【FN ハイパワー】 †
Fabrique Nationale Grande Puissance.(仏)
Fabrics National Hi-Power / Browning Hi-Power.(英)
ベルギーのファブリック・ナショナル社が製造する半自動式拳銃。
口径は9mmルガーが基本であるが、近年は10mmショートや.357SIG?を使用するものも存在する。
メーカー名を取って「FNハイパワー」と呼ばれるが、ジョン・ブローニングが基礎設計を担当したため、「ブローニング・ハイパワー」と呼ばれることも多い*1。
ブローニングの遺作*2として有名であるが、彼が試作した銃はストライカー撃発機構を備えたり、折り畳み銃床を標準装備したりするなど、当時としては前衛的すぎる設計であった。
これをFN社のサイーブ技師が現実的な設計へと変更して完成したが、それでも13発装填できる複列弾倉*3や、バレルリンクのないティルトバレルロッキングといった、革新的な機構を備えた銃であった。
これらの特徴はその後に登場した軍用拳銃のほとんどに踏襲されているため、近代軍用拳銃の祖と呼ばれている。
一方、他のオートマチックではやや珍しい、マガジンを抜いた状態ではトリガーがロックされるマガジンセイフティという安全装置も備えている。
これにより、薬室内に弾丸が残っていた場合の不注意な暴発を防ぐことが出来る。
特に装弾数の多さから
ベルギー軍やイギリス軍をはじめとして、多くの国が軍用拳銃として採用していた。
第二次世界大戦中は、生産設備を鹵獲したドイツが使っていた一方、カナダに亡命した技術者の手により、ジョン・イングリス社においてライセンス生産されていたこともあった*4。
SASや、日本の海上保安庁が使用していたことでも知られる。
世界的に人気が高く、ハンガリーやインドネシアなどではデッドコピー品も生産されていた。
しかしトリガーシステムがシングルアクションであるため、ダブルアクションの拳銃が主流である現代においてはその姿を消しつつある。
ハイパワーをダブルアクション化したHP-DAもつくられたが、M92やP220などの銃が普及した後であったため広まらなかった。
また弾倉を外すと発射できなくなるマガジン・セフティを備えているが、弾倉交換時に隙が生じ、また弾倉の表面が磨耗するという問題があり、この機構も軍用拳銃の主流とはならなかった*5。
ただし設計上優れたこの銃には、M1911と同様、いまだ愛好家が多いとされている。
スペックデータ †
口径 | 9mm |
全長 | 200mm |
銃身長 | 118mm |
重量 | 810g(銃本体のみ)/916g(弾丸装填時) |
ライフリング | 6条 |
使用弾薬 | 9mmパラべラム弾 |
装弾数 | 13発(標準弾倉)/20発(延長弾倉) |
作動方式 | シングルアクション ティルトバレル式ショートリコイル |
銃口初速 | 360m/s |
有効射程 | 50m |
主なバリエーション †
- M1935:
ベルギー軍制式採用品。
- L9A1:
イギリス軍制式採用品。
- P640(b):
ナチス占領下で生産された型。工員のサボタージュによりオリジナルよりも質を落とされたという。
- Mark1:
民間向け初期型。軍用型がリングハンマーを備えるのに対し、こちらはスパーハンマーを装備している。
- Mark2:
アンビ?化した大型のマニュアルセイフティを装備。
- Mark3:
現行型。
AFPBを取り入れて安全性を高めたタイプ。
- コンペティション:
射撃競技用に大型の照準器を備えたもの。
- プラクティカル:
使い勝手や耐久性を考慮し、ラバーグリップやクロムめっきを取り入れたもの。
ホルスターに引っかかりづらいよう、勾配型照星やリングハンマーを採り入れている。
*1 後にアメリカへ輸出された際には、ブローニング社が販売を担当した。
*2 完成を待たずしてブローニング氏が急死し、FNの技術者たちが後を継ぎ完成させた。
*3 それでいてグリップが細く握りやすいため、現在でも評価が高い。
*4 ジョン・イングリス製のハイパワーは、カナダで使われたほか、イギリスや中華民国へ輸出されている。
*5 実際に、マガジン・セフティを外して納入されることもある。