【沿岸海域戦闘艦】(えんがんかいいきせんとうかん)

Littoral Combat Ship (LCS)
アメリカ海軍が開発・配備を進めている小型戦闘艦
従来の戦闘艦に比べ、高速で航行し小回りが利くこと、限定的ながら多用性を持たせること、安価で生産性に優れること、管制装置のネットワーク化による高度な連携戦闘能力、より高いステルス性等が求められている。

開発の経緯

アメリカ海軍戦闘艦はこれまで、航空母艦を中心とした艦隊運用を主眼としてきたが、冷戦の終結に伴う低烈度紛争への対応を迫られる場合が増えてきた。
こと、2000年にイエメン・アデン港で駆逐艦コール(USS Cole、DDG-67)がアルカイダの自爆攻撃を受けて大破した事件を機に、戦闘艦機関銃などの自衛火器を増強する等の対策が採られたが、高価で小回りの利かない艦隊型戦闘艦を低烈度紛争に投入するのは割に合わず、小規模の海上行動に適した艦を開発する動きとなった。

特徴

  • アルミ製船体およびウォータージェット?推進による高速性能や旋回性能の重視
  • 軽量な船体により喫水を浅くし、水深の浅い海岸域での運用性を向上
  • ミッション・パッケージと呼ばれる兵装モジュールを交換することによる限定的な多用途性
  • 艦載兵装の量を限定する一方で大型の飛行甲板および格納庫を装備し、ヘリコプターを積極活用
  • 高度なC4Iシステムとデータリンクによる他の艦艇との連携
  • くさび形の艦橋?構造物など、従来以上にRCSの低減に努めた船型

艦型

LCS開発計画にあたっては、ロッキード・マーチンの案によるフリーダム?級と、ジェネラル・ダイナミクス?の案によるインディペンデンス?級の2種類が平行して開発された。
フリーダム?級がモーターボートに近い単胴式の半滑走型船型を採っているのに対し、インディペンデンス?級は特徴的な三胴式の波浪貫通型を用いている。
後者のほうが燃費効率や甲板面積のうえで有利だが、建造コストも高い。

ミッション・パッケージ

LCSの基本武装は57mm速射砲RIM-116だが、それらに加え、限られた排水量で多様な任務をこなすため、任務に合わせてミッション・パッケージを換装する仕組みを採っている。

  • ASW:対潜戦闘パッケージ
  • MCM:機雷掃海パッケージ
  • SUW:対艦戦闘パッケージ
  • その他、特殊部隊支援装備等

速射砲は必要に応じてMk.41 VLSに換装することができ、併せてレーダーAN/SPY-1Kに交換する。

進捗

(新種の兵器にはつきものだが)LCSも当初の予定から計画の遅延や変更が生じている。
1番艦フリーダム?が艤装中の火災で配備が遅延したことに加え、就役後に実施されているミッション・パッケージの試験にもトラブルが続き、LCS計画の全体に影響を及ぼしている。
さらにアメリカ合衆国の財政危機にともない、ズムウォルト級などの新型艦が計画縮小したのに対応し、LCSに対して大型戦闘艦の役割を補完することも期待されるようになり、当初の「大型戦闘艦の不得意な分野を安価に補完する」という目的との矛盾も生じつつある。
当初は2種類の艦型を2隻ずつ試作した後で優れた方を量産する計画だったが、両者の特性の違いを鑑みて両方を量産する計画に変更され、調達が続いている。

問題点

ただし、本級には三つの問題点が指摘されている。
一つは、高価格・高性能である反面、低価値であること。
当初の計画ではコルベットサイズの安価な小型艦であったものが、次第に大型・高級化して高価格になったのに対し、要求機能は小型艦のままで、価格と価値が釣り合っていない。
整備費用の高騰もそれに拍車をかけている一方、要求性能そのものは大昔の水雷艇駆逐艦程度でも可能なもので、特に目新しいものではない。

二つ目に、既存の他兵器に較べて能力面で劣ることである。
主任務である敵高速艇への対処は、従来の航空機・高速艇・水上艦でも十分可能なのだが、本級は航空機や高速艇よりも高価で、在来の水上艦よりも安いわけではない*1
航空機は高速艇よりも圧倒的に対地速度が速く、撃破する火力もある。ヘリコプターでも、高い捜索能力もつ故に先制は可能である。
高速艇に搭載できる対空兵装は脆弱であり、対空機関砲や携行SAM程度ならば、対戦車ミサイルなり軽量対艦ミサイルでアウトレンジ出来る。
高速艇*2や水上艦でも、魚雷艇や自爆艇ならば砲で、ミサイル艇ならば対艦ミサイルで対処可能である。
それらに比べれば、本級は価格の面で不利*3であり、また単能艦であり、防空、対水上、対潜戦闘や対地攻撃能力といった汎用性にも欠ける。

三つ目はミッション・パッケージが能力、性能、価格、どれを取っても失敗であったことである。
水上戦パッケージは高速艇のみにしか使えず、対潜戦パッケージは曵航式ソナーでは相性が悪いうえに、攻撃は艦載ヘリ頼みである。
また、対機雷戦パッケージにおいては特設艦艇程度で実用性が無い*4
要はフリゲートや対機雷戦艦艇の代替艦にすらならないのである。

以上のことから、本級の建造は32隻で打ち切られ、残りの20隻は小型、低コストの艦へと建造を移行する事が決定した。
尚、本級の艦種記号LCSでは、最初のLが「揚陸作戦艦艇」を示す事から、艦種類別をフリゲートに改められる事となった。


*1 ユニットコストはオリバー・ハザード・ペリー?フリゲートよりも高価である。
*2 かつてPTボート(魚雷艇)やアッシュビル級砲艇、ペガサス級ミサイル艇を敵高速艇への対処に用いた例がある。
*3 サイクロン級高速艇でも57ミリ〜76ミリ砲やハープーンを搭載して対処可能で、価格も十分の一程度である。
*4 積むのは必ずしも本級である必要は無く、揚陸艦や徴用商船でも事足りる。

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