【戦艦】(せんかん)

Battle Ship*1

巨大な艦載砲と厚い装甲をもち、水上艦や沿岸への砲撃を主任務とする艦艇
定義は時代に応じて変遷しているが、おおむね各国が現実的に運用可能な最大級の戦闘艦である。

その名前の関係上、著者・編集者が軍事に疎い場合には『軍用の武装した船舶の総称*2』として誤用される事が多い。

兵站への負荷が強烈であり、整備や補給にも長い時間を要するため、艦隊決戦を前提として運用する。
頑丈な構造ではあっても多数の艦からの集中砲火に耐えうるほどではなく、駆逐艦巡洋艦による護衛を必要とする。
最大の利点は艦載砲有効射程と破壊力であり、海戦における砲兵として運用される。

何をもって戦艦の起源とするかは諸説あるが、1859年にフランスが建造した装甲艦「グロワール?」を始祖とみる向きが大きい。
これは木造帆船だが蒸気機関を搭載し、また舷側に装甲が取り付けられていた。
翌1860年には船体全体をで形成した装甲艦「ウォーリア?」が登場し、各国海軍の技術競争の発端となった。

以降、大規模海戦に必要な艦艇として艦隊の中核を占めていたが、航空母艦潜水艦が発達すると共に存在意義が破綻。
第二次世界大戦で場当たり的に護衛*3・対地砲撃に運用された後、海軍から消えていった。

世界史上、最後に建造された戦艦はフランスの「ジャン・バール」(1955年就役・1957年退役)、最後まで現役に残った戦艦はアメリカの「ミズーリ」(1992年退役)であった*4

なお、1980年代にはアメリカ海軍モスボールされていた「アイオワ」級戦艦の現役復帰を試みた*5が、成果を挙げることはできなかった*6

関連:巡洋艦 駆逐艦 艦載砲 大艦巨砲主義 超ド級

戦艦の終焉

戦艦は時代の花形となった兵器だが、現代戦においてはもはや運用可能なものではない。
第二次世界大戦で新世代の兵器が登場すると共に、戦艦の時代は終焉を迎えた。

戦艦の限界は、戦艦というシステムが艦載砲に依存していた点にある。
戦艦が隆盛したのは、艦載砲がその当時最高の攻撃手段であったからである。
そして、戦艦の時代が終わったのは、艦載砲では対処できない脅威が出現したからである。

艦載砲は、航空母艦に対して有効な兵器ではない。
艦載機戦闘行動半径は、カノン砲が技術的に到達し得る最大の有効射程を上回るからだ。
航空母艦からのアウトレンジ攻撃に対して、戦艦には有効な反撃手段がない。
同様の理由から、艦対艦ミサイルを搭載した艦に対しても戦艦には有効な反撃手段がない。

また、艦載砲潜水艦に対しても有効性を持たない。
水深数百メートル下まで衝撃を伝播できる砲弾は存在しないからだ。
従って、潜水艦からの雷撃に対しても、戦艦には有効な反撃手段がない。

現代の海戦で遭遇する脅威は、艦載機巡航ミサイル潜水艦魚雷である。
そのいずれに対しても、戦艦の艦載砲はまるで意味を持たない。


*1 アメリカ海軍での略号は"BB"。艦種記号が一文字で終わる場合は2文字重ねる慣例となっている。
*2 ちなみに「広辞苑」で「戦艦」の項目を引くと、この意味が先頭に記載されている。
*3 多数の高射砲・高射機関砲を装備して航空機を迎撃したが、決定的な戦果には繋がっていない。
*4 姉妹艦の「アイオワ」「ウィスコンシン」はミズーリよりも早くに艦隊から退いていたが、2006年までモスボールされていた。
*5 これは、当時のソ連海軍が「キーロフ」級大型ミサイル巡洋艦を就役させたことへの対抗措置であったという。
*6 その理由については該当項目を参照のこと。

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