Last-modified: 2016-12-16 (金) 11:48:31 (188d)

【SHIRASE(気象観測船)】(しらせ(きしょうかんそくせん))

日本の気象情報サービス会社「ウェザーニューズ」社が運用する*1気象観測船。
かつて日本国文部科学省が保有し、海上自衛隊で砕氷艦(南極観測船)として用いられてきた「しらせ(初代)」(JS Shirase AGB-5002)を、2009年に購入の上気象観測船としたものである。

自衛隊時代は、こんごう護衛艦やましゅう型補給艦の竣工まで最大の自衛艦でもあった。

本項では自衛艦だった時代についても扱う。

特徴

本船の船体は、前任の砕氷艦である「ふじ(JS Fuji AGB-5001)」の2倍以上に大型化されているが、特に艦首部は最新の砕氷理論を取り入れ、水面と21度の角度をつけた独特の形状となっており、また、部材も高張力鋼を多用した堅牢なものになっていた。
これにより、最大で厚さ1.5mの氷を3ノットで連続砕氷できる、極めて強力な砕氷能力を得ることが出来た。
また、南極までの航海中に暴風圏を通るため、船体内部には動揺を抑えるためのアンチローリングタンクや、砕氷航行時に船体を左右に傾けるヒーリングタンクも備えられていた。

一方で、氷海上での行動を重視して横幅が広く、通常の艦船にあるビルジキールがなかったため、通常の艦船に比べて横揺れが激しく、乗艦していた南極観測隊員の中にはひどい船酔いに悩まされる者もいたという。

動力は潜水艦と同様に、ディーゼルエンジンで発電機を動かして作られる電力でモーターを駆動させる「ディーゼルエレクトリック方式」を取っていたが、これは、砕氷航行時に低速で前進・後退を繰り返すことから、その際に素早い加減速を得るためであった。
また、スクリューは3軸となっているが、これは「ふじ」が1971年に南氷洋で推進器を損傷する事故を起こして、一時行動不能になった教訓を取り入れたものである。

艦内には南極観測隊員の活動支援のため、約60名分の居住区画・1,000トン分の貨物搭載スペース・ヘリコプターS-61Aベル47及びOH-6)2機を収容する格納庫が設置され、また、氷海上での観測活動に従事できるように各種観測装置も搭載されていた。

ただし、本来の運用目的が昭和基地への人員・資材輸送であることから観測能力は限定的なもので、気象レーダーラジオゾンデによる気象観測程度であったが、後にこのことが「気象観測船」としての第二の生涯へとつながる。

自衛隊からの退役と新砕氷艦の建造

1982年に自衛艦として就役した本船は、南極観測活動を行っている各国が運用する砕氷船(艦)の中でも極めて優秀な能力を持つ大型砕氷艦として、20年以上の長きに渡って活躍してきたが、2000年代に入ると老朽化・陳腐化が進行してきたため、延命のための大改修、もしくは後継艦の建造が望まれていた。
しかし、文部科学省は(折からの国家財政の悪化もあって)新砕氷艦の建造に必要な予算拠出に消極的な態度を長く取りつづけており、また、運用を受け持つ防衛省も種々の事情から、改修に要する費用をなかなか拠出できなかったため、改修・新船建造のどちらも進められず、「オゾンホールの発見」などの優れた成果を上げつづけてきた日本の南極観測活動が、本船の退役によって継続不可能になってしまうことが危惧されてきた。

各界からの呼びかけが功を奏し、2005年にようやく文部科学省が新砕氷艦の建造予算を拠出したが、この一連のスケジュール遅延により、二代目「しらせ」となった新砕氷艦の就役は2009年にずれ込み、2008年度に派遣される第50次観測隊の輸送には間に合わなかった。
(なお、この時の観測隊員輸送は、文部科学省がオーストラリア政府南極局の砕氷船「オーロラ・オーストラリス」を借り受けて行った)

2008年4月、本船は第49次観測隊の輸送支援を終えて日本へ帰還したのを最後に南極観測船としての任務を解かれ、同年7月30日、自衛艦旗を返納して正式に自衛艦籍から外された。
自衛艦としての25年間の実績は以下の通りだった。

総行動日数3,803日
総航程1,006,562km
輸送人員1,498人
輸送物資量約23,900トン


その後の処遇について

これまで、日本政府が南極観測隊の輸送に使ってきた海上保安庁の巡視船「宗谷」、海自の砕氷艦「ふじ」は、退役後それぞれ保存*2されているが、本船については、退役後の処遇が長らく決まらなかった。
これに対し、「宗谷」「ふじ」と同様に展示保存すべく、7つの民間企業・公益団体から購入のオファーがあり、政府・防衛省・文部科学省も検討を重ねたものの、2008年10月には(後述のような理由から)展示保存を断念、一般の退役自衛艦と同様にスクラップとして処分する方針を決定した。

この方針に至った理由としては、

  • 「宗谷」「ふじ」と比べて船体が非常に大きいため、これらと同様に保存・維持するには改修に10億円とされる多額のコストがかかってしまい、購入を希望した企業・団体の資金繰りの問題から、長期にわたってそれを負担し続けることが難しいと判断された。
  • そもそも海自が運用していたことから「兵器」と同一とみなされており、武器輸出三原則等との関連から海上保安庁への移管や外国への売却も困難だった。

などがあげられていた。
予定では、スクリューやいかり、艦名看板など少なくとも17の部品を保存し、2009年秋以降に海上自衛隊佐世保史料館で一般展示することにしていたが、解体の方針を決定した直後から屑鉄の市場価格が暴落したことと、内外からの解体を惜しむ声も依然強かったため方針は白紙撤回され、政府は売却先を再度公募した。

そして2009年11月、再公募に参加していたウェザーニューズへの売却が決定。
ウェザーニューズは本船を「SHIRASE」と改名して千葉県・船橋港に繋留、艦内に地球上の二酸化炭素量や極地の氷の状況を観測するシステムなどを搭載する改修を施した上で、2010年5月、地球環境や気候変動などの観測施設として運用を開始した。

2014年現在、本船は船橋港に繋留されて気象観測施設として運用されている。
繋留地周辺は(近くにコンビナート岸壁があり、関係者以外の立ち入りが禁止されているため)関係者以外は通常、近づくことができないが、近傍の飲食施設の窓越しに右舷からの外観を眺めることはできる。

ウェザーニューズへの移籍当初は、公式サイトからの応募により、人数を限定する形で「一般乗船見学」を行っていたが、2013年に所有者が変わってからは行われなくなった*3
ただし、不定期的にイベントが開催されており、これに参加すれば一般人でも乗船することができる。

SHIRASE 公式サイト(一般財団法人WNI気象文化創造センター)
http://shirase.info/

スペックデータ

下記データの一部は自衛隊時代のものである。

主造船所日本鋼管鶴見
起工1981.3.5
進水1981.12.11
就役1982.11.12(自衛艦)
2010.5.2*4(気象観測船)
退役(自衛艦)2008.7.30
売却2010.2.10
所属(自衛艦)横須賀地方隊
母港海上自衛隊横須賀基地(自衛艦)
船橋港(気象観測船)
基準排水量11,500t
全長134m
全幅28m
喫水9.2m
機関ディーゼルエレクトリック方式 3軸推進(30,000ps)
三井造船製ディーゼルエンジン×6基
富士電機製主電動機×6基
最大速力19ノット
航続距離25,000m/15kt
乗員数170名(他に観測隊員約60名)
主な装備洋上観測装置一式
搭載量食料:50t
燃料:350t
その他:600t
搭載機ヘリコプター×3機
S-61A-1×2機(輸送用)・ベル47/OH-6D×1機(観測用))
同型艦なし



*1 現在の所有は同社の関連団体「一般財団法人WNI気象文化創造センター」。
*2 宗谷」は東京・お台場の「船の科学館」、「ふじ」は名古屋港ガーデン埠頭にて繋留保存。
*3 現在、本船を所有するWNI気象文化創造センターによると「より公益性の高い取り組みを進めていくための企画を検討・推進するため」だという。
*4 海自時代の艦籍番号に由来してこの日とされた。

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