【火炎放射器】(かえんほうしゃき)

弾丸や砲弾の代わりに炎を投射して攻撃する兵器。農作業でも使われる。

第1次世界大戦での運用

近代において火炎放射器が実戦で運用されるようになったのは第1次世界大戦でのドイツ軍が最初と言われている。
塹壕戦に投入されて限定的ながら印象的な戦果を挙げたものの、シリンダー交換の手間や運用面のまずさ*1から、塹壕で火炎放射器の攻撃を受けたイギリス軍やフランス軍ではシステムの研究や試験は行われたが、配備までは至らなかった。

その頃の火炎放射器は1本のシリンダーを内部で2つに分け、それぞれに発射用の圧搾ガスと可燃性の油を詰めたものを背負い、レバーを下げると油がゴムホースを通って簡単な着火装置つきの鋼のノズルから発射される仕組みだった。
発射するごとに着火装置とシリンダーを交換する必要があったが、猛烈な煙を伴う炎を2分間目標に向けて噴射できたと言われている。
しかし、燃料に増粘剤が添加されていなかったため、炎が流れ出たり飛び跳ねてこちらに返ってくるなど問題も多かった。

第2次世界大戦での運用

第2次世界大戦では、第1次世界大戦とは打って変わって各国の軍が火炎放射器の配備を進めた。
徒歩で行動する歩兵に持たせることを念頭に、タンクを据え付けた背負うタイプのユニットが開発され、各国に独自の形状をした火炎放射器の配備が進み、各地の戦場で使用された。
特に大きな戦果を挙げたのは、硫黄島や沖縄で網の目の様に張り巡らされた塹壕や洞窟に対する火炎放射攻撃で、炎が直接当たらずとも煙や爆発的な酸素の消費によって窒息効果があることに気が付いた米軍が積極的に塹壕の攻略に使用した。
また、いくつかの国では戦車の機銃や主砲を火炎放射器に換装した火炎放射戦車を開発し、投入している。

大戦後の運用

大戦終結後は、ベトナム戦争でナパーム弾と共にジャングルに潜むゲリラを焙り出すために使用されたが、世論への配慮や現代戦における重要性の低下によって装備から廃止されていき、現在は殆どの軍隊で正式装備から消えている。しかし、今でも敵が隠れるための茂みを焼却したりするために作業用として使われている。
尚、陸上自衛隊は今でも「携帯放射器」の名前で火炎放射器を配備しており、有事の際はゲリラの立て篭もる建物の制圧や化学兵器、細菌兵器に汚染された物の焼却処分に有効とされている*2
現在は殆どが携行用対戦車ロケットランチャーの技術を応用した焼夷弾頭や、サーモバリック弾を使った携行式ロケットランチャーに置き換えられた。

効果

火炎放射器は他の銃器にはない効果として、塹壕などの狭い空間での破壊的な威力が挙げられる。
誤解されがちだが、火炎放射器は「燃える粘っこい液体を噴射する」ものであり、ガスで炎を出すガスバーナーとは出てくる炎の質が全く違う。炎は天井や壁に当たればあちこちに飛び散って周囲のものを焼き尽くし、周囲の酸素を奪って有害な煙を大量に発生させる。
着火しなくとも燃料そのものは皮膚に付着すれば強烈な痛みと共に炎症を起こし、ゴムなどを腐食させる。同時に、揮発した燃料も問題となる。この特性をうまく利用し、まず着火しないまま燃料だけを噴射して敵を燃料まみれにした後、着火した状態で火炎放射をして細かな隙間まで浸透した燃料に引火させて被害を拡大させることもできる。
また、意外に思えるが、火炎放射器は前述のとおり液体を噴射するため装甲車両にも有効な打撃を与えうる*3

欠点

火炎放射中は直立しなければならないため、当然他の兵士よりも狙われる*4。射程距離も銃砲には遠く及ばないため、接近しなければただ撃たれるばかりであった。
そして燃料を使うという兵器の特性上、燃料が切れれば武器を持たないのと一緒であるため、運用時間が短くあまり前線で戦い続けることができず、戦いが長時間に及ぶと一方的にやられるばかりになってしまった。
また、背中にガソリンタンクを背負っているので被弾すれば引火して、あたりに燃料をまき散らしながら周囲の味方と一緒に火だるまになってしまうこともあり、運用が難しい。
加えて火炎放射器そのものの欠点ではないが、それを持つ兵士の扱いも問題となった。火炎放射は文字通り敵兵を焼き殺すので、攻撃を受ける側からすれば恐怖の対象であるとともに憎悪の対象ともなり、火炎放射兵が捕虜にされた際は報復として問答無用で殺害されることもあったという。


*1 攻撃を受けやすく、火炎放射器そのものに攻撃を受けるとその場で炎上し、炎をまき散らして味方に被害を及ぼす
*2 実際には、コレラで汚染された輸入バナナの焼却処分や、豪雪時の災害派遣で雪を解かすために使われたことがある。しかし、雪の表面を解かすのみだったため消費する燃料が多すぎるとの判断から早急にスコップによる除雪に取って代わった
*3 エンジン室の内部まで燃料が入り込むため、着火すれば爆発する
*4 しかも炎を派手にまき散らしているため、攻撃中は更に目立った

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