【天保銭組】(てんぽうせんぐみ) †

旧日本陸軍で、陸軍大学校*1の課程を修了した将校をあらわす俗語。
卒業生が軍服につける「卒業生徽章」が江戸時代の百文銭（天保通宝）に似ていた事に由来する。

更に卒業時の成績上位6名は、天皇から恩賜の軍刀を下賜されたため「軍刀組」と呼ばれた。

日本陸軍の陸軍大学校は、本来、参謀将校を養成するための教育機関であった。
入校試験の受験資格は「隊付勤務2年以上、30歳未満の大尉もしくは中尉*2」であり、かつ、試験自体もきわめて高倍率だった。
このため、課程を修了して得た「天保銭」の徽章はその後の昇進に多大な影響を与えた。

陸大を卒業せずに「閣下の恩給*3」に至るのは、よほどの戦功を挙げない限り不可能であり、平時では幸運な者でも大佐まで*4しか昇進できず、中には、受験時から一切昇進できずに予備役編入となる将校もいたという*5。

このような状態が続いた結果、昭和初期には師団長や各機関の長など、陸軍の重要ポストをほぼ全て天保銭組が独占するようになった。
あげくには増長から甚だしい風紀の乱れを引き起こすに至り*6、1936年には卒業生徽章の着用が禁止されている。

*1 現在の陸上自衛隊においては幹部学校の「指揮幕僚課程」に相当するもの。
*2 歩兵科・砲兵科・騎兵科など正面戦闘部隊からの入校者が多く、輜重兵科からの卒業者は極めて少なかった。
　　この事が旧軍の兵站制度に与えた悪影響は実に甚大である。
*3 将官の地位まで登りつめた事を意味する比喩表現。
*4 それも第一線の「連隊長」として部隊を率いるのではなく、「連隊区司令部」の後方業務でキャリアを終える事が多かった。
*5 特に第一次世界大戦の終結時・およびワシントン海軍軍縮条約の成立時には大規模な軍縮が行われ、当時の現役将校（日露戦争の時期に士官学校へ入校し、戦争終結後に少尉任官した者が多かった）の多くが予備役編入となった。
*6 他派閥の将校を「無天組」と蔑視して横柄な態度を取るなど。

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