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【ミューロケット】 †
JAXA宇宙科学研究本部(旧文部科学省宇宙科学研究所)が開発・運用していた固体燃料式宇宙ロケット。
M-○に入る数字は標準ロケット段数を表す。(例外:M-Vは3段)
本機の前身である「L-4S」の5号機が1970年2月、日本初の人工衛星「おおすみ」を打ち上げた経験を元に改良を重ねてきた。
最新型のM-Vでは、政府による「全幅1.4m」規制がなくなったため大型化し、ペイロードが飛躍的に増大した。
全段固体燃料推進で地球重力圏を離脱できるロケットは、世界でもM-3SllとM-Vだけと画期的なものであり*1、下記のように優れた実績を誇っていたが、取り扱いの至便な液体燃料ロケットであり、かつ大型の衛星を運用できるH-2が使用されるようになったことから、2006年を最後に運用を終えている。
本機の運用終了後、JAXAは後継機となる「イプシロン」の開発に着手、2013年9月に第1号機の打ち上げを成功させた。
参考リンク:JAXA宇宙科学研究本部(http://www.isas.jaxa.jp/j/enterp/rockets/vehicles/index.shtml)
主要諸元 †
名称 | 全長 | 直径 | 重量 | ペイロード (高度250km円軌道) | 誘導制御段 |
M-4S | 23.6m | 1.41m | 43.6t | 180kg | なし |
M-3C | 20.2m | 41.6t | 195kg | 2 | |
M-3H | 23.8m | 48.7t | 300kg*2 | ||
M-3S | 1、2 | ||||
M-3SII | 27.8m | 61t | 770kg | ||
M-V (1号機) | 30.7m | 2.5m | 139t | 1,800kg | 1、2、3 |
M-V (5号機) | 30.8m | 140.4t | 1,850kg |
各型式概要 †
形式 | 運用開始年 | 概要 |
M-4S | 1971年 | L-4Sの発展型。 尾翼とスピンによる姿勢の安定、重力ターン方式による軌道投入。 |
M-3C | 1974年 | 第2・3段新規開発大型化。 第2段に二次元推力方向制御?とサイドジェット装置を導入し、軌道投入精度が上昇。 |
M-3H | 1977年 | 第1段の全長を延長。 1号機は長楕円軌道?のミッションのため、4段目(キックステージ?)が追加されている。 |
M-3S | 1980年 | 第1段に推力方向制御?を追加。 これにより、全段で推力方向制御?が可能になり、打ち上げ姿勢の自由度が高まった。 |
M-3SII | 1985年 | 第2・3段ロケット新規開発大型化、CPUによるデジタル制御を実装。 日本初(世界3番目)の地球重力圏離脱に成功した。 4段目(キックステージ?)追加可能。 |
M-V | 1997年 | ユニットコストは1機約70億円。 本格的な惑星探査機打ち上げ用ロケットとして開発された。 リングレーザージャイロ?やコンピュータなど最新の技術が取り入れられている。 衛星の地球周回軌道投入だけでなく、小惑星や月への探査ミッションにも使用された*3。 4段目(キックステージ?)追加可能。 |
打ち上げ実績 †
M-4S | ||||
号機 | 打ち上げ年月日 | 成否 | 搭載衛星 | 備考 |
1号機 | 1970/9/25 | 失敗 | 科学衛星(MS-F1) | 機体のスピン過大によって 第4段点火以降のシーケンスが実行できず 軌道投入に失敗 |
2号機 | 1971/02/16 | 成功 | 「たんせい(MS-T1)」 | 技術試験衛星 |
3号機 | 1971/09/28 | 「しんせい(MS-F2)」 | 日本初の科学衛星 | |
4号機 | 1972/08/19 | 「でんぱ(REXS)」 | 電波探査衛星 | |
M-4C | ||||
号機 | 打ち上げ年月日 | 成否 | 搭載衛星 | 備考 |
1号機 | 1974/02/16 | 成功 | 「たんせい2号(MS-T2)」 | 技術試験衛星 |
2号機 | 1975/02/24 | 「たいよう(SRATS)」 | 超高層大気観測衛星 | |
3号機 | 1976/02/04 | 失敗 | 科学衛星(CORSA) | 制御装置の信号異常により 軌道投入失敗 |
4号機 | 1979/02/21 | 成功 | 「はくちょう(CORSA-b)」 | 日本初のX線天文衛星 |
M-3H | ||||
号機 | 打ち上げ年月日 | 成否 | 搭載衛星 | 備考 |
1号機 | 1977/02/19 | 成功 | 「たんせい3号(MS-T3)」 | 技術試験衛星 |
2号機 | 1978/02/04 | 「きょっこう(EXOS-A)」 | オーロラ観測衛星 | |
3号機 | 1978/09/16 | 「じきけん(EXOS-B)」 | プラズマ圏・磁気圏観測衛星 | |
M-3S | ||||
号機 | 打ち上げ年月日 | 成否 | 搭載衛星 | 備考 |
1号機 | 1980/02/17 | 成功 | 「たんせい4号(MS-T4)」 | 技術試験衛星 |
2号機 | 1981/02/21 | 「ひのとり(ASTRO-A)」 | 太陽物理学衛星(太陽フレア観測) | |
3号機 | 1983/02/20 | 「てんま(ASRTRO-B)」 | X線天文衛星 | |
4号機 | 1984/02/14 | 「おおぞら(EXOS-C)」 | 中層大気観測衛星 | |
M-3SII | ||||
号機 | 打ち上げ年月日 | 成否 | 搭載衛星 | 備考 |
1号機 | 1985/01/08 | 成功 | 「さきがけ(MS-T5)」 | ハレー彗星探査試験機 |
2号機 | 1985/08/19 | 「すいせい(PLANET-A)」 | ハレー彗星探査機 | |
3号機 | 1987/02/05 | 「ぎんが(ASTRO-C)」 | X線天文衛星 | |
4号機 | 1989/02/22 | 「あけぼの(EXOS-D)」 | 磁気圏観測衛星 | |
5号機 | 1990/01/24 | 「ひてん(MUSES-A)」 | 工学実験探査機 | |
6号機 | 1991/08/30 | 「ようこう(SOLAR-A)」 | 太陽観測衛星 | |
7号機 | 1993/02/20 | 「あすか(ASTRO-D)」 | X線天文衛星 | |
8号機 | 1995/01/15 | 失敗 | 回収型衛星(EXPRESS) | 日独共同プロジェクト。 第1段切り離し後に重量過多による異常振動で 予定されていた軌道*4に投入できず (カプセルのみ回収成功) |
M-V | ||||
号機 | 打ち上げ年月日 | 成否 | 搭載衛星 | 備考 |
1号機 | 1997/02/12 | 成功 | 「はるか(MUSES-B)」 | 工学実験衛星 (実質は電波天文衛星) |
2号機 | 未定のまま中止 | 中止*5 | 「LUNAR-A」 | 月探査機 搭載予定だったペネトレーターの開発遅延などから、 2007年1月15日に計画中止。 |
3号機 | 1998/07/04 | 成功 | 「のぞみ(PLANET-B)」 | 火星探査機 ただし、探査機は火星周回軌道投入断念 |
4号機 | 2000/02/10 | 失敗 | (ASTRO-E*6) | 第1段のノズル破損による速度不足により墜落 |
5号機 | 2003/05/09 | 成功 | 「はやぶさ(MUSES-C)」 | 工学実験衛星(実質は小惑星探査機) 2010年6月13日、目的地の小惑星「イトカワ」から 採取したサンプルの入ったカプセルを 地上へ放出した後、大気圏に突入して消滅。 |
6号機 | 2005/07/10 | 「すざく(ASTRO-EII)」 | X線天文衛星 ASTRO-Eの代替機 | |
8号機 | 2006/02/22 | 「あかり(ASTRO-F)」 | 赤外線天文衛星 | |
「Cute-1.7 + APD(CUTE)」 | 超小型衛星(サブペイロードに搭載) | |||
「SSP*7」 | ソーラーセイル(サブペイロードに搭載) | |||
7号機 | 2006/09/23 | 「ひので(SOLAR-B)」 | 太陽観測衛星 | |
「HIT-SAT」 | 超小型衛星(サブペイロードに搭載) | |||
「SSSAT*8」 | ソーラー電力セイル実証小型衛星 (サブペイロードに搭載) | |||
9号機 | 2010年予定 のまま廃止 | 廃止 | 「あかつき(PLANET-C)」 | 金星気候衛星(金星探査機) 衛星は2010年にH-IIAロケットで打ち上げられた |
*1 本機の存在を知ったアメリカ政府は「3年以内に日本は弾道ミサイルを運用できるだけの技術を習得するだろう」との予測のもと、日本に対して(事実上、軍事転用を目的とした)技術供与の打診を行ったという。
*2 290kgとする資料もある。
*3 月探査ミッションは打ち上げ前に中止された。
*4 近地点210km、遠地点400km、軌道傾斜角31度、周期90分の楕円軌道に投入されるはずだった。
*5 2008年10月より、ISAS相模原キャンパス(宇宙科学研究本部)にて展示保存されている。
*6 愛称には「ひりゅう(飛龍)」の名が用意されていた。
*7 Solar-sail Sub Payloadの略。
*8 Solar Sail Satelliteの略。