Last-modified: 2019-03-17 (日) 08:17:12 (5d)

【Il-96】(あいえるきゅうじゅうろく)

1980年代〜2000年代、旧ソ連/ロシアのイリューシン設計局が開発・生産した四発ワイドボディ旅客機
Il-86の改良型として開発された。

Il-86は「ソ連初のワイドボディ機――ソ連版エアバス」として開発・生産されたが、搭載していたNK-86?ターボファンエンジン低バイパス比で燃費が悪かったうえ、航続距離が3,600kmと短く、国際線で活躍するには明らかに能力が不足していた。
また、客室設備も従来のソ連製旅客機に比べれば快適ではあったものの、西側のB747DC-10などに比べればアビオニクスも大きく劣っており、運用面でのメリットは皆無であった。
そのため、ソ連のフラッグキャリアであったアエロフロート航空などは、1980年代中盤になっても旧式のIl-62を長距離国際線に使用せざるを得ない状況にあった。
また、同機は西側諸国への販売ももくろみ、西側の航空雑誌に広告出稿するなどのセールス戦術を取ったものの、西側どころかソ連の同盟国であるワルシャワ条約機構加盟国でも採用するユーザーはほぼ皆無*1で、わずか106機の生産に終わっていた。

この反省に基づき、国際長距離路線の性能要求に適合するように改良し、開発されたのが本機である。
研究と開発は1980年代の中ごろに始まり、1988年には基本型の「Il-96-300」が初飛行している。

機体は構造材に複合材を採用して軽量化を図るとともに、グラスコックピットフライバイワイヤーによる機体制御、ウイングレットを装備した新型の主翼高バイパス比ターボファンを採用するなど、西側のボーイングエアバスの機体に対抗しうるスペックを備えた機体として作られた。
しかし、同時期に就航した西側のB747-400A340MD-11などがそろって2マンクルーを採用した中で操縦系統が依然として3マンクルーであったことや、上級クラスの客室にすら個人用テレビが装備されていないなど、多くの面で劣っており、その後の販売苦戦につながった。

その後の東欧諸国の民主化やソ連崩壊といった変革の中でも開発は続けられ、1993年にIl-96-300がアエロフロート・ロシア航空で運行を開始した。
また、1990年代に入ると胴体を延長し、プラット&ホイットニー社製のエンジンや西側製のアビオニクスを搭載するとともに2マンクルーを採り入れた「Il-96M(旅客型)/Il-96T(貨物型)」の開発も始められ、1998年に「Il-96M」が初飛行している。

しかし、フラッグキャリアのアエロフロートですら長距離国際線用に西側のB777A330を導入するなど販売が不振だった*2ことから、2009年に旅客機型の生産中止が決定。
以後は貨物機型および軍用型のみ生産されることになった。

しかし、昨今のロシアとアメリカ・西欧各国との関係悪化から、B777B767の代替として旅客機型の生産再開が検討されているという。

スペックデータ

タイプIl-96-300Il-96MIl-96TIl-96-400
乗員数3名2名2名
(オプション3名)
座席数
(3クラス)
237307-315
座席数
(2クラス)
263340386
座席数
(1クラス)
300420436
貨物積載量F.H.1:
9,000kg(前部)
F.H.2:
15,000kg(後部)
F.H.3:
1,000kg(後部)
6 LD3(前部)
10 LD3(後部)
-580m³
(メインデッキ)
114m³
(前方下部メインデッキ)
82m³
(後方下部デッキ)
18 LD3(前部)
14 LD3(後部)
114m³
(前方下部デッキ)
82m³
(後方下部デッキ)
18 LD3(前部)
14 LD3(後部)
全長55.3m64.7m63.939m
全高17.5m
全幅60.11m
胴体直径6.08m
翼面積350
後退角30度
非搭載時重量120,400kg132,400kg116,400kg122,300kg
燃料非積載時
最大重量
180,000kg-208,400kg-
最大着陸重量183,000kg220,000kg
最大離陸重量250,000kg270,000kg265,000kg
最大積載量40,000kg58,000kg92,000kg58,000kg
最大燃料搭載量152,620リットル(40,332 US gal)
エンジンバイパス比ターボファン×4基
アヴィアド
ヴィガーテリ
PS-90A
P&W
PW2000
P&W PW2337
または
アヴィアドヴィガーテリ
PS-90A1
アヴィアド
ヴィガーテリ
PS-90A1
推力
(×4)
16,000kg17,030kg17,400kg
乾燥重量
(×4)
2,950kg3,314kg2,950kg
最大速度
(最大運用制限速度時)
マッハ0.84
巡航速度マッハ0.78〜0.84
航続距離
(最大積載時)
11,500km12,800km5,000km13,000km
航続距離
(最大燃料積載時)
13,500km15,000km12,000km15,000km
巡航高度9,000〜12,000m
実用上昇限度13,100m
離陸滑走距離
(最大離陸重量時)
2,340m3,000m2,700m
着陸滑走距離860m1,800m1,650m

バリエーション

  • 民間型
    • Il-96-300:
      基本型。
      エンジンはアヴィアドヴィガーテリPS-90A(推力157kN)を搭載。

    • Il-96M:
      胴体を延長しエンジンと電子機器を西側のものにしたモデル。2名での乗務が可能となった。
      エンジンはP&W PW2337(推力37,000ポンド)を搭載。
      垂直尾翼は300型のものより小型化されている。

      • Il-96T:
        Il-96Mの貨物型。

    • Il-96-400:
      Il-96M/Tベースで、エンジンはアヴィアドヴィガーテリPS-90A1を4発搭載。
      Il-96M/Tと同じく、2人乗務が可能。

      • Il-96-400T:
        Il-96-400の貨物型。

      • Il-96-400M:
        Il-96-400Tベースの旅客型。
        2019年に初飛行予定。

    • Il-98:
      かつて研究されていた双発型。
      搭載エンジンとしてP&W PW4000やロールス・ロイス トレントGE GE90などが考慮されていた。

  • 軍用型
    • Il-96-300PU*3/PU(M1):
      背部に通信用のフェアリングを追加するなどの改修をしたロシア大統領専用機
      「空飛ぶクレムリン」の愛称を持つ。
      最新型のRA-96022では、胴体の前部と後部にそれぞれL370-2紫外線警告センサーとL140"Otklik"レーザー警報装置、LSZ100-1 DIRCMジャマーから構成されるLSZ101*4システムを搭載している。
      これはヘリなどの防御用として配備が行われているL370「ビテブスク」の発展型である。

    • Il-96-400VVIP:
      国防大臣の輸送用として用いられる機体。
      背部に通信用のフェアリングを設けている。

    • Il-96-400VPU:
      ロシア連邦保安庁(FSB)向け空中指揮機。
      窓を廃止して、背部に通信用のフェアリングを設けている。

    • Il-96VKP Zvero-3S:
      空中指揮機型。

    • Il-96-400TZ:
      空中給油機型。試作のみ。
      下部貨物室に燃料タンクを装備し、給油装置にはIl-78M-90Aと同じUPAZ-1Mを装備していた。


*1 リース機が中華人民共和国の中国新疆航空で使われた程度だった。
*2 現在までの販売実績はわずか28機である。
*3 ロシア語で司令所の意。
*4 LSZはЛазерная Система Защиты:レーザー防御システムの略。

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