【ブラックボックス】(ぶらっくぼっくす)

Black Box.

内部を覗き見て構造を理解する事ができない、そして理解できないままでも十全に機能する機械装置。

基本的には「理解できないまま闇雲に操作する」事を抑止するために設けられる。
例えば、電気工学の専門知識のない人間が剥き出しの電源装置に触れれば、感電死する危険性がある。
にもかかわらず、現代の電源装置を利用する人間が電気工学の知識を持っている事はまずない。
よって、電源装置は素人が触れる事のないブラックボックスとして組み込まれる必要がある。
そうして作られた、我々が触る多くの電化製品は特定のスイッチを押せば動き、止める事が出来るようになっている。
その裏側では多くの電子部品と機械装置が複雑に関わり合いながら動作しているが、それを知らなくとも使用には何の影響もない。
しかし特に高度な機械部品の場合、利用者どころか技術者の視点ですら理解不能な場合がある。
そのような部品もブラックボックス化され、修理時にはブラックボックスを丸ごと交換する。

ソフトウェア工学では「カプセル化」というブラックボックスを扱う手法が広く知られている。
大規模プロジェクトに携わるプログラマーは普通、他人が書いたプログラムをいちいち読解している暇がない。
よって、全貌のごく一部だけを記述した「公開メソッド」だけが提示され、残りは「カプセル」に隠しておく。
プログラマーは公開メソッドだけを頼りにプログラムを書き足す事になるし、最後まで誰もプログラムの全貌を把握しない。
現代のプログラムは、そうしたブラックボックスのカプセルを無数に積み重ねて作られている*1

また、リバースエンジニアリングや悪意ある改竄を防ぐためにブラックボックス化される事もある。

航空機のブラックボックス

航空の分野でも数多くのブラックボックスが存在するが、特に有名なのは事故検証装置のブラックボックスである。

これらは「ボイスレコーダー(CVR)」及び「フライトデータレコーダー(FDR)」の二つからなる。
いずれも耐熱・耐衝撃構造のカプセルに封印され、機内で最も衝撃を受けにくい個所に格納される。
摂氏1,100度の火災状況でも30分耐えられ、水深7,000mの水圧にも耐えられるよう設計される。
また、紛失時には信号を発し、外部からの電力供給なしで1ヶ月間は自らの位置を知らせ続ける。

これらの装置が「ブラックボックス」と呼ばれるのは、保護構造を採用したための比喩でなく、原義通りの意味である。
記録内容の消失・改竄を防ぐため、所定の責任者以外のものが不用意に開封できないよう作られている。

ボイスレコーダー

Cockpit Voice Recorder(CVR).

操縦士の無線交信や乗員同士の会話で生じた音声を記録しておく装置。
通常、コックピットフライトデッキで、乗員のインカムを通じて録音される。
最大2時間の記録が可能で、それを超えると古い部分から順次消去される。

フライトデータレコーダー

Flight Data Recorder(FDR).

時刻ごとに航空機高度・速度・機首の向き・垂直角度などを記録しておく装置。
最大25時間分の記録が可能で、それを超えると古い部分から順次消去される。

現在これらのレコーダーに加えて、航空機事故調査の専門家らはコックピットの映像を記録するビデオレコーダーを搭載する事を提唱している。ボイスレコーダーだけでは、映像のないテレビ音声から映像を想像するのと同じで正確な状況の把握が難しく、ジェスチャーによる合図など音を出さないやり取りが記録できないためである。


*1 故にブラックボックスに含まれたバグは取り除く事はおろか、発見すら難しい。そのため昔のソフトウェアの方が新しいものよりも構造がよく知られ、バグが取り除かれている分堅牢で信頼性が求められる分野では重宝される事も多い。

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