【しきしま】

海上保安庁ヘリコプター2機搭載型*1巡視船「しきしま」。(JCG Shikishima PLH-31)
(沿岸警備隊など)世界各国の海洋警察機構が保有・運用する警備・救難用船舶としては最大の船でもある。

本船は1990年代初頭、日本の原子力発電所から出た使用済みの核燃料物質を、ヨーロッパにある再処理施設へ運ぶ輸送船を護衛するための警備用船舶として設計・建造され、1992年に就役した。

当初、この任務には海上自衛隊護衛艦をあてることも検討されていた*2
しかし、アメリカ軍から偵察衛星による航海の安全を守るための情報支援が得られることになった事、「巡視船では攻撃力不足」という批判があったものの、巡視船で対応出来ない攻撃を仕掛けてくる敵は現実的に考えてありえない*3と考えられたため、予定通り本船が建造される事となった。

設計に当たっては、(核兵器にも転用可能なプルトニウムを含む)核物質を積んだ輸送船をテロリストや武装海賊から守り切ることが要求され、日本〜オーストラリア大陸〜ヨーロッパ間を無寄港で走破できる航続性能(20,000海里以上)と、敵が使用すると考えられたヘリコプターや武装高速艇などによる襲撃に充分対抗し得る戦闘力を備えることとなった。
このため、船体構造は海保の巡視船としては唯一の軍艦式構造とされ、多数の水密区画に区切られて浸水を抑える工夫がなされており、また、携帯式の対戦車ミサイル無反動砲ロケット弾にも、数発程度なら耐えられると考えられている。
そして上部構造物には、当時海上自衛隊で整備の進んでいた「はつゆき」「あさぎり」型護衛艦と同型の「OPS-14」二次元対空レーダーや35mm連装機関砲L-90RFS操作式の「ファランクス」20mmCIWSなど、軍艦に近い非常に強力な兵装が搭載された。
加えて、プルトニウム輸送船の護衛につく際には、突撃銃などを携行する重武装の海上保安官特別警備隊)を乗船させて不測の事態に備えることとしている(警護対象のプルトニウム輸送船にも、同様に重武装の海上保安官を乗船させる)。

本船は任務上の見地から、幾重にも及ぶ厳重な機密保持措置がなされており、(海保の保有する他の巡視船艇とは違い)詳細な情報はほとんど公開されていない。
本来任務である「プルトニウム輸送船の護衛」につく時には、詳細な航路や航海日程は一切機密とされ、また、船内は一般には一切非公開となっている(万が一、敵に船内へ乗り込まれ奪取されることを防ぐため)。
これに加えて、本船に乗り組む乗員は、(船長などごく少数の幹部乗員を除いて)氏名を含む一切の情報が海保の職員名簿に掲載されておらず、敵対勢力のスパイが乗員に接触してきて内部情報を入手されることを防ぐ措置も取られている。
また、就役当初は総トン数と全長以外の性能諸元は一切発表されていなかった(現在は規制が緩和され、後述の通りこれらの数値も公表されている)。

なお、 建造費はおよそ350億円だそうである(2009/6/18の国会質疑による)。

本船は第3管区横浜海上保安部に属し、横浜港を母港として活動している。
現在ではその(海上警察機構の警備用船舶としては)高い戦闘力を活かし、核物質輸送船の護衛任務*4以外にも、尖閣諸島周辺など、他国との利害衝突が起きやすい海域の警備業務などに当たっている。
また、シンガポールやインドネシアなど、東南アジア諸国の海軍・海上警察機構と合同で行われる海賊対策訓練にもしばしば参加している。

海保では現在、海賊対処や船舶検査に活用するため、本船と同型の重武装巡視船を2隻追加建造することとしており、2013年の竣工を予定している。

shikishima.jpg


スペックデータ

排水量
基準/満載
6,500t/7,175t
全長150m
全幅16.5m
喫水9m
機関ディーゼルエンジン×4基 2軸推進
最大速力25ノット
航続距離20,000海里
兵装L-90 35mm連装機関砲×2基4門
20mm多銃身機関銃CIWS)×2基2門
搭載機AS332L1「シュペルピューマ」×2機
C4IシステムRFS射撃指揮装置
レーダーOPS-14 対空捜索レーダー


同型艦

艦番号艦名主造船所進水就役所属
PLH-31しきしまIHI東京工場1991.6.1992.第三管区海上保安本部
横浜海上保安部

関連:敷島(戦艦)


*1 海保が「公称」船型として定めている呼び名で、実際にはほとんど使われない。
*2 法制上、巡視船に搭載が許される武装は限られており、攻撃力が疑問視されていた。
*3 そういう敵が存在するとすれば、国家の正規軍レベルの装備を持っていることとなり、もはや軍隊の領分となるであろう。
*4 実際には就役直後の1992年に一度行われて以後、2011年現在まで実施されていない。

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