【ETOPS】(いーとっぷす)

Extended-range Twin-engine Operation Performance Standards.

日本の国土交通省では「双発機による長距離進出運航」と呼び、実施承認審査基準を定めている。

双発機が洋上飛行をする際に課せられる制限。
片肺状態エンジンのうち1基の損壊)に陥った場合に、一定時間内に空港飛行場への緊急着陸を行う事を要求する。
飛行中のどの瞬間に事故が発生した場合でも必ず空港飛行場に到達可能でなければならないため、事実上の航路制限となる。

実際、飛行機が公海上のどこかに着水する事を強いられた場合、その乗客乗員が捜索救難の到着まで生存できる可能性は極めて低い。

具体的な制限時間は緊急着陸までに片肺でどれだけ航続できるかによって決まり、それは機体性能によって異なる。
これは「ETOPS」の後に分数を表記して示す事が多い。

当初は「ETOPS60」と定められ、この60分という制限は事実上、海上横断航路を双発機で飛ぶ事を禁止する状況となった。
しかし、近年では機体の信頼性とエンジン推力の飛躍的な向上を受け、「ETOPS120」「ETOPS180」などと段階的に規制緩和されている*1

例えば、A350-900は「ETOPS370」の認可を受けている。
これは、370分(6時間10分)以内に代替空港へ着陸できる航路を取ることができるという意味である。

こうした規制緩和によって、双発機でも事実上全ての*2航路を運行できるようになった。
このため、コスト・パフォーマンス双発機に劣る三発・四発の機体は航空運輸の現場から駆逐されつつある。

現在も生産・販売されている民間向け多発機にはB747-8A380Il-96があるが、いずれも生産は芳しくない。

B747-8
生産ペースを月産0.5機に落として生産を続けている*3が、2022年までに生産終了の予定。
A380
2019年2月に新規受注を打ち切り、2021年までに生産終了の予定。
Il-96
貨物機・軍用機型のみ生産されている*4が、現在までの販売実績はわずか28機。

空港要件

双発機の長距離飛行には、機体のみならず、空港飛行場にもそれに見合った要件が必要になってくる。
航路周辺の緊急着陸に適した空港は「Adequate Airport(着陸可能飛行場)」と呼ばれ、運用時間や飛行場諸元から安全に着陸できるものである必要がある。
また、さらに上位の要件を満たす空港は「Suitable Airport(着陸に適した飛行場)」と呼ばれ、十分な滑走路長や着陸に適した気象状態、厳しい救援・消火体制*5が要求される。
ETOPSの運航に当たっては、Suitable Airportの中から、エンルート用の代替空港を選定しなければならない、としている。

たとえばETOPS207の場合、Suitable Airportの救援・消火体制としてICAO(国際民間航空機関)の「カテゴリー7」以上の能力が必要で、さらに180分圏内にAdequate Airportを別途確保しなければならない、としている。


*1 ただし、これらの認可は機体の1機ごとに定められるため、航空会社によっては同型式の機体でも「ETOPS認可」「ETOPS未認可」の機体が混在することがある。
*2 例えば、南極大陸を縦断しようとすればさすがに制限超過する。
*3 なお、旅客型は2017年に受注残がなくなり、事実上生産終了している。
*4 なお、近年のロシアと米欧諸国との関係悪化に伴い、旅客型の生産が再開されるとの情報もある。
*5 少なくともICAOの「カテゴリー4」以上を満たしていなければならない。

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