*&ruby(あーせなる・しっぷ){【アーセナル・シップ】}; [#a55c152a]
Arsenal ship.(兵廠艦)~
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1980〜1990年代、[[アメリカ海軍]]が構想していた[[水上艦]]の一形態。~
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その主たる特徴は、艦の[[ペイロード]]が[[ミサイル]]格納庫にほぼ全て占有されている事である。~
[[レーダー]]・[[ソナー]]・光学センサーといった[[偵察]]装備を極限まで省き、情報は全て[[艦隊]]の[[データリンク]]に依存している。~
兵器の貯蔵と発射だけに専念し、[[艦隊の打撃戦力>ミサイル艦]]として展開するものとされた。~
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この極端な設計思想の背景には、[[空母の大型化>航空母艦#g0c1502a]]に伴う[[金の壁]]の問題があった。~
[[航空母艦]]と[[エビエーター]]の損失を避けるために、代替可能な要素は[[ミサイル]]へ置き換える事を企図していた。~
しかし、[[ドクトリン]]改定を試みるうちに様々な課題が浮き彫りとなり、建造は見送られた。

***[[ドクトリン]]上の欠陥 [#i796b9eb]
アーセナル・シップは[[電害>電子戦]]を受けて[[C4I]]が途絶した時点で、その[[戦術]]/[[戦略]]的価値を喪失してしまう。~
つまり、実戦に配備する場合、[[艦隊]]には[[電子戦対応艦艇>イージス艦]]が数隻は必要になる。~
また[[潜水艦]]対策のための[[対潜機]]や、[[飽和攻撃]]への対策として独自の索敵能力を持った[[護衛艦]]も多数必要になる。~
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アーセナル・シップの存在によって要求されるこの[[艦隊]]編成は、二つの点で問題がある。~
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第一の問題は、高価格な電子装備を大量に搭載する事による、[[艦隊]]の調達・保守管理コストの高騰である。~
これは[[空母打撃群>機動部隊]]と比してさえ経済的であるとは言いがたく、コスト削減という主目的にそぐわない。~
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第二の問題は、[[防御]]のため多数必要とされる[[護衛艦]]はほぼ例外なく[[垂直発射システム]]を備えた[[ミサイル艦]]である、という事実である。~
多数の[[護衛艦]]が迎撃・応戦のためにミサイルを搭載するのだから、[[艦隊]]単位でミサイルの残弾が枯渇する可能性は低い。~
とどのつまり、[[巡航ミサイル]]による打撃力は[[護衛艦隊>護衛艦]]のみで十分満たされるのだ。

**要目(計画値) [#g2f2a066]
|船型|2重船殻のタンブルホーム型|
|[[満載排水量]]|約20,000t|
|速力|22[[ノット]]|
|乗員|50名(うち25%は女性を想定)|
|兵装|[[VLS>垂直発射システム]] 約500セル&br;([[スタンダード>RIM-66]][[SAM>艦対空ミサイル]]、[[ESSM>RIM-162]]短SAM、[[トマホーク>BGM-109]][[巡航ミサイル]]を搭載)&br;※上記以外に[[MLRS>多連装ロケットシステム]]と5インチ砲を装備する計画案もあった|
|[[艦載機]]|なし。連絡用ヘリポートを備えるが機体整備は想定外。|

**補遺 [#ydf6754f]
-[[冷戦]]後、[[オハイオ級>オハイオ]][[戦略潜水艦]]の一部は事実上のアーセナル・シップとして改修された。~
核軍縮によって[[弾道ミサイル]]が撤去され、[[巡航ミサイル]]に換装されたのである。~
元が[[核兵器]]の搭載を前提とした巨艦であったので、より小型な[[巡航ミサイル]]の搭載弾数は実に154発にも達する。~
[[特殊作戦]]での海路隠密潜入が想定されており、搭載する[[無人機]]で遠隔[[偵察]]を行いつつ、[[巡航ミサイル]]での[[火力支援>支援]]を実施する。~
~
-タンブルホーム型の船型は、その後[[ズムウォルト級>ズムウォルト]][[駆逐艦]]で実現されたが、こちらも[[金の壁]]に直面して3隻で建造が打ち切られている。

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