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*&ruby(かえんほうしゃき){【火炎放射器】}; [#n6947e00]
弾丸や砲弾の代わりに炎を投射して攻撃する兵器。農作業でも使われる。~
水の代わりに発火した液体[[燃料]]を噴射する巨大な水鉄砲。~
軍用としては[[装甲]]・[[塹壕]]・建物に隠れる人間を焼き殺したり、森林や家屋を焼き払う用途に用いる。~
焼き畑農業・除雪などの作業用や、[[化学兵器]]・[[細菌兵器>生物兵器]]に汚染された物の焼却処分にも使われる。

**第一次世界大戦にて [#l0b73f4f]
近代において火炎放射器が実戦で運用されるようになったのは、[[第一次世界大戦]]でドイツ軍が使用したのが最初と言われている。~
[[塹壕戦]]に投入されて限定的ながら印象的な戦果を挙げたものの、シリンダー交換の手間や運用面のまずさ((攻撃を受けやすく、火炎放射器そのものに攻撃を受けるとその場で炎上し、炎をまき散らして味方に被害を及ぼす。))から、[[塹壕]]で火炎放射器の攻撃を受けたイギリス軍やフランス軍ではシステムの研究や試験は行われたが、配備までは至らなかった。~
~
その頃の火炎放射器は1本のシリンダーを内部で2つに分け、それぞれに発射用の圧搾ガスと可燃性の油を詰めたものを背負い、レバーを下げると油がゴムホースを通って簡単な着火装置つきの鋼のノズルから発射される仕組みだった。~
発射するごとに着火装置とシリンダーを交換する必要があったが、猛烈な煙を伴う炎を2分間目標に向けて噴射できたと言われている。~
しかし、燃料に増粘剤が添加されていなかったため、炎が流れ出たり飛び跳ねてこちらに返ってくるなど問題も多かった。
>除雪作業においてはひどく燃費が悪く、ごく局所的に積雪を融かす用途(しかも延焼の危険性がない場所)でしか役に立たない。~
[[陸上自衛隊]]は1963年の『昭和38年1月豪雪』における除雪作業に火炎放射器を導入したが、あまりに非効率であったため使用を中止している。

**第二次世界大戦にて [#e033e8a8]
[[第二次世界大戦]]では、先の[[第一次世界大戦]]時とは打って変わって各国軍が火炎放射器の配備を進めた。~
徒歩で行動する[[歩兵]]に持たせることを念頭に、タンクを据え付けた背負うタイプのユニットが開発され、各国で独自の形状をした火炎放射器の配備が進み、各地の戦場で使用された。~
特に大きな戦果を挙げたのは、硫黄島や沖縄で網の目の様に張り巡らされた[[塹壕]]や洞窟に対する火炎放射攻撃で、炎が直接当たらずとも煙や爆発的な酸素の消費によって窒息効果があることに気が付いた[[アメリカ軍]]が積極的に塹壕の攻略に使用した。~
また、いくつかの国では[[戦車]]の機銃や主砲を火炎放射器に換装した火炎放射戦車を開発し、投入している。~

**大戦後 [#m949c544]
大戦終結後は、ベトナム戦争で[[ナパーム弾]]と共にジャングルに潜む[[ゲリラ]]を焙り出すために使用されたが、世論への配慮や現代戦における重要性の低下によって使われなくなり、現在は殆どの軍隊で正式装備から外されている。~
兵器としての役割は、殆どが携行式[[ロケット弾]]発射機に装填される[[焼夷弾]]や[[サーモバリック弾>燃料気化爆弾]]に置き換えられたが、現在でも敵が隠れるための茂みを焼却したりするための作業用として使われている。~
液体[[燃料]]は燃えたままあちこちに飛び散る上、揮発性のため隙間を通して浸透する事もある。~
つまり、[[手榴弾]]並かそれ以上の広範囲に渡って危害を加える事ができる。~
揮発した[[燃料]]が[[装甲]]の隙間からも浸透するため、[[主力戦車]]でさえ焼却破壊できる。~
~
[[陸上自衛隊]]では、「携帯放射器」という名前で火炎放射器を配備しており、有事の際、[[ゲリラ]]の立て篭もる建物の制圧や[[化学兵器]]・[[細菌兵器>生物兵器]]に汚染された物の焼却処分に有効とされている((実際、コレラで汚染された輸入バナナの焼却処分や、豪雪時の災害派遣で雪を解かすために使われたことがある。&br;  しかし、豪雪時の災害派遣で使用した際、大量の燃料を消費する割りに効果がほとんどなかった(雪の表面を解かすのみだった)ため、すぐに使われなくなった。))。~
一方、[[有効射程]]は20m前後と短く、[[散弾銃]]や[[小銃]]に対して非常に不利である。~
[[燃料]]タンクは非常に重く、しかも消費効率が悪く、遠くまで届く事もない。~
液体を撒き散らすという性質のため、銃のように[[伏せて身を隠しながら>匍匐]]撃ったら自分も炎に焼かれてしまう。~
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さらに、発光して音を鳴らしながら燃える炎は戦場でも非常に目立ち、敵からの反撃を非常に的確なものとする。~
被弾して[[燃料]]タンクに穴の一つでも開いてしまえば、周囲に炎を撒き散らして味方ごと火達磨となる凄惨きわまりない末路が待っている。~
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基本的には戦場に炎を生じさせるための工作用具であって、これを直接人に向けるのは効率が悪い。

**効果 [#mc4d58dc]
火炎放射器には、一般の銃器にはない効果として、[[塹壕]]などの狭い空間での破壊的な威力が挙げられる。~
誤解されがちだが、火炎放射器は「燃える粘っこい液体を噴射する」ものであり、ガスで炎を出すガスバーナーとは出てくる炎の質が全く違う。~
たとえばホースで水をかける事を考えると、水は物に当たって跳ね返り、しぶきを飛ばして辺り一面水浸しになる。~
火炎放射器では、これが燃えたまま起こるため、天井や壁に当たった炎はあちこちに飛び散って周囲のものを焼き尽くし、周囲の酸素を奪って有害な煙を大量に発生させる。~
たとえ着火しなくとも、燃料そのものは皮膚に付着すれば強烈な痛みと共に炎症を起こし、ゴムなどを腐食させる。~
同時に、揮発した燃料も問題となる。~
この特性をうまく利用し、まず着火しないまま燃料だけを噴射して敵を燃料まみれにした後、着火した状態で火炎放射をして細かな隙間まで浸透した燃料に引火させて被害を拡大させることもできる。~
また、意外に思えるが、火炎放射器は前述のとおり液体を噴射するため装甲車両にも有効な打撃を与えうる((エンジン室の内部まで燃料が入り込むため、着火すれば爆発する。))。
>また、火炎放射器は残虐な上に目立つ兵器であるため、憎悪の対象になりやすい。~
[[捕虜]]となった場合に[[報復]]として問答無用で殺害される事もあったという。

**欠点 [#mc4d58dc]
火炎放射器を持つ兵士は、使用中は直立しなければならないため、当然他の兵士よりも狙われる((しかも炎を派手にまき散らしているため、攻撃中は更に目立った。))。~
射程距離も銃砲には遠く及ばないため、接近しなければただ撃たれるばかりとなる。~
そして燃料を使うという兵器の特性上、燃料が切れれば武器を持たないのと一緒であるため、運用時間が短くあまり前線で戦い続けることができず、戦いが長時間に及ぶと一方的にやられるばかりになってしまった。~
また、背中に燃料タンクを背負っているため、被弾すれば当然のごとく引火し、あたりに燃料をまき散らしながら周囲の味方と一緒に火だるまになってしまうこともあり、運用が難しい。~
~
加えて(火炎放射器そのものの欠点ではないが)、それを持つ兵士の扱いも問題となった。~
火炎放射は文字通り敵兵を焼き殺すので、攻撃を受ける側からすれば恐怖の対象であるとともに憎悪の対象ともなり、捕虜にされた際は[[報復]]として問答無用で殺害されることもあったという。
**略史 [#ucf294e7]
:中世|7世紀頃、東ローマ帝国が「ギリシャの火」「ビザンティンの火」などと称される火炎放射器を配備していた。~
同時期のイスラム教圏でも製法の異なる同種の兵器が確認されており、先に開発したのがどちらかは判然としない。~
海戦において木造軍船を焼き払う用途に使われた他、攻城戦においても防衛側が好んで使ったとされる。~
当時の秘密兵器であったため燃料の製法や詳細な構造は不明で、東ローマ帝国の滅亡と共に資料も散逸した。~
残された史料から、[[位置エネルギー]]で液体を噴射するサイフォンであった事が判明している。~
サイフォンで噴射していた[[燃料]]は石油類だと考えられているが、詳しい組成・調合法は不明。~
:20世紀初頭|1901年、ドイツ人技師リヒャルト・フィードラーが火炎放射器を開発。[[第一次世界大戦]]における[[塹壕戦]]に投入された。~
これは噴射の圧力として圧縮ガスを用いるもので、当時はまだ燃料噴射の中断が不可能。2分ほど連続で炎を噴射し続けた後に破損する単発の兵器であった。~
また、燃料が飛び散りすぎて[[誤射]]・事故が頻発したため、以降の火炎放射器は[[燃料]]に増粘剤を添加するようになった。
:[[第二次世界大戦]]|噴射を中断・再開できるよう、また[[燃料]]が粘性を持つよう改良された。~
[[歩兵]]が背負うタイプの火炎放射器が[[塹壕]]や洞窟に対する攻撃で戦果を挙げ、多くの兵士が煙や酸素不足によって窒息死した。~
また、[[戦車]]の武装として火炎放射器を搭載する「火炎放射戦車」も開発されたが、これは失敗作として消えていった。~
:[[ベトナム戦争]]|ジャングルに潜む[[ゲリラ]]を焙り出すために火炎放射器が活用された。~
これは火炎放射器が大規模に運用された最後の戦争であり、これ以降、火炎放射器は兵器としての地位を失っていく。~
:現代|[[焼夷>焼夷弾]][[ロケット弾]]、[[燃料気化爆弾]]などの後継兵器が出現し、[[軍隊]]の正式装備からは外された。~
とはいえ、現在でも立木・雑草・廃棄処分品などを焼却するための作業用機械として多少の需要がある。


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