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【傭兵】 †
Mercenary
正当な利害関係のない第三者の紛争に金銭目的で参画する人間。
単独で活動する者は特に「殺し屋」「ヒットマン」などと呼ぶ事もある。
徴兵制や自発的志願によって自国を守るために正規軍に所属して給与を得ている者、または外人部隊?や軍事顧問と言う名目で正規軍に招き入れられた外国籍の人間は含まない。
自治活動や思想活動の延長線上にある民兵が傭兵か否かについては現在も議論の余地がある。
古代より職業として存在し、国家総力戦が実現する近世までの戦争では、必要な兵力を臨時に雇い入れた傭兵で賄う事がごく一般的に行われていた。
しかし、兵站や指揮系統が半ば以上独立している事になるため、雇い主は常に裏切りの危険にさらされる。
「戦いが終わった途端に強盗の群れに変わる」というのは傭兵に対する典型的な偏見であり、史実においてもそのような傭兵は枚挙に暇がない。*1
また、基本的に傭兵は長く続けるのが難しい職業であり*2、人的資源を農業などで吸収できるだけの豊かな財源を持つ国では傭兵業が育たない。
そうした地域での兵士は市民権に伴う義務として軍務に就くか、あるいは奴隷制に近い民兵制度を持つ。
一方、山岳地や乾燥地帯など農業に適さず自然環境が厳しい地域は「屈強だが飢えている若い男」を多数揃える事になるため、傭兵集団を輩出しやすい*3。
また、そのような国家は安全保障のために「我々の兵を雇わないならば隣国に雇われる事にする」というような砲艦外交に訴える事が多く、この態度が今日における傭兵への嫌悪を醸成したものと見る向きもある。
とはいえ、ある国が雇わないなら他の国が雇うのは恫喝するまでもなく必然であり、作戦上必要であろうとなかろうと傭兵を雇う事が国防上有益であった事だけは間違いない。
そうした状況が続かなかったのは大国と小国との間に横たわる人口と生産力の格差が拡大した事、つまり傭兵が脅威にならないほど巨大な中央集権国家の出現が主要な原因と見られる。
現代の国際法は、傭兵が戦争に参画する事を認めておらず*4、ジュネーブ条約やハーグ陸戦条約の捕虜に関する規定も適用されない単なる「犯罪者」として扱われる。
自国民が傭兵となる事を禁止する国も多く*5、外国籍の滞在者が軍事物資を所有する事を認めない国はさらに多い。
傭兵として紛争に参加して敵を殺害した場合、帰国後殺人罪に問われることもある。
ただし治安の悪い発展途上国ではこの原則が曲げられ、不足している軍事力を補うために正規の政府や武装勢力が傭兵を雇い入れる事は暗黙のうちに許可されている。しかしこの場合でも傭兵の国際的な違法性は変わらない。*6
*1 だからといって全ての傭兵がモラルを欠くわけでもない。
傭兵も正規軍も『自国民に刃を向ける事』は滅多にないが、現地の民間人は傭兵にとって自国民ではない、という話である。
*2 「戦いが終わった途端に強盗の群れに変わる」のなら、戦いが終わる前に可能な限り痩せ衰えさせておきたいと考えるのが人情である。
国家的な後ろ盾があるならともかく、社会的信用に欠ける傭兵団はしばしば雇用主の不誠実な態度に翻弄され、経済的窮状から強盗同然の行いを余儀なくされる事も少なくなかったという。
*3 現在のスイス連邦も、時計工などで安定した工業基盤を築くまでは人殺しを切り売りする傭兵国家の代表であった。
同国は現在でも永世中立国を名乗れるほどの精強な軍事力を持っている(どの隣国が攻めてきても独力で撃退する用意がある)。
*4 1989年には国連総会で「傭兵の募集、使用、資金提供及び訓練を禁止する条約」も採択されたが、締約国はわずか32ヶ国にとどまっている(なお、わが国は未批准)。
*5 ちなみに日本の法制度には傭兵に対する明確な禁止規定はないが、日本人が傭兵となった時には上記の国際慣習に則って取り扱われるものと考えられる。
*6 公式に捕虜や戦死者として扱われる事はないし、身元確認や保障なども十分に行われない。