【撤退】(てったい)

withdraw / retreat

軍隊が、ある地域での作戦行動を中断し、展開した部隊を帰還させる事。
現地に構築された兵站網を撤去し、資材などもまとめて*1組織的・計画的に帰投する。

基本的には、作戦目的の完遂が不可能もしくは無意味と判断された時に発令される。
上級指揮官からの正式な命令がなく、現場指揮官の勝手な判断で行われた撤退は敵前逃亡として軍法会議の対象となる。

整然と帰投できずに甚大な混乱が生じた場合は特に「潰走」「敗走」と言う。
また、作戦目的の完遂を理由として帰還する場合は「凱旋」と言い、撤退とは区別される。

行う行動の性質上、撤退中に戦闘が発生すると兵站が不備なまま戦う事を余儀なくされる。
事実、近代以前の戦争では死傷者のほぼ全てが撤退する敵への追撃で発生していたという報告もある*2
このため、最前線からの撤退は攻撃を受けにくい夜間に行われる事が多い。
また、撤退中の攻撃を遅延させるために地雷IED狙撃手などを配備しておく事も多い。
無傷での撤退が不可能と目される場合、再編成までの時間を稼ぐために別働隊が死守を行う事もある*3

前線からの撤退は、指揮官に与えられる任務として最も難しいものの一つとされる。
作戦行動の要訣である「事前周知の徹底」が極めて困難なためである。
撤退の計画が敵のスパイに察知された場合、まず間違いなく奇襲を受けて甚大な被害を生じる。
そして時間をかけて周知を徹底すれば、どうあってもスパイに察知される事は避けられない。
そのため、撤退命令は突如として下される事が多く、多くの場合に交通渋滞などの大混乱を引き起こす。

加えて、戦時の軍隊は「何故そこにいるのかわからない部隊」を敵であると仮定して行動する。
このため、撤退などの予定外行動を取る部隊が敵だと誤認されて誤射が発生する事がある。

関連:玉砕 死守


*1 後送が不可能または困難な場合は、敵による鹵獲を防ぐためにその場で破壊・焼却されることもある。
*2 例えば、二人の兵士が武器を手にして睨み合う場合、攻撃の予兆を見逃す事はまずないし、防御するのも容易である。
  しかしどちらかが武器を放り出して背中を向けた場合、敵の背後から容易に致命的な一撃を加える事ができる。
  大規模な部隊でも基本的には同様であり、撤退する敵ほど奇襲しやすい相手はいない。

*3 古来の戦記では「殿(しんがり)」として知られ、自殺を命じられたも同然ではあるものの、真に信頼に値する武人にのみ命じられる任務として名誉の対象ともされる。

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