司令官等
1等海上保安監(甲)消防司監
Chief Fire Superintendent
/Deputy Chief
(指定職)
本府省局次長、部長、審議官級*18、地方機関の長
護衛艦隊司令官、航空集団司令官、
潜水艦隊司令官、掃海隊群司令等
海将補少将
1等海上保安監(乙)警視長
Commissioner
本府省課長級、地方機関の長*19
群司令、隊司令、艦長等*20
佐官・尉官
(中堅・初級幹部)クラス
2等海上保安監消防正監
Senior Fire Superintendent
/First Assistant Chief
一等海佐大佐
3等海上保安監警視正
Assistant Commissioner
消防監
Fire Superintendent
/Assistant Chief
二等海佐中佐本府省室長級*21
艦長等
1等海上保安正警視
Superintendent
消防司令長*22
Battalion Chief
三等海佐少佐本府省課長補佐級*23
2等海上保安正警部
Chief Inspector
消防司令
Fire Captain
一等海尉大尉本府省係長級*24
二等海尉中尉
3等海上保安正警部補
Inspector
消防司令補
Fire Lieutenant
三等海尉少尉本府省係員級
准士官・下士官及び兵卒
(一般職員)クラス
1等海上保安士巡査部長
Sergeant
消防士長
Fire Sergeant
准海尉兵曹長
海曹長(該当なし)
一等海曹上等兵曹
2等海上保安士(巡査長*25
Senior Police Officer
消防副士長
Assistant Fire Sergeant
二等海曹一等兵曹
3等海上保安士巡査
Police Officer
消防士
Fireman
/Fire Fighter
三等海曹二等兵曹
(該当なし)(該当なし)(該当なし)(該当なし)水兵長
1等海上保安士補海士長上等水兵
2等海上保安士補一等海士一等水兵
3等海上保安士補二等海士*26二等水兵


上の表のとおり、別組織であるため、厳密には必ずしも一致していない。


*1 ただし、2019年現在、海上保安官補は補職者がおらず有名無実化している。
*2 武器の使用については警察官職務執行法の規定が準用されている。
*3 「海洋法に関する国際連合条約」が法的根拠。
  日本国の現行法令上、警察庁・警視庁及び道府県警察は海上警察権を有していない。

*4 海保の現在の英訳名も"Japan Coast Guard(日本国沿岸警備隊)"である。
*5 ただし、国内法上では海上保安庁法第25条により「軍隊として組織され、訓練され、または軍隊の機能を営むことを認めるものと解釈してはならない」としている。
*6 この他、福岡県北九州市と宮城県岩沼市に分校が存在。
*7 2013年5月16日、政令の改定により「警備救難監」から改称されると共に職責も変更された。
*8 この階級以上で3年以上勤務すれば検察官(副検事)の受験資格が与えられるが、受験者はほとんどいないという。
*9 刑事訴訟法の規定で、捜査官として行使できる権限が制限される司法警察職員。
  警察官の階級としての「巡査」とは無関係。

*10 1942年10月時点。
*11 参考:イギリス軍のOF-9ないし10相当。
*12 指定職7号俸。
*13 同左。
*14 指定職6号俸。
*15 同OF-8相当。
*16 東京消防庁のみに存在。
*17 同OF-7相当。
*18 同OF-6相当。
*19 同OF-5相当。
*20 特に指定された艦に限る。
*21 同OF-4相当。
*22 大規模自治体の消防では消防署長相当であるが、小規模な自治体では、この階級にある消防吏員が消防機関の長を務めることもある。
*23 同OF-3相当。
*24 同OF-2相当。
*25 正式な階級ではない。
*26 2010年まではこの階級の下に「三等海士」が存在した。

トップ 新規 一覧 単語検索 最終更新ヘルプ   最終更新のRSS