【三笠】(みかさ)

明治時代中期に英国で建造され、日露戦争で活躍した日本海軍前ド級戦艦
姉妹艦に敷島、朝日、初瀬がある。

後述のとおり、日露戦争連合艦隊旗艦として華々しい戦果を挙げたことから、英国海軍の「ヴィクトリー」、アメリカ海軍の「コンスティチューション」と並んで「世界三大記念艦」とも呼ばれている艦であり、現在は神奈川県横須賀市の三笠公園?に保存されている。
また、2022年現在、日本海軍の戦闘艦艇及び全世界の前ド級戦艦としては唯一の現存艦でもある*1

建造の経緯

当時、中国大陸・朝鮮半島の支配権を巡ってロシアと対立していた日本政府は、強力なロシア艦隊に対抗すべく、戦艦6隻・装甲巡洋艦6隻からなる「六六艦隊」という艦隊整備計画を策定。
この一環である敷島級戦艦の4番艦として、英国に発注・建造されたのが同艦である。

本艦の設計・建造に当たっては、当時最新鋭の造艦技術が積極的に取り入れられた*2が、特に防御甲板の素材には、ドイツのクルップ社が開発した鋼鉄とニッケルをベースとした特殊合金「クルップ鋼」を採用、同時期に建造された他国の戦艦と比べて高い装甲防御力を得ることとなった。
また、本艦を含む「敷島」級以降の日本戦艦は、艦幅の増大によりスエズ運河の通過が不可能となったが、このことにより、ロシア艦隊は本艦に対抗できる有力な戦闘艦をアフリカ大陸の喜望峰周りで回航させざるを得なくなった。
これにより、(日英同盟が結ばれていた当時の情勢下で)ロシアに対して戦略的アドバンテージを得ることもできた。

戦歴

1901年、三笠は本籍地を舞鶴鎮守府と指定され、1902年3月に竣工した。
直ちに日本へ向け出港し、5月に横須賀に到着。その後整備を受け、7月に本籍地(母港)の舞鶴に到着した。

11月に三笠は常備艦隊?旗艦となり、1903年12月に日露間での戦争が押し迫った情勢に際し連合艦隊が8年ぶりに編成され*3、三笠は連合艦隊旗艦・第一艦隊旗艦(司令長官:東郷平八郎)となった。
1904年2月6日に日露戦争が始まるとそのまま連合艦隊旗艦として加わり、2月の旅順口攻撃、旅順港閉塞作戦、8月の黄海海戦に参加した。
この際三笠率いる連合艦隊はロシア旅順艦隊に打撃を与えたが、三笠も後部砲塔が破壊されるなど損害を受けた。
修理を受けるために12月、三笠率いる第一艦隊は根拠地であった裏長山列島を離れて呉に入った。

翌1905年2月、江田島・佐世保を経由し鎮海湾へ進出。
来たるロシア第2・第3太平洋艦隊(バルチック艦隊)との決戦に備えて射撃・発射・運動など猛烈な訓練を行った。
そして5月27日の対馬沖海戦では、アフリカ大陸沿岸経由でやってきた*4バルチック艦隊を迎え撃ち、有力なロシア戦艦群の集中砲火を浴びながらも僚艦とともによくこれを撃破した。

日露戦争が終結した直後の9月11日、佐世保軍港停泊中に水兵の失火から火薬庫が爆発、沈没着底する*5*6が、沈没地点の水深が浅かったため引き揚げられて現役復帰。
その後、戦艦が「ド級」「超ド級」と進化する中で旧式化しつつも現役にありつづけた*7本艦だったが、1921年のワシントン海軍軍縮会議で廃棄予定艦のリストに載せられてしまう。
当初はこれにより、条約発効後に除籍され、実弾射撃演習の標的艦として処分されることになっていたが、本艦のあげた戦歴から、当時の日本国内で廃棄を惜しむ声が高まっていく。
これを受けて、日本の代表団も会議に参加している他国と協議した結果、「再就役不可能な状態にする」ことを条件に記念艦として保有することが認められた。

予定では東京・芝浦の海岸に繋留保存されることになっていたが、1923年、除籍を前提として横須賀軍港に繋留中、関東大震災に遭遇して岸壁に接触・浸水した*8ため、急遽、横須賀で保存することに変更された。
この保存工事に当たって、白浜海岸*9海底の岩場を掘って設置した海中ドックに、船首を東京の皇居へ向けた状態で船体を収め、その外周部を地面と同じ高さまで土砂で埋め立てた上で下甲板にコンクリートや土砂を充填し、船体を現在地に固定した。

戦後の荒廃〜復元

その後、第二次世界大戦の敗北に伴って進駐してきた連合国軍の「武装解除」指示*10により、砲などの武装が撤去され、また、敗戦後の混乱期には心無い者たちによって艦の金属部品の大部分が持ち去られたり*11、上部構造物の撤去された跡にダンスホールや水族館が設置されたりする*12など、一時期極度に荒廃していたが、1958年から復元工事が行われ、1961年に完工。記念艦として再度公開が開始された。

この復元にあたって、東郷提督を敬愛していたアメリカ海軍ニミッツ提督が、本を執筆してその印税を日本に寄付した。
また、1958年に除籍され、翌年日本で解体されたチリ海軍の超ド級戦艦「アルミランテ・ラトーレ*13」の部品がチリ政府から寄贈されるなど、内外から幅広く集められた浄財が活かされていた。

一方で、当時の日本国内では「復元保存すべき」と「解体撤去すべき」との意見*14で賛否両論真っ二つに分かれていたが、後者の中には「残っている船体を『約4,000トン分のスクラップ』として売却し、その資金*15で記念館を作ってはどうか」との意見まであったという。

1992年、本艦は
「世界に残っているもっとも古い甲鉄戦艦であり、造船史上きわめて価値が高く、良好に保存されている」
として、世界船舶基金財団(英国)から「海事遺産賞」が贈られた。

現在

現在の本艦は、前述のように横須賀の三笠公園に置かれ、有料で乗艦・観覧できるようになっている*16
船体の外郭は往時の姿を残しているが、上部構造物のほとんどは戦後の復元の際に新規作成されたレプリカである。
また、船内で見学できるのは上甲板と中甲板のみであるが、ここにも資料展示室や上映室などが作られており、なおかつ、下甲板及び船体外周部は土砂やコンクリートで埋められているため、かつて船であったことの面影は大部分が失われ*17、実質上「船の形をした資料館」になってしまっている。

本艦の運営・管理は「公益財団法人三笠保存会」に委託されているが、船体そのものは現在でも防衛省所管の国有財産*18である*19

スペックデータ

常備排水量15,140t
全長131.7m
最大幅23.2m
喫水8.3m
主缶ベルヴィール式石炭専焼水管缶×25基
主機直立型三段膨張式4気筒蒸気レシプロエンジン×2基 2軸推進
機関最大出力15,000hp(11,000kW)
燃料石炭:1,521t
最大速力18ノット
航続距離7,000海里/10ノット
乗員艦長以下860名
兵装40口径30.5cm連装砲×2基4門
40口径15.2cm単装砲×14門
40口径7.6cm単装砲×20門
47mm単装砲×16基16門
45cm魚雷発射管×4基
装甲KC装甲鋼板(クルップ鋼)
舷側:228.6mm〜101.6mm(KC鋼)
甲板:76.2mm〜50.8mm
砲塔:355.6mm〜203.2mm
砲郭:152.4mm〜50.8mm



*1 これ以外に海軍に籍があった艦船で現存しているのは、東京・お台場の「船の科学館」で展示保存されている「宗谷」(当時は運送艦。後に海上保安庁巡視船・初代南極観測船)と横浜港に繋留保存されている客船「氷川丸」(当時は特設病院船)のみである。
*2 当時の英国は、このように海外から受注した艦艇を新しい造艦技術のテストベッドとして用いることが多かった。
*3 当時、連合艦隊は常設の組織ではなく、戦時に臨時編制される組織であった。
*4 前述のとおり、本艦に対抗できる有力な戦艦はスエズ運河を通ることができなかった。
*5 ちなみにこのとき、東郷提督は政府及び明治天皇への戦勝報告のため上陸していて難を逃れている。
*6 このため、戦勝記念観艦式には僚艦の敷島が参列した。
*7 この間、艦種が「海防艦」(当時の海防艦は、後年建造された通商保護用のフリゲートとは別の概念である)に変更されている。
*8 接触した部位は、1921年9月にウラジオストク沖で座礁した際に応急修理を行った箇所だった。
*9 地震による浸水発生後、この地沖合いの浅瀬に曳航して座礁させられていた。
*10 ソ連は更に進んで、本艦自体の解体を要求したが、これは他国に却下されている。
*11 東郷提督を敬愛していたアメリカのニミッツ提督はこのことを知ると激怒し、海兵隊員を歩哨に立たせたという。
*12 当時、本艦の固定されている付近一帯?が遊園地「みかさ園」となっており、その中核施設として設置されていた。
*13 元英海軍「アイアン・デューク」級超ド級戦艦「カナダ(HMS Canada)」。
*14 「『軍艦を重要文化財に指定した』例が過去にない」ことと、「荒廃が酷く、仮に復元できても文化財としての指定が難しいのでは」というのが主張の根拠であったという。
*15 当時の時価で約8,000万円分だったという。
*16 ただし、毎年1月第2月曜日の「成人の日」には新成人のみ乗艦・観覧が無料となっている。
*17 残っている部分は後部区画や甲板の一部に残るチーク材など、だという。
*18 財務省が公開している国有財産のデータベースに、海上自衛隊横須賀地方総監部の施設「旧三笠艦保存所」として登録されており、検査・修理費も防衛費が充てられている。
  なお、会計上では「船舶」や「建物」ではなく「施設内の工作物」として扱われており、評価額は2円(なお、土地は2億5000万円)となっている。

*19 ただし、現在の自衛隊とのつながりはそれほど強くなく、海自横須賀教育隊の一般曹候補生が「三笠見学」として訪れたり、隊員有志によるボランティアの清掃活動程度だという。

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