【永世中立】(えいせいちゅうりつ)

Permanently Neutralize*1

他国に対し自ら軍事行動を起こす事なく、自身が侵略を受けた場合を除いていかなる戦争にも関与しない国家。
条約などで国際社会が永世中立を承認した場合のみを指し、そうであると自称するのみの国家(例えば日本)は該当しない。
また原則として、現在進行形で防衛戦争を遂行している国家も該当しない*2

常に中立を維持するため、他国への軍事的荷担だと判断され得る全ての行動が禁止される。
よって、他国の軍隊が領土領海領空に滞在する事はいかなる理由であっても認められない。*3
また同時に、いかなる理由があっても他国に軍隊を派遣する事ができない。
以上の理由から同盟国を持つ事も不可能になる。

誤解されがちだが、これは「平和主義」に基づく発想ではない。明らかにその逆である。
たとえば隣国で大虐殺が起きて無数の難民が押し寄せてきた時、永世中立国はこれを救援すべきでない。
これは「不可能だから」ではなく、国民に還元されるべき財産を隣国に放り出すのは道義に反するからだ。
永世中立はその思想的前提として、平和主義や国際協調という概念に対して極めて冷笑的である。
他国を援助しないのは「他国は全て潜在的な侵略者であり、援助に値しないから」であり、他国を侵略しないのは「異民族は叛乱を起こし法と秩序を乱すので信用に値しない」からだ。

もし戦争に際して、あるいは有事に備えて他国に軍事的支援を求めれば、その国家は永世中立を名乗る資格を失う。
よって、永世中立国は国民皆兵制度を掲げ、スイスの様に民間防衛の教育と公共施設での武器弾薬の備蓄などで、すべての隣国の攻撃に対して独力で撃退出来るだけの確固たる防衛力を備えた国が多い。
またその性質上、隣接する二つの国家が同時に永世中立国である事はほぼ不可能に近い。

原則としてはこうなのだが、制度・理念の常として、どうにも形骸化を免れ得ない。
現在、「永世中立国」を名乗っている国は国連平和維持活動への参加に積極的であったり、多国間同盟(EUなど)に加盟していたりするのが実情である。
それらは永世中立国としては本来あってはならない事態であり、明らかに中立を脅かす危険性を孕む決断である。


*1 「永世中立」は誤訳である、という主張もある。Permanentlyは「いつでも必ず」「常時」の意であって、「いつまでも」「永遠に」という意は含まない。
*2 いかなる場合でも「それは本当に防衛戦争なのか?」という疑問が生じる余地があるため。
*3 スイスは第二次世界大戦中、連合国枢軸国に関係なく、領空に侵入した航空機に攻撃をしている。

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