【アーセナル・シップ】(あーせなる・しっぷ)

Arsenal ship.(兵器庫艦)

1980〜1990年代、アメリカ海軍が構想していた水上艦の一形態。

主たる特徴は、ペイロードのほぼ全てがミサイル格納庫に占有されている事。
レーダーソナー・光学センサーなどの偵察機器を極限まで省き、戦闘情報は全てデータリンクに依存。
艦隊の打撃戦力として配置し、兵器と貯蔵と発射だけに専念するものとされた。

この設計思想の背景には、正規空母の大型化に伴う金の壁の問題があった。
高価な航空母艦エビエーターの損失を減らすため、代替可能な部分はミサイルに置き換える事が企図された。

しかし、ドクトリン改定を試みる段階で様々な課題が浮上し、実際に建造される事はなかった。

ドクトリン上の欠陥

アーセナル・シップは電子戦によってC4Iが途絶した瞬間に沈黙を余儀なくされる。
つまり、実戦配備を行うなら、極めて高価な電子戦対応艦艇(イージス艦)を艦隊に配置する必要がある。
戦闘や事故での損耗が発生し得るため、一個艦隊に複数のイージス艦が必要とされる。

それは「とてつもなく高価な中核艦と、大量の護衛艦」という構成で艦隊編成を行う、という事を意味する。
この編成は旧来の空母打撃群と大差ない予算規模に達すると予想されるので、あえて更新を行う経済的理由はない。

また、大量の護衛艦はそのまま大量のミサイル艦であるので、巡航ミサイルによる打撃力は護衛艦だけで十分確保される。
つまり、イージス艦を中核とする艦隊にはアーセナル・シップが存在する必要がない。

要目(計画値)

船型2重船殻のタンブルホーム型
満載排水量約20,000t
速力22ノット
乗員50名(うち25%は女性を想定)
兵装VLS 約500セル
スタンダードSAMESSM短SAM、トマホーク巡航ミサイルを搭載)
※上記以外にMLRSと5インチ砲を装備する計画もあった
艦載機なし、ヘリ甲板のみ

補遺

冷戦終結後、「オハイオ」級戦略潜水艦の一部が事実上のアーセナル・シップに改修された例がある。
核軍縮によって弾道ミサイルが撤去された後、発射筒が通常弾頭の巡航ミサイルに積み替えられたものである。
元が核兵器の搭載を前提とする巨体であったため、より軽量な巡航ミサイルでの搭載弾数は154発もの多数にのぼる。

特殊作戦での海路隠密潜入を想定した構成で、搭載する無人機で遠距離偵察を行いつつ、巡航ミサイル火力支援を実施できる。


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