【ブラックボックス】(ぶらっくぼっくす)

Black Box.

内部を覗き見て構造を理解する事ができない、そして理解できないままでも十全に機能する機械装置。
基本的には「理解できないまま闇雲に操作する」事を抑止するために設けられる。

例えば、電気工学の専門知識のない人間が剥き出しの電源装置に触れれば、感電死する危険性がある。
にもかかわらず、現代の電源装置を利用する人間が電気工学の知識を持っている事はまずない。
よって、電源装置は「on/offを切り替えるスイッチ」「プラグを差し込むもの」程度の理解で取り扱っても安全でなければならない。

理解度の高い技術者でも忘却やミスは起こり得るため、純粋に安全上の理由からブラックボックス化する事もある。
リバースエンジニアリングや悪意ある改竄を防ぐための防諜としてブラックボックス化される事もある。

また、特に高度な機械部品は、利用者どころか技術者の視点ですら理解不能な場合がある。
そのような部品もブラックボックス化され、修理時にはブラックボックスを丸ごと交換する。

ソフトウェア工学では「カプセル化」というブラックボックスを扱う手法が広く知られている。
大規模プロジェクトに携わるプログラマーは普通、他人が書いたプログラムをいちいち読解している暇がない。
よって、全貌のごく一部だけを記述した「公開メソッド」だけが提示され、残りは「カプセル」に隠しておく。
プログラマーは公開メソッドだけを頼りにプログラムを書き足す事になるし、最後まで誰もプログラムの全貌を把握しない。
現代のプログラムは、そうしたブラックボックスのカプセルを無数に積み重ねて作られている。

意図を考えれば自明の事だが、ブラックボックスが組み込まれた製品はある種の非効率性を伴う。
そもそもブラックボックスは理解の及ばない事柄に関して思考を放棄させた結果である。
よって、全てを理解した人間が新規設計した場合より非効率なのは当然と言える。

しかし大抵の場合、“全てを理解する”のに必要なコストは経済的に許容困難なほど高価である。
そしてまた、全てを理解した人間でも忘却やケアレスミスは起こり得るため、人間に理解を求める事は常に危険を伴う。

例えば、前述のカプセル化の手法は「予測不能な原因で想定外の挙動を取る可能性を排除できない」という、非常に危険な欠陥を内包する。
しかし、だからといって「全てのコードを解読して全体像を把握する」などという事ができるソフトウェア技術者はもうどこにもいない。
人類は普通、他人が書いた延べ数千万行分のプログラムの設計意図を理解して無矛盾に再構築できるような知能を持たない。

航空機のブラックボックス

航空の分野でも数多くのブラックボックスが存在するが、特に有名なのは事故検証装置のブラックボックスである。

これらは「ボイスレコーダー(CVR)」及び「フライトデータレコーダー(FDR)」の二つからなる。
いずれも耐熱・耐衝撃構造のカプセルに封印され、機内で最も衝撃を受けにくい個所に格納される。
摂氏1,100度の火災状況でも30分耐えられ、水深7,000mの水圧にも耐えられるよう設計される。
また、紛失時には信号を発し、外部からの電力供給なしで1ヶ月間は自らの位置を知らせ続ける。

これらの装置が「ブラックボックス」と呼ばれるのは、保護構造を採用したための比喩でなく、原義通りの意味である。
記録内容の消失・改竄を防ぐため、所定の責任者以外のものが不用意に開封できないよう作られている。

ボイスレコーダー

Cockpit Voice Recorder(CVR).

操縦士の無線交信や乗員同士の会話で生じた音声を記録しておく装置。
通常、コックピットフライトデッキで、乗員のインカムを通じて録音される。
最大2時間の記録が可能で、それを超えると古い部分から順次消去される。

フライトデータレコーダー

Flight Data Recorder(FDR).

時刻ごとに航空機高度・速度・機首の向き・垂直角度などを記録しておく装置。
最大25時間分の記録が可能で、それを超えると古い部分から順次消去される。

これらに加えて、コックピットの映像を記録するビデオレコーダーが必要だと主張する専門家もある。
ボイスレコーダーだけでは乗員が行った無言の行動が記録できないからだ。


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