【徴兵制】(ちょうへいせい)

「国民は外敵から国を守る義務を負う」という主張に基づき、自国の若者を強制的に徴集して数年間の軍役に服させる制度。
徴兵を拒否するのは多くの場合重大な違法行為であり、軍隊における脱走や敵前逃亡に準じて死刑・終身刑とする国家もある。
現代では、当人が希望すれば兵役の代替として公共に益する労役(介護や消防活動など)に従事する「良心的兵役忌避」を認める国も多い。

普通は事前に「兵役検査」を実施して身体能力や健康状態を調査し、兵としての任に耐えない(あるいは兵士にするよりも他の訓練や職業に就かせた方が良い)と判断された者は徴兵の対象としない。同様の理由から女性も徴集されない場合が多い。
徴兵制を敷く国家でも、本人の自由意志による志願入隊は可能なのが普通。特に高度な専門技術が要求される海軍や空軍はおおむね志願兵のみで充足する。

近代になってから、多くの国で採用された制度であるが、軍人の専門職化が進んだ現在では職業軍人でなければ十分な訓練を行う事が難しく、また、単純な兵士数の多寡が必ずしも勝敗を左右しない「低強度紛争」の脅威が増大していることや、大量破壊兵器の登場と相互確証破壊理論の確立で、長期間にわたる全面戦争が起きにくくなったこともあって、先進国では廃止(もしくは運用を縮小・停止)する国が増えている。

また、徴兵制を採用している国では「若者の学業・労働・技能キャリアの断絶」や「労働市場からの隔離による生産力の低下・税収の損失」などという副作用が起きることが多くなっており、長期的に見ると国力を疲弊させる原因ともなっている。

関連:赤紙 良心的兵役忌避

主要各国における徴兵制の現状

日本外務省やアメリカ合衆国中央情報局(CIA)の発表資料などによると、現在、世界で軍隊(またはこれに類する国防のための武装組織)を持つ約170の国家のうち、徴兵制を採用しているのは67ヶ国、とされている。
以下に、主要国における徴兵制の採用・不採用をまとめた。

  • 徴兵制非施行国(赤字で表示された国は歴史上、一度も徴兵を行ったことがない国)
    日本・イギリス・カナダ・オーストラリア・フランス・イタリア・スペイン・ポルトガル・ベルギー・サウジアラビア・ヨルダン・パキスタン・バングラデシュ・アイルランド・ニュージーランドアイスランドインド
  • 徴兵制施行国
    ドイツ・スウェーデン・デンマーク・フィンランド・ノルウェー・スイス・ロシア・韓国・北朝鮮・イスラエル・トルコ・台湾・エジプト・マレーシア・シンガポール・ポーランド・カンボジア・ベトナム・タイ
    • 女性も徴兵の対象となる国
      イスラエル・マレーシア*1
    • 兵役の代替役務が用意され、「良心的兵役忌避」が合法化されている国
      ドイツ・スウェーデン・デンマーク・ノルウェー・スイス・台湾・ロシア
    • 「良心的兵役忌避」は認めていないが、兵役の代替措置を政府が用意している国
      韓国
    • 「良心的兵役忌避」を一切認めず、兵役の代替措置も用意されていない国
      北朝鮮・トルコ
  • 徴兵制の運用が停止されている国
    アメリカ*2・中国*3

現在の日本における「徴兵賛美・復活論」

上記のとおり、日本では現在徴兵制は行われていないが、近年、保守系の人々の一部から徴兵制を賛美したり、または復活を唱える主張が出てきている。
ただしこれらは、
「『軟弱な』若者を軍事教練と兵舎での規律ある共同生活で鍛えることで、『愛国心』『忍耐』『協調性』『規範意識』などを学ぶことができる」(いわゆる「ニート徴兵論」など)
「精神・肉体の鍛錬によって男性の『男らしさ』が高まり、性的魅力の向上にも繋がる」*4
など、本来の趣旨とはかけ離れた観点からなされているものがほとんどで*5、また、「軍隊はコスト・パフォーマンスのよい『教育機関』ではない」という批判もあって、支持者はごく少数に留まっているのが現状である。

なお、現在の日本では内閣法制局が「徴兵・兵役は日本国憲法で禁じられている『意に反する苦役』にあたり違憲」との見解を出している。

参考:日本国憲法第18条
何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。又、犯罪に因る処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない。


*1 ただし、イスラエルでは女性の兵役期間は男性より短く、また、マレーシアでは女性は「くじ引きで当選した」者だけが入隊することとなっている
*2 1973年に運用を停止したが、徴兵対象者の名簿作成は現在でも国防総省?で続けられている
*3 法制度上には存在するが、志願者だけで定員が充足されてしまうので、実質運用停止状態にある
*4 徴兵制施行国では兵役の対象が概ね男性のみになっていることから「婚姻率の増加と初婚平均年齢の引き下げが図られ、少子化の緩和効果も期待できる」としているが、現実には、兵役がむしろ婚姻の阻害要素になってしまっている
*5 更にこの種の発言者のほとんどが、仮に徴兵制が再施行されたとしても徴集の対象になりにくい女性や中高齢男性の政治家・知識人・文化人であることも批判の対象になっている

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